※ロシアの宇宙開発事情に詳しい秋山豊寛・元TBS宇宙特派員(A)に、筆者(S)がインタビューした記事より抜粋 S 「ほんとに常識なんですか」 A 「みんな知ってるよ、宇宙飛行士なら。だから、プーチンがああ言ったのも、とくに『報復』を意図したものじゃなくて、ただ口が滑っただけかもしれない」 S 「いつからご存知なんですか」 A 「ロシアで宇宙飛行士の訓練を受けてるときに知った。訓練を始めて5〜6か月後かな」 S 「訓練を受ける前は知らなかった?」 A 「そうだ。私も『月面着陸神話』を信じ切ってた(笑)」 S 「タブーじゃないんですか、『神話』をこわすのは?」 A 「表向きはタブーだ。でも、この虚構を理解できないやつは宇宙飛行士じゃない」 S 「ロシア人宇宙飛行士から聞いたんですか」 A 「そうだ」
A 「・・・重要なのは、SF映画に出て来るような上品な着陸方法は、ロシアでも米国でも絶対にできないってことなんだ」 S 「上品な着陸?」 A 「お尻を地面に向けて、エンジンの噴射を少しずつ弱くしながら垂直に降りて来る」 S 「ああ、わかります。『サンダーバード』の1号も3号もそうやって戻って来ますね」 A 「そんなの、地球上のどこでも実現してない。アポロ計画でも10号まではぜんぜんやってない。なのに、11号になると急に、月着陸船が垂直噴射しながら月面に降りたことになってる」
S 「でも、月面上は重力が地球上の1/6だから可能だ、とNASA(米航空宇宙局)は説明してるようですが」 A 「重力が弱くても、空気がないから」 S 「空気?」 A 「月面では空気抵抗がない。だからパラシュートは使えない」 S 「でも、とにかく重力が1/6だから、って、日本の宇宙開発関係筋も説明してますよ」 A 「百歩譲って理論上可能だとしよう。でも、事前に実験してないよね」 S「え? いや、あの11号の着陸自体が実験みたいなものでしょう?」 A 「ぶっつけ本番?」 S 「ええ」 A 「有人飛行で?」 S 「有人?」
A 「ロシア(ソ連)のルナ2号は無人宇宙船だったから、軟着陸に失敗して 月面に激突してもどうってことなかった」 S 「激突したんですか」 A 「もちろんだ。ロシア人の宇宙飛行士はみんな苦笑しながら認めたよ」 S 「じゃあ、失敗なんですか」
A 「無人だから軟着陸できなくても人は死なないし、とにかくロシアが先に 宇宙船を月に到達させたという実績は残る。だから失敗じゃない。 でも、米国の場合は有人飛行だから、失敗して激突すれば宇宙飛行士が 死んで、米国の威信は地に落ちる……というか、月に落ちる(笑)。 そんな危険なことを、事前に予行演習もせずにやれるかね?」
S 「しかも世界中で生中継してますからね」 A 「そうだよ。地球上でも月面上でも一度も成功していないアポロの 『お尻噴射型』垂直着陸を、人を乗せて、ぶっつけ本番で国家の威信を 賭けて、全世界に生中継しながらやったんだ。もし失敗して宇宙飛行士が死んだら、全世界に『死んだ』というニュースが流れる。イチかバチかの大ばくちだ。会社の経営なら(当時のNASA幹部は)背任罪じゃないの?」 S 「なるほど。そう考えるとありえないですね」 A 「ありえないよ、絶対に、国家の威信を賭ける場面では」
A「一般大衆は専門知識がない」 S「西側の科学者にはあります」 A 「当時のソ連には言論の自由も学問の自由もなかった。国営放送は大凶作 でも『豊作』って報道するし、学者も……たとえばルイセンコなんていうヘン な学者が独裁者スターリンを後ろ盾にしてデタラメな遺伝学を唱えたりしてた。ソ連は国内的にも対外的にもウソをつき続けてたんだ、『社会主義体制のもとで、人民はみんな幸せ』ってね」 S 「いまの北朝鮮みたいに?」 A 「そのとおり。だからソ連は(ルナ2号の)『激突』を『着陸』と発表することぐらい、どうってことないと思ってた。西側の記者が現地取材して確認する心配もないし(笑)」 S 「なるほど。いつも大ウソつきのソ連が『米国の月面着陸はウソ』と 言えるはずがない、と思ったから米国は堂々と ウソをついたんですね」 A 「そうなんだ。それに、ソ連が米国のウソをばらすと、 ソ連のルナ2号も実は『激突』だったとバレるしね」 S 「ようやく納得できる御意見を頂きました」