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素人おじさん バレエ奮闘日記 3冊目

1 :踊る名無しさん:2022/09/27(火) 08:39:47.99 .net
あなたの教室にもいるかもしれない…

東京の、プロダンサー養成をする黒崎バレエアカデミー、
大人のオープンクラススタジオのベルベット、
その他海外のバレエ団、バレエに関わるさまざまな人の物語。

主人公の会社員の田中さんが、二十代半ばでバレエを始めてから
約2年たった2002〜2003年ころの回想が進行中。
田中さんは現在、地方に転勤になりバレエを続けている。

○ルール○
名無しが適当にストーリーをつくり適当に投下していく完全暇潰しスレ。
連投も全然OK。
語彙力文章力一切問わず。
マニアックなバレエネタも大歓迎。

登場人物の追加やおじさんの設定を勝手に追加してもよし。
展開がカオスな方向へいっても自由ですが、
あくまでもバレエものなのでバレエから脱線しない。

>>2に注意事項と過去スレ。

364 :踊る名無しさん:2023/01/16(月) 17:54:05.75 .net
バレエ学校の生徒の教室掛け持ちを固く禁止している華山バレエ団では
ダンサーの仕事の範囲も制限されている。

S&Bバレエ団のように比較的新興のオープンな気風のバレエ団では
ダンサーたちは増え続ける大人向けオープンクラスや外部の講師をしたり
思い思いの場所に教室を開くこともできるし
各イベント参加や、ゲストとして踊るのもダンサーの自由だ。

しかし、老舗の華山バレエ団では
「せっかく華山で培った技術を外で安売りする裏切り行為」
とそのような仕事がタブー視されていた。

付属学校や関連教室以外で教えるのは禁止。
独立して教室を開くにしても、上層部の承認を必要なのはもちろん、
必ず、他の関連校と一定距離離れている立地でなくてはならない。

365 :踊る名無しさん:2023/01/16(月) 17:56:31.74 .net
ダンサーが舞台を去った後に、元華山バレエ団のキャリアを名乗るにしても、
年会費を払い続ける必要があったし、
バレエ団以外で踊るのにも、その都度、上層部へ報告承認が必要だった。

講師のニーズが最大限に高まっていた時期に
副業を制限された男性ダンサーたちが
次々離れていったのも無理はない。
バレエ団のパンフレットには20名ほどの男性ダンサーが掲載されているが、
半数は臨時に手伝いに来る元会員や学生で
メインキャストとして踊れるダンサーは少なかった。

華山バレエ団は、今、早急に男性ダンサーのテコ入れをする必要があったのだ。

366 :踊る名無しさん:2023/01/17(火) 10:14:36.17 .net
デジレ王子とルイスの面接を行うこととなったスタッフであったが、
デジレ王子に関しては自分がヨーロッパの小国メルヒェン王国の王太子で100歳を越えた妻といつの間にか生まれていた双子の娘がいるといったとんでもない話を聞かされて動揺したものの、
何十カ国語も堪能で、経済、政治、社会、宗教、文化にいたるまで高い教養を持っていることや、乗馬や宮廷舞踏、剣術が得意なことなど目を見張るものがあった。

(正直ちょっと抜けていて浮き世離れした天然君のイメージがあったが文武両道に才色兼備…。
まさか本当にヨーロッパの国の王子様がお忍びで…?)

ホストクラブに来る客にはいわゆるエリート層のマダムも多い。そうした客と対等に会話が出来るレベルでなければこの仕事は難しい。

「それでは次は貴方のお話をうかがいましょう」
「…あ! 俺か。 俺はメルヒェン王国のルイス。真っ昼間から仲間と俺特製の葡萄酒のんでお喋りする毎日だよ。
そしてなんといっても、村一大イベント、収穫祭の踊りの大トリはルイス様以外にいねえ! 俺が踊ると村娘たちは一瞬にして恋に落ちる! もちろん夜の方も凄いぜ…ニヤニヤ」

デジレ王子とはまた違った強い個性の持ち主だが、酒が強いところやムードメーカーな感じ、ホストクラブの仕事にも向いていそうだ。少々下品なところはあるが。

367 :踊る名無しさん:2023/01/22(日) 09:03:59.82 .net
大人バレエクラスから初のバレエ団入団者が誕生し、黒崎バレエアカデミーのホームページには有沢さんの華山バレエ団入団のニュースが掲載された。
大人バレエ界隈ではそれが噂になり、自分ももしかしたらと黒崎バレエの大人クラスに素人オジサン達が続々集まってきたのである。

368 :踊る名無しさん:2023/01/24(火) 22:30:37.46 .net
20代後半の大人の男性がバレエ団に入団。
それは宮間の耳にも入った。
子どもの頃に習い再開した人のようだが、それでも大人でありながらプロになった有沢さんの存在は宮間にとって希望となる。

宮間は思った。
大人まで入団を許してくれるのだから、きっと年齢だけで判断しないのだろう。
そう信じた彼は、体験レッスンであまり良い印象を抱かなかったにも関わらず、華山バレエ学校は良いところに違いないと自分に言い聞かせた。
しかしバレエ団とバレエ学校は違う。バレエ学校にずっといたとしても大人クラスの生徒にはガラスの天井があるのだ。
そうとも知らないまま、実質華山バレエ学校に騙されるような形で彼は入学を決意したのである。

369 :踊る名無しさん:2023/01/24(火) 23:25:49.48 .net
『初心者クラスからプロ』という言葉につられ
黒崎に集まってきた素人男性たちは目を輝かせて
元からいる生徒たちに聞いてきた。

「ここの初心者クラスからプロになった男性がいるんですよね!」
「ああ、有沢さん?
最初は黒眼鏡にジャージ着てて、なんだか冴えない人だったんだけどさー。
不思議なくらい急速に上手になっていったよね」

有沢さんが容姿端麗、中学生で全幕主役を務めたほどの経験があり、
ブランクの後再開してからはカリスマ教師の紗江子に目をつけられ
他の大人生徒とは比較にならないほど細かく指導されていた…
という背景は見事にスルーされていた。

「だったら俺たちだって、これからでもプロを目指せるよな〜!」
「がんばろ〜!」「おー!」
こうして素人男性たちはやる気をギンギンにみなぎらせるのだった。

370 :踊る名無しさん:2023/01/24(火) 23:52:16.74 .net
「最近、バレエコンクールもカラオケ大会化してるよね。
おっと、そんなこと言ったら怒られるか…」
地方赴任中の田中さんが通っている白王子バレエスタジオの
パパ先生は『プリンス・バレエコンクール』の話を聞いたとき
そう思ってしまった。

とはいえ、ゲストとして先生を招いている青芝バレエ団の主催。
公募のほか、青芝バレエ団とつきあいのある全国のバレエ学校や教室に
声をかけているらしい。
勿論、白王子バレエスタジオのボーイズにも。

371 :踊る名無しさん:2023/01/25(水) 12:45:46.08 .net
「パパ先生〜! 俺をプリンス・バレエコンクールに出させてくださ〜い!」

そんな矢先、白王子バレエスタジオで一番最初に参加を志望したのが田中さんであった。

「黒崎でくるみの王子でヴァリエーション出たことあるんで初めてじゃないですよ。
くるみの王子再挑戦させてください!」

やる気満々の輝く目を田中さんはパパ先生に向けていた。

372 :踊る名無しさん:2023/01/28(土) 01:11:28.09 .net
華山バレエ学校のエントランスには
若かりし頃の上原の写真が額縁に入れられ何枚も飾られていた。
華山バレエ団全盛期の正統派プリンシパルダンサー。その伝説のバレリーノが白黒写真の中で今も耽美に妖しく舞っている。
そんな美青年が、現在大人クラスを指導する、あの頑固で気難しい老人と同一人物であるとは到底思えないだろう。

上原は引退後、指導や公演作品の振付に徹することとなり、自分の後継者となれるようなダンサーを育てたいと密かに思い始めていた。
しかしそんな矢先、大人バレエクラス開設をきっかけに上原は生徒との年齢も近いからという理由でその指導担当を任され、その夢も封印するしか無くなったのだ。

373 :踊る名無しさん:2023/01/28(土) 16:26:12.58 .net
今回のバレエ団オーディションでは、華山のレパートリーである古典作品に相応しい容姿端麗のダンサー、技術の優れたダンサーも入ってきた。きっと舞台映えするに違いない。
上原はそうした若者が入団してくれたことを喜ばしいと思うと同時に、自分でもそんなバレエダンサーを育てたいとも思っているのだ。
今の自分には全幕の主役を踊れるスタミナや柔軟性も、観客を魅了する美しい容姿も、しなやかで締まった魅惑的で強靭な肉体もない。上原は若い頃の自分を再び別の誰かを通して蘇らせたかった。
それは華山バレエ団全盛期を復活させたい思いに等しい。

女性講師が担当の大人バレエクラスに宮間の姿をとらえた上原は内心安堵した。
上原が自身の後継者候補に選んだのが宮間であったからだ。目を付けた若者は体験レッスンを受けて以降一度も華山には来ることはない。けれど彼は入学をしたのだ。

374 :踊る名無しさん:2023/01/30(月) 23:40:57.25 .net
華山の大人クラスの生徒高野律子も宮間がいることに内心驚いていた。上原先生のクラスに来た若い男子は二度と来ないのがいつものこと。宮間も例外ではないと思っていたのだ。

「あの男の子…入学してくれたんだ」

あまり上手じゃない中高年大人生徒に囲まれてやるよりも、バレエが上手くて王子様のような美形バレエ男子と一緒のクラスで踊る方が張り合いがあるというもの。
そんな高野のような生徒がいる一方で、多くの大人クラス生徒や講師は少々宮間の大人クラス入学を煙たがっていた。

「…あの子、ここ入ってきたわけ?」
「なんか場違いよね…。
別の教室行くなりジュニアクラスに移るかして欲しいわ。大人クラスのこの緩い感じがいいのに。上原先生のクラス行くのやめようかしら」
「目指してるところがそもそも違うって感じよね。何をどう間違ってこのクラスにきたのかしら」

と大人女性生徒たち。

「おばさんクラスのいいところは、簡単なことさえ教えればやっていけたところなのに
あんなガチっぽい生徒、扱いに困るわ〜。最初はその気にさせとけばお金払ってくれそうって思ってたけど撤回撤回…」

と大人クラス担当バレエ講師。

大人クラス唯一の男性である田村さんは男子が入ってきてくれたことは嬉しかったが、発表会で自分のポジションが奪われるのではないかと複雑な気持ちだ。

375 :踊る名無しさん:2023/02/01(水) 23:42:07.18 .net
田村さんは現在66歳。
メタボリックを診断され医師からは生活習慣の見直しをするよう指摘を受け、何か運動をしなければとはじめたのがバレエであった。
もともと演劇やミュージカルに興味があり、大舞台を使い幕もの作品を踊れて芝居までできるバレエには近いものを感じたのだろう。
田村さんは発表会を機に、バレエの世界にのめり込んだ。

そして10年以上を経た。

今年も発表会のリハーサルがはじまる時期が近付いた。田村さんは内心ワクワクしていた。

「今年は何をやるんだろうな〜」

大人バレエクラス唯一の男性であった田村さんは、発表会では目立つ役を貰えバレエは出来ないがそのキャラクター性を活かして活躍していた。
時には支部教室の発表会に賛助で呼ばれることもある。既に定年退職をした田村さんにとって華山バレエ学校の大人クラスは第二の人生の場所でもあった。

376 :踊る名無しさん:2023/02/01(水) 23:55:04.37 .net
そして、田村さんの待ちに待った今年の大人クラスの作品が発表された。

「今回の発表会ですが、演目は『花咲爺さん』です!」

講師たちが自ら振付、選曲をし発表会を行うのは華山バレエ学校では珍しくない。
大人クラス担当の女性講師は日本昔話を題材にしたバレエ作品を創るのが好きで、昨年度は『したきり雀』であった。

「主役のおじいさん役は、田村さんにやっていただきます! 今年も名演技期待していますね!」
「ありがとうございます。頑張ります!」

田村さん似合いそうじゃない!
他の女性生徒たちも口々にそう言った。

「次にポチ役ですが、宮間くんにやってもらいます。全身白タイツで四つん這いになってもらうので楽しみにしてくださいね!」

そのとき周りがざわめいた。

377 :踊る名無しさん:2023/02/05(日) 01:20:24.79 .net
「大人の男性にポチをやらせるなんて…」
「それに、流石に過去に小役の女の子がやったときは全身白タイツではなかったわよ?
白いフリフリスカートで可愛かったわ」
「全身白タイツなんて、お尻も股間の膨らみも丸見えだわ…!いやーん!」

マダム達はひそひそと話し始めていたが、
宮間は配役をきいて呆然とした。全身白タイツ…四つん這い…?
いったい何がなんだか分からなかった。

宮間は所属していた地元教室では、素人男性でありながら一所懸命な態度と古典に相応しい外見の美しさでとても大事にされた。
発表会でも、一番彼の良さを引き立てる正統派の役柄をあてがわれ、まるで「お教室の王子様」であった。

378 :踊る名無しさん:2023/02/05(日) 11:57:52.12 .net
学生時代は背のひょろっと高いやせっぽち中村君だったが、爽やか鈴木君や熱心な田中君になんとなく引っ張られてバレエレッスンを欠かさず続けていたのだ
あるとき社会人S.C.D.のパーティーで久しぶりに会った学生時代の女友達から「見違えるように素敵になったわねぇ」と言われたのだった
姿勢が良くなったの?なんか感じが違うといわれ、照れ隠しに「お腹周りに貫禄ついたから?」と返したが
確かに肩幅が出て上半身がしっかりして上着にキルトにスポーラン、ハイソックス、ギリーというスコットランド伝統の服装でも違和感がやや減った気がした

379 :踊る名無しさん:2023/02/09(木) 21:56:22.67 .net
「お教室の王子様」は、
ここ華山バレエ学校大人クラスでは哀れな道化役である。担当女性講師の悪意もあるだろう。

宮間にとって
クラシックバレエとは優雅でハイソで貴族的な華やかな世界だ。こんなお笑い番組のようなことは信じられなかった。

「そもそも四つん這いなんて、絶対バレエじゃない……!」

宮間は無性に発表会出演がイヤになってしまっていた。誰が好んで大舞台で全身白タイツ姿を不特定多数に晒せるというのか。

380 :踊る名無しさん:2023/02/13(月) 22:25:40.16 .net
歌舞伎町では、麗奈が働くビアンバーでイベントが催されていた。女性であれば誰でも歓迎、男性は同性愛カップルであれば参加が可能だ。

麗奈に誘われてやってきた百合は慣れない雰囲気に少々戸惑いつつも、麗奈の姿を見つけて安堵した。

「麗奈ちゃん!」
「百合ちゃん、来てくれたんだ! ありがとう」

グラスをふく麗奈の目の前、カウンター席には二人の男性がおり、どうやら雰囲気からして百合がくる前に彼等と麗奈はお喋りをしていたようだ。

「このお客さん達もバレエやってるんだって。バレエ談義で盛り上がってたところよ!」

二人の男性客は、高瀬蓮と有沢啓徒であった。

「はじめまして」

二人が百合に挨拶すると、百合は有沢さんを見て驚き、思わず「ジェイムズさん…?」と訊ねた。なんせ有沢さんは自分のお得意様であったジェイムズに似ているからだ。

381 :踊る名無しさん:2023/02/13(月) 22:28:27.64 .net
「ジェイムズさんは姉の夫なんです。ワイズウェル家が有沢家と遠い親戚らしくて…それで似てるのかな?って…」
「そ、そうだったのですね…失礼しました。あの、ジェイムズさんは元気にしていらっしゃいますか?」

百合はジェイムズとの日々を懐かしみながら、有沢さんに訊ねた。

「滅多に連絡は取らないのでなんとも。
家族と関わるとお互いに厄介というか…。ジェイムズさんは悪い人じゃないけど、僕は姉が本当に苦手で…今もイギリスにいると思う。
ただどうしているかまでは知らないです」
「そうですか…」

少し残念だなと思いつつ、
有沢さんに配慮してそれ以上彼の家族の話題は避けることにした。

「啓徒くんは最近華山バレエ団に入団したんですって! しかも大人でプロになったバレエダンサーってバレエ界隈では話題になってるの」
「大人で!? プロのバレエダンサーって子どもからやってる人しかなれないと思っていたんで驚きです…!」

百合は目を輝かせた。
自分も今から頑張ってバレリーナになれるかしら?と。
ジェイムズのいる世界に少しでも近付いてみたい。舞台の上で美しいプリンセスになってジェイムズと踊ってみたいという憧れが百合に芽生えた。

382 :踊る名無しさん:2023/02/22(水) 00:33:06.69 .net
田中さんはプリンスバレエコンクールの為に白王子スタジオのヴァリエーションクラスに参加していた。
ヴァリエーションクラスは毎週日曜日の特別クラス終了後にあり、そこにはコンクール生やヴァリエーション大会に参加する子どもたちが沢山いた。
その中で大人は田中さん一人だけだ。

「パパ先生、よろしくお願いします!」

田中さんの踊る曲は『ジゼル』のアルブレヒトのヴァリエーションだ。
最初はくるみ割り人形の王子に挑戦したかった田中さんであったが、パパ先生と自分の課題も吟味しつつ相談し決めたのがこの曲である。

383 :踊る名無しさん:2023/03/03(金) 21:38:54.71 .net
私は素人バレエおじさんコレクター。

数多くのオープンバレエスタジオへいっては、素人バレエおじさん達を観察するのが趣味だ。
そしてコレが私が出会ったおじさん達を記録したノート、素人バレエおじさん観察帳である。

皆さんには、私のコレクションを紹介していきたいと思う。

384 :踊る名無しさん:2023/03/04(土) 10:24:35.98 .net
私は知り合いのいる老舗バレエ学校の発表会に招待され、市営の大ホールに向かった。
数多くの生徒数を誇る老舗だけあって、発表会の規模も違う。観客もかなりの数だ。

知り合いは大人の女性で、子どもの頃憧れて習えなかったが現在は主婦をしながらバレエを習っている、大人バレエの典型的なタイプだ。

「大人バレエでもこんな大舞台で踊れるなんて凄いな。それにヴァリエーションまで」

一昔前は大人バレエクラス自体そもそも無かったり、出せるレベルでないからとヴァリエーションなんてとんでもないという感じであったが、今はそういうわけでもないらしい。

私は大人バレエのヴァリエーションというのがどういうものか少し楽しみにしつつ客席についた。

385 :踊る名無しさん:2023/03/08(水) 07:27:43.06 .net
これでもか!ってくらい場所や生徒の名前が沢山
コロコロし過ぎじゃない?
無理して話展開させなくても
死んだ人が生きてたり話が繋がらず滅茶苦茶でちょっと

386 :踊る名無しさん:2023/03/08(水) 13:04:19.88 .net
>>384

プロのバレエの舞台は何度か観たことがある。
けれど素人の踊りというのも逆にハラハラさせたり、自己投影して応援したくなったりとプロの舞台では味わえない面白さがある。

まあプロの踊りに見慣れている自分にとって、バレエのような何かであったが、とはいってもさほど酷いというものもない。
初心者であればこんなものか、と思える程度だ。

だが彼の登場によって、
ホール中が唖然となった。

幕から登場した少々小太りでがに股のおじさんが、ヨタヨタという足取りで板付きに現れたのである。

387 :踊る名無しさん:2023/03/08(水) 13:17:42.54 .net
ホール中が…というのは少々オーバーな表現であったかもしれない。
だが私は彼が現れた途端、一瞬にして周りの空気が変わったような錯覚を覚えたのだ。

田村さんというそのおじさんは、
『白鳥の湖』のジークフリード王子のヴァリエーションを踊るようだが、
太い脚を覆う白タイツが妙に生々しかった。
私は思わず唾を飲んだ。

動きが全くクラシックバレエでもない。かといって何か別ジャンルのダンスでもない。
ただクラシックの軽快なメロディーから外れた動作で「動いている」のである。

388 :踊る名無しさん:2023/03/08(水) 21:26:09.72 .net
決してうまいとは言えないのだが、私は田村さんの踊りに見入ってしまった。
逆にあまりの壊滅的な踊りが、私の感性を刺激したともいうべきか?

私が素人おじさんコレクターとなったきっかけを作ったおじさん…。
そのおじさんこそが田村さんである。

389 :踊る名無しさん:2023/03/08(水) 21:34:14.74 .net
「で、大人クラスのヴァリエーション参加がNGなのは、何も昔からとかそういうんじゃないのよね〜」

華山バレエの大人クラスでは、噂好きのマダムたちでかたまって今日も楽しくお喋りをしていた。

「これは噂だけどさ。田村さんの踊りがあまりに酷いって、上原先生と校長が激怒したらしいの…。
プロを目指すジュニアの親御さん達も、あんなのをみせたら下手が移るとかなんとか…」
「だけどさ、何も田村さんの踊りが酷いからって大人クラス全員巻き添えなんて酷いはなしよね!」
「本当にそうよ! 私だってオーロラ姫踊りたかったのに!」

自分のことは棚に上げるのは毎度のことである。

390 :踊る名無しさん:2023/03/11(土) 10:24:52.13 .net
本当は上原先生も校長も、大人のバレエという見苦しいのにソロの舞台出演を許される立場をあまりよく思ってはいなかった。
子どもならば、ヴァリエーションはある程度の基礎が出来た者のみが許されるが、大人はそうではない。
だが子どものバレエとは違いプロを目指すわけでもないことや、あくまでもお金を落としてくれるお客様という立場である故、不満でも黙っておくしか出来なかったのだ。

それが田村さんの踊りがあまりにも評判が悪かったので、それを口実に大人バレエクラスのヴァリエーション出場は全面禁止となったらしい。

391 :踊る名無しさん:2023/03/11(土) 15:54:34.50 .net
そのころオオツマ家具社内では、経営陣である兄弟の間で修復しがたい決裂が起き、
大手電機量販店の『シマダ』に吸収されることになった。

黒崎バレエアカデミーに所属していた元プロダンサーであり社長のオオツマ氏は
数字度外視で、おしゃれな事業を展開するのを好んだ。
しかし実際には現場にいることも少なく、大きなビジネスを遂行するのに必要な
計画性もコミットメントが欠如していたため
徐々に社内での不評を招くこととなる。
とりわけ、経理を統括し、綿密な事業計画を大事にする兄とは
常に意見が衝突していたのである。

社長職をあっさりと退いたオオツマ氏は、多くの財産を受け取り
若い妻と二人の子供とともにドイツに暮らしている。

392 :踊る名無しさん:2023/03/11(土) 15:55:13.44 .net
「華山バレエ学校ねえ…」
黒崎バレエアカデミーの講師陣は事務所で噂しあっていた。
毎年、黒崎バレエアカデミーには華山バレエ学校から発表会チケットとパンフレットが送られてくる。
数十年来の義理で、ロビーに飾る豪華なスタンド花を贈り、
黒崎のスタッフが数人で観に行くのである。

華山バレエ学校と黒崎バレエアカデミーは、かつては東京で勢威をきそった二名門。
名実ともにいずれ劣らぬ老舗バレエ学校としての地位を築いてきた。
それも、今となっては昔話となりつつある。

黒崎バレエアカデミーが、ワガノワメソッドを採用してロシアやヨーロッパから講師を招聘しつつ
海外経験豊富な若い講師を採用し、ジュニア育成強化をしてきたのに対し、
華山バレエ団のほうは独自のメソッドや運営方針を貫いてきた。

他の教室との掛け持ち禁止、バレたら破門、
という囲い込みの厳しい華山の運営方針は時代にそぐわないものになっていたし、
20年前はスターとしてもてはやされていた上原のパワハラ気質な性格や、
所属ダンサーの他所への客演、指導、独立には審査承認が必要といった拘束は
徐々に男性ダンサー離れを引き起こした。

393 :踊る名無しさん:2023/03/11(土) 15:56:15.68 .net
「80年代、90年代前半までは華山が押しも押されぬ国内トップのバレエ団だった。
公演数も断トツに多かったし…。
だけど、年々劣化が止まらないのは見るに忍びないわ」
「学校の発表会の演目が『花咲じいさん』ですってよ?!生徒も可哀そうに…」
「演出も振付も古臭いっていうか、オリジナルに固執しすぎて。
いまだに華山バレエのブランド力を信奉しちゃっている古いバレエファンは多いけどね」

「あら、でも桜のシーンの女性群舞は完璧にそろってて見事だったわよ?」
「ああ、あれねー」
講師たちは顔を見合わせた。華山バレエ学校の女性群舞。目に浮かぶようである。
「張り付いたような笑顔や、クセ強めの首の角度まで一緒でしょ?
あそこ女性は華山出身者ばかり。外部との交流も少ないし、みんな同じ踊り方なのよ」

394 :踊る名無しさん:2023/03/11(土) 16:07:31.05 .net
「時代は変わったのよ。
今の国内のバレエ団は新興のS&Bバレエ団かCバレエ団の二強ね。
どちらもディレクターは海外でのバレエ団経験長いし
留学経験のあるダンサーがこぞって入ってるわ」

「有沢くんも、華山になじめればいいけどねえ。
あの子、ちょっと心身ともにスタミナ不足に見えたから…」

紗江子有沢さんの姿を思い出した。
まっすぐ伸びた美しい背中や脚。どんな動きでも自然にこなすコーディネーションの精度。
10代のころによほど良い訓練を受けていたのだろう。
黒崎に入ると数か月でみるみる上達していった。

ただ、高瀬蓮のように、粗削りながら「何がなんでも物にする」という
ダンサーらしいほとばしるような情熱は感じられなかった。
ふっとどこかへ消えていきそうな影の薄さが気になっていた。

395 :踊る名無しさん:2023/03/11(土) 16:40:39.70 .net
『プリンス・バレエ・コンクール』は地方の青芝バレエ団主催で開催される。
コンクールと言っても、話題作りと出演者集めのための
ババ先生曰く「カラオケ大会的な」イベントである。

「練習会だと思って気楽にね!」
白王子バレエスタジオのパパ先生がボーイズに声をかける。
「先生、やっぱりコンクールはイケメンのほうが有利なんでしょうか?」
田中さんはワクワクした表情で聞いてくる。
愛嬌のある顔の田中さん、そこそこ舞台メイク映えはする自負があるのだ。

396 :踊る名無しさん:2023/03/11(土) 16:47:04.25 .net
「えーっと、顔もいいほうがいいけどね」
パパ先生は苦笑いする。

「コンクールの審査は、テクニック、容姿、音楽性、将来性など細かく項目に分かれてるんだ。
審査員は一般の観客と違って、基本、脚を重点的に見てるよね。
特に重視されるのは、ターンアウト、ポジション、ひざ、つまさき…」

「げげっ!」
ターンアウトに、ひざ、つまさき…だと?
それは…俺が一番苦労していることじゃないか。

みんな幼少からバレエに慣れすぎていて、肝心なことを忘れているのだ。
ひざを伸ばすことより、ポジションに入れることより、
舞台にはもっと大事なことがあるってことを!

王子様なりきり度とか…!
高貴な魂と愛のきらめきとか…!!!
観客の心を射抜く目力とか…!!!

「ど、どうしたの田中さん、その目…」
「審査員にアピールするための目力を出しているんです!」
「そ、そうか。Mr.ビーンの真似かと思ったよ…」
白王子ボーイズたちのコンクール練習は順調に進んでいた。

397 :踊る名無しさん:2023/03/11(土) 20:40:44.58 .net
田中さんがコンクールで踊るのは、アルブレヒトのヴァリエーション。
正面のシャンジュマンから入るくるみの王子の踊りは、
5番プリエでポジションのまずさや、曲がった脚のラインが目立つ。

ダイアゴナルに舞台を横切る振付のアルブレヒトのほうが
得意?のドラマチックな表現もしやすいし、テクニックのまずさをカバーできるのではないか。
パパ先生がそう言って提案した曲の一つだ。

「アルブレヒト…これは今までにない難役だぞ。
いつだってハッピーな王子様な俺が
こんなメランコリックな役どころに挑戦する日が来ようとは」
そして、田中さんは考えた。

398 :踊る名無しさん:2023/03/11(土) 20:41:00.95 .net
純粋なジゼルの心をもてあそぶなどと
ピュアなジェントルマンの俺がするわけがない。
さらに、女性を裏切り呵責の念に苛まれる。
そんなヘビーな恋愛経験は一度もない。

いや、まて。
記憶をさかのぼってみれば。
俺は数年前に恋をしていた。
あれは、バレエを始める前だ。

めぐり逢えたね
待っていた運命の人に
広い世界で一人だけ
大切なあなた

俺は、結婚雑誌『ドゥーエ』を熟読し、結婚式までの綿密なシミュレーションを行い、
デパートでダブルベッドやパジャマ、食器やタオル等の買い物リストを作り
毎日、微笑みながら(ニタニタしながら)
彼女との新生活を思い描いていたのだ。

399 :踊る名無しさん:2023/03/11(土) 20:41:29.15 .net
ある日、俺は重要なことに気が付いてしまった。
まだ彼女に、告白もしてなかったことを!

そして、意を決して彼女を呼び出し、照れながら(デレデレしながら)告げた。
君がとても好きなんだ。今日にでも明日にでも結婚しようと。
なのに…
「もっと男らしい人が好き」と…
あっさり振られてしまった…。
緊張のあまり、ろくに話したこともない女性に
いきなりプロポーズするのはまずかったかもしれない。
俺の脳内ではすでに結婚間近の婚約者だったのだ。

夢を見ていたのだ。
望みは高く、生きる喜びに満ち溢れ、
愛は報われるのだと。
神に祝福されたもうと。

400 :踊る名無しさん:2023/03/11(土) 20:42:35.93 .net
おろかな幻だ。
俺は死にはしなかったが
やぶれかぶれな気分で「男らしく」なるために空手を習ってみた。
まったく物にならなかった。
そればかりか屈強な男の世界が苦手になった。

空手道場を去り、そのとき見かけたのが、
軽やかに笑いさざめくバレエ少女たちだった。
「ん? 俺、格闘技よりは、そっち側の人間じゃね?」
そう思ったのが、バレエを始めたきっかけだ。

アルブレヒトは、本当にジゼルに恋をしていたかもしれない。
ただ身分が違っただけで。
貴族の娘と結婚する自分の立場を放棄できなかっただけで。
あの時の失恋の痛みをもってすれば
俺も憂えるアルブレヒトを踊れるかもしれない。

401 :踊る名無しさん:2023/03/11(土) 20:44:34.67 .net
「田中さん?どうされました? 今日は珍しく元気ないですね」
会社では、隣の席の同僚の男性が話しかけてきた。

「すみません…愛する人を失ったときのことを、思い出してしまって…
すいぶん前のことなのに…」
田中さんは苦悩の表情を浮かべた。

「でも、俺にはどうすることもできませんでした…」
ジゼルを失い悔やんでも悔やみきれないアルブレヒトのように、
田中さんは眉をひそめて遠くを見つめた。

402 :踊る名無しさん:2023/03/11(土) 20:45:43.83 .net
「それは…お気の毒でしたね。時が解決してくれますよ…」
同僚は心から同情してくれた。
「僕も、飼っていたインコのピーちゃんが亡くなったあとは
しばらく立ち直れませんでした…」
「そうなんですか…ピーちゃん、可愛いかったでしょうね…」
「ええ、どうして、もっと早く病院に連れて行ってあげなかったんだろうか。
もっと大事にしてあげなかったんだろうかと…」

同情はポロポロと涙をこぼし始めた。
「僕は、ピーちゃんを救えなかった。ピーちゃんは俺だけが頼りだったのに…!!!」
「泣かないでください。俺まで泣いてしまいますから…!」

「あそこ、何やってんの?」
「さあ? 悲しい過去を慰め合ってるみたい」
会社の女性たちは泣いてる男性二人を冷めた目で見守っていた。

403 :踊る名無しさん:2023/03/12(日) 10:31:07.21 .net
華山バレエ事務所内では大人バレエクラスに新しく入った宮間の話題もあがっていた。

「発表会お疲れ様です」
「お疲れ様でした! 裏方は大変でしたね…」
「本当にそれ。
新しく入ったイケメン君、宮間君だっけ。ポチの役なんて気の毒だったわね」
「まさかあの美青年にポチを踊らせるなんて、もっといい使いどころあったでしょうに」
「どうも担当の先生が宮間君のことあまり好きじゃないみたい」

事務員たちは苦笑いを浮かべた。
大人バレエクラス担当講師は大のイケメン嫌いだ。噂ではイケメンな男にいい思い出が無いらしい。

「彼女の元カレもハンサムな男性だったし、まあどういう事情か察しはつくけど…」
「さすがに酷いわ。あの子には罪無いのに。
若い頃の上原先生を彷彿とさせるストイックな子に思えたわ。上手に育てればみるみる上達するはずよ」
「プライドが高そうなところもちょっと似てるかも…」

一同は頷いた。

404 :踊る名無しさん:2023/03/12(日) 22:53:04.16 .net
田中さんには、インコのピーちゃんの死を嘆く同僚の姿と
墓の前で嘆くアルブレヒトの姿が重なって見えた。

愛する者を失うことは、
ただ悲しい、寂しいだけじゃないのだ。
無力感や後悔、自責の念のかられ、
自分の生き方やこの世での立ち位置まで揺らいでしまう。

「おお〜!すごく切ない表情になってきたね、田中さん」
白王子スタジオで田中さんは、パパ先生も驚きの深い表現を見せていた。
「そういう表現ができるのは、田中さん、さすが大人だねえ」
パパ先生の言葉に小中学生ボーイズもうんうんとうなずいている。

405 :踊る名無しさん:2023/03/12(日) 22:53:48.30 .net
やはり! 俺は!
生まれながらのダンサーなのだ!
お子様ダンサーにはない演技力があり、色気があふれてしまう!
コンクールの審査員たちも俺に惚れてしまうだろう!

もしかして、コンクール優勝しちゃうかも?!
優勝しなくても、2位か3位くらいに入っちゃうかも?!
と、田中さんはコンクール入賞の自信を深めていった。

「で、肝心の踊りだけどね、
カプリオール降りたらエファッセの軸足が完全にタテになってるよ。
気持ち正面気味に開いてもいいかな。
いや、それだと腰が開きすぎだなので、膝を開いてね」

こんなにも踊る心がある人が、骨格ゆえに基本的な技術が伴わないとは、
バレエとはつくづく残酷なもんだ、
と思いながら、パパ先生はそれを口にするのはやめておいた。

406 :踊る名無しさん:2023/03/12(日) 22:54:08.89 .net
あれは17年ほど前、有沢さんがまだ小学生のころ、
初めて華山バレエ団の公演に連れていってもらったときのこと。

まだ海外へ行くダンサーも少なかった80年代、
国内のバレエ少年少女の憧れと言えば、華山バレエ団だった。

「今のうちに、上原京志郎(うえはら・きょうしろう)の踊りを観ておいたほうがいい」
所属していた向村バレエ学校のマミー先生がそう言って、希望者を募った。

どんなカリスマダンサーも、ピークの輝きはそう長くはない。
子供たちにこの時代の最高のものを見せておきたい。
そう思ったのだ。

そして有沢さんは、マミー先生の引率で他の小学生生徒と一緒に
遠足気分で電車に乗って、上野まで華山バレエ団の公演を観に行った。

407 :踊る名無しさん:2023/03/12(日) 22:55:53.06 .net
上原京志郎は、本名ではない。
本名は、上原巌(うえはら・いわお)といういかめしい名だ。
当時流行っていた時代劇の『眠狂四郎』から取って
団長が付けた芸名だ。

『日本バレエ界史上最高の美青年』
『観た者はたちどころに恋に落ちる』
そんな煽り文句とともに
上原は華山バレエ団の顔として大々的に売り出され、
そのころの華山バレエ団は黄金期を迎えていた。

小学生の有沢さんは上原の舞台に衝撃を覚えた。
「あの人のまわりの空気だけが、柔らかく輝いて見える」
「あの人が微笑むと会場中が幸せになり、あの人が嘆くと会場中の心が痛む」
出演者と観客の境界線が溶けて、物語の世界に同化していく。
そんな経験はあとにも先にも、あの舞台だけだ。

それは本当に神に愛されたダンサーが
限られた時期に舞台で放つことのできる
圧倒的な生命の輝きだった。

408 :踊る名無しさん:2023/03/12(日) 22:57:10.02 .net
有沢さんは初めて華山バレエ団の朝のバレエ団のクラスに参加した。
女性の数が多くて、男性は二人の先輩以外は
今回入ったばかりの数名だけ。
ほとんどの男性メンバーは公演の前にだけ来るらしい。

有沢さんたち新入りがキョロキョロしていると、
先輩の男性の一人がバーの位置を指定してくれた。
「他の男性たちが来るときにはなんとなくこの辺り、窓際についてることが多いよ。
あっちの鏡の前は、固定メンバーが決まってるから、真ん中のほうに入るならここ」

厳密には決まってはないが、なんとなく決まっているのがバレエ団のバーの位置。
この見えないルールの見極めは新入りには難しいのである。

409 :踊る名無しさん:2023/03/12(日) 23:01:42.04 .net
いったんレッスンが始まれば、バレエクラスの進行は同じだ。
新入りのメンバーたちは、他のダンサーたちの強い視線を感じていた。

いい男の子が入ってきたんじゃない? あの二人…
うーん、彼は、もう少し、筋力がつけばいい役がつくわね…
何人かは趣味レベル、男子不足だからあれで入っちゃうのよね…
いつまでもつのかしら。合わなくてわりとすぐにやめる子多いよね…

あからさまな態度には出ないようにしているが、
団員達はみな新しいメンバーの品定めをしていた。
有沢さんは特に、皆の注目を集めていた。

410 :踊る名無しさん:2023/03/13(月) 12:23:52.92 .net
発表会は無事終えることができた。
ポチの役なんてどうなるかと思っていたが、なかなか新鮮で楽しかったかもしれないと宮間は感じた。

舞台が年に二回ある華山バレエでは、もうすぐに次の演目が決められるため内心ウキウキしていた宮間。だが…

「え? 振付担当が上原先生……。
あんなおっかない人とはもう関わりたくなかったのにな…」

宮間はどんよりとした顔で、掲示板に貼られたプリントを眺めた。

夏の発表会では小品集とヴァリエーション、GPDDが行われるが、ここ華山バレエでは大人バレエクラスは小品集のみだ。
更に人数の関係から幾つかのグループに分けられ、それぞれ振付担当も違う。

「で、演目は……」

「『レ・シルフィード』より夜想曲」
一度だけ映像でみたことがある。ロマンティックチュチュのシルフィード達と共に詩人の青年が踊る幻想的で優雅な、ショパンの繊細で美しいメロディーが織りなす作品である。

411 :踊る名無しさん:2023/03/15(水) 20:45:14.89 .net
大人バレエクラスのマダム達もプリントに目を通すと、

「あら、レシルなんて素敵ね! 一度踊ってみたかったのよ!」
「上原先生はこういう優雅な曲を好むから。宮間くんもきっとこういうの似合うわね」

突然横にきたマダムにそう言われて、「あ、はい」と生返事をする。

発表会を共に経験したからなのか、今まで距離のあった彼女達とも幾ばくか打ち解けたようだ。

412 :踊る名無しさん:2023/03/19(日) 12:49:11.06 .net
百合は一人アイルランドに訪れた。
ジェイムズ・ワイズウェルにそっくりな有沢さんに出会ってから、ジェイムズとの日々を思い出し彼のことが忘れられなくなっていた。

「……」

ジェイムズが主役として踊る舞台を観に、遥々日本から慣れない海外へと飛び出した百合。
英語もよく分からなかったがなんとか劇場までたどり着くことができた。
劇場には大きなポスターが貼られ『Cinderella』とタイトルが確認できた。

シンデレラ…日本でも有名なおとぎ話。
ポスターの中では巨大な時計を背景に、まるで妖精のような外見のプリマが白のチュチュを纏って背中を向けている。

「綺麗な人… 本当にお姫様みたい…」

羨望の眼差しを向けたのは彼女の美貌だけが理由ではなかった。
自分もバレエを上手に踊れたら、お姫様になってジェイムズとパ・ド・ドゥを踊りたかったという気持ちがあったからだろう。

「あなたの近くまで行けたのに、なんだかまた遠くなってしまった気分」

413 :踊る名無しさん:2023/03/21(火) 07:23:47.68 .net
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