【毎日新聞/記者の目】南シナ海領有権問題　ベトナムを訪れて感じたこと　中国は共存姿勢示せ　河津啓介（外信部）[1/28]

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　　・中国は共存姿勢示せ

　緊張が続く南シナ海問題の最前線で、国と国との対立に翻弄（ほんろう）される人々の姿が深く印象に残った。年末年始の
朝刊１面などで連載した「チャイナ・センセーション　第１部　一帯一路の行方」の取材で先月上旬、南シナ海に浮かぶ
ベトナム中部のリーソン島を訪れた。

　中国とベトナム。隣接する両国は経済で深く交わりつつ、南シナ海では領有権を巡って激しく争う。島の漁師たちは、
両国が領有権を主張し合う南沙（ベトナム名チュオンサ）諸島、西沙（同ホアンサ）諸島の海域で代々操業してきた。だが、
５年ほど前から中国船による襲撃が激しくなっているという。

　　・国家対立の矢面、暴行受ける漁民

　ベトナム中部のサーキ港から高速船で約１時間。本土から約２５キロ沖合にある人口２万人余の島の港に下り立つと、重油や魚、
特産のニンニクのにおいが鼻をつく。人なつっこい島民の笑顔に和んだのは一瞬だけ。カーキ色の制服を着た政府職員から事務所に
来るよう促され、くつろいだ気分は霧散した。

　政府職員は私にパスポートの提出を求め、「目的は」「どこから来た」と質問攻めにしてきた。地元ガイドによると、１、２年前から
来島者の管理が厳しくなり、外国人にはパスポートチェックも始まったという。南シナ海で高まる緊張は島の暮らしに影を落とす。

　取材した漁師たちは、中国船から体当たりや放水などの妨害行為を受け、漁船に乗り込んできた中国人から殴る蹴るなどされる
様子を証言した。中国人は時に電気ショック棒まで使って脅し、取った魚や漁具などの装備を奪い去るという。３０代の漁師は
「先輩から『ひどい目に遭うから、抵抗せず両手を上げていろ』と教えられた。初めて襲撃を受けた時は本当に怖かった」と話した。
木造の漁船は、鋼鉄製の中国公船には歯が立たない。できるだけ早く中国船を見つけ、急いで逃げるしか方法はない。

　島の安全保障上の重要性が高まったことから、ベトナム政府は近年、インフラ整備に力を入れている。１年半前まで島内の電力は
発電機頼みだったが、本土との間に海底ケーブルが敷設され、２４時間の電力供給が始まった。

　取材で訪れた時も、あちこちで重機が稼働し、島の周囲には高さ１・５メートルほどのコンクリート壁を築く工事をしていた。
通りすがりの島民に「防波堤ですか」と尋ねると、相手は首を振りながら「荒波の来ない場所にも造っているから、領土問題に
関係しているのではないか、と皆でうわさしている」と語った。中国の圧倒的な存在感は、のどかだった島のありようを変えていた。

　　・巨大経済圏形成、信頼あってこそ

　島民によると、１７世紀ごろから歴代のベトナム王朝が南シナ海の防衛のため、島から西沙諸島に向けて遠征隊を派遣してきた
歴史があるという。漁師には「祖国の海を守りたい」との思いが強い。それでも、島民の表情には国家の対立に日々の暮らしが
左右されることへの戸惑い、不安がにじむ。

　そもそも、南シナ海問題は非常に複雑だ。中国が突出して広範囲の領有権を主張しているが、ベトナム、フィリピン、マレーシアなどが
主張する領有権も重なり合っており、中国が手を引くだけで万事解決するわけではない。

（>>2以降に続く）

毎日新聞2016年1月28日
http://mainichi.jp/articles/20160128/ddm/005/070/045000c

【毎日新聞/記者の目】南シナ海領有権問題 ベトナムを訪れて感じたこと 中国は共存姿勢示せ 河津啓介（外信部）[1/28]

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