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自分でバトルストーリーを書いてみようVol.31

1 :気軽な参加をお待ちしております。:2010/11/20(土) 22:42:15 ID:???.net
「銀河系の遥か彼方、地球から6万光年の距離に惑星Ziと呼ばれる星がある。 
 長い戦いの歴史を持つこの星であったが、その戦乱も終わり、
 平和な時代が訪れた。しかし、その星に住む人と、巨大なメカ生体ゾイドの
 おりなすドラマはまだまだ続く。

 平和な時代を記した物語。過去の戦争の時代を記した物語。そして未来の物語。
 そこには数々のバトルストーリーが確かに存在した。
 歴史の狭間に消えた物語達が本当にあった事なのか、確かめる術はないに等しい。
 されど語り部達はただ語るのみ。
 故に、真実か否かはこれを読む貴方が決める事である。」

気軽な参加をお待ちしております。
尚、スレッドの運営・感想・議論などはこちらで行ないます(※次スレに移行している場合があります)。

"自分でバトルストーリーを書いてみよう"運営スレその3
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1250287817/l50

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「自分でバトルストーリーを書いてみよう」まとめ
ttp://www37.atwiki.jp/my-battle-story/
ZOIDS battle story(携帯用まとめ)
ttp://98.xmbs.jp/zixxx/

2 :気軽な参加をお待ちしております。:2010/11/20(土) 22:44:05 ID:???.net
【前スレ】
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.30
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1262251155/

3 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2010/11/21(日) 23:12:05 ID:???.net

前回までのあらすじ(?)
時はZAC2101年11月
ゼネバス帝国を祖とする鉄竜騎士団がついに雌伏の日々を終えた。
50年もの年月を掛けた研ぎに研いだ牙をむき出しにする。
その牙を持って、中央大陸の北の玄関口であるクック湾に攻め込んだ鉄竜騎士団。
そして先行する強襲部隊に特殊工兵師団 DS試験評価中隊 B(ベルタ)小隊は居た。
搭乗するゾイドは『暴走狂戦士』とあだ名され、失敗作の烙印を押されたデススティンガー
それを戦場に戻す為の再調整は急ピッチで推し進められ、完了していた。
だが、周囲の理解はまだ完全には得られていない。
そんな中、彼女らはデススティンガーに乗り出撃する。
中央大陸に奪取する為に。亡き友に報いる為に。そして、生き残る為に。

未だ帰還率0%のゾイドは無事に任務を完了できるのか?
そして鉄竜騎兵団は無事、祖国である中央大陸へ帰還できるのか?
そしてベルタ小隊は無事、生き残る事ができるのか?

色々な思いを飲み込んで、今、戦いは始まる。


●特殊工兵師団 DS試験評価中隊 B(ベルタ)小隊メンバー

隊長(B1:ベルタアイン):レギーナ・クラークスフィールド中尉 愛称:ギーナ
副官(B2:ベルタツヴァイ):テオドーラ・トーリマン少尉 愛称:テオ
隊員(B3:ベルタドライ):カヤ・パイントレイル准尉 愛称:カヤ 


4 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2010/11/21(日) 23:14:17 ID:???.net

 レギーナ・クラークスフィールドは孤児だ。
 母は自分を生んだ時に死んだと聞くし、父親もグランドカタストロフィの復興作業中に死んだ。
 そもそも暗黒大陸は人が住むには過酷な環境だ。
 そこを支配するガイロス帝国に無理やり吸収されたゼネバス兵。
 その扱いがどんな物だったか。
 先の西方大陸戦役に従軍したレギーナには痛いほど分かる。
 敗軍の兵とは得てしてそういうものだと大人になったレギーナは知っている。
 だが、理解と納得は違うものだ。

「いつかお前だけでも中央大陸の土を踏ませてやる。」

 レギーナの記憶の底にそんな父親の言葉が眠っている。
 軍に入れる年齢になって、当たり前の様に軍人になったレギーナは今でもその言葉を覚えている。
 だが、それは父親の口癖として覚えているだけだ。
 暗黒大陸で生まれ育ったレギーナ自身にとってはどうでもいい事だった。
 だが、今はゼネバスの兵としての自覚はあるつもりだった。
 理不尽な命令に命を落としていく同胞。そんな同胞に命を救われた事は一度どころではない。

『お前は生きろ。レギーナ。』

 戦場で、そんな事を何度も言われるのはもうたくさんだった。
 ゼネバス兵の仲間意識はガイロスが考えているよりもはるかに強い。
 中央大陸への帰還が同胞の悲願ならば、その手助けをする。

 レギーナも普通にそう考える事のできる人間になっていた。

5 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2010/11/21(日) 23:16:31 ID:???.net
 自分も随分とゼネバス軍に毒されたものだな。

 とそうやけ気味に苦笑するレギーナは計器を確認する。
 現在、水深5m。船速72ノット。km換算でざっと毎時133km。

「B1より各機。プランに変更なし。繰り返す、プランに変更なし。派手に踊るわよ!」
『B2了解。骨のあるお相手がいるといいわね。』
『B3りょーかい。わくわくしてきました!』

 3機のデススティンガーは散開する。
 B2(テオドーラ)機とB3(カヤ)機は海に浮かぶ海堡を叩き行く。
 レギーナは軍港を潰しに、港の最奥まで進路を取る。
 
 外海からの敵を防ぐ海堡。
 海堡とは砲台を置くことを目的に造られた人工島の事だ。
 これを持って、軍港や街を守る最終防衛ラインとして機能する事が多い。
 クック湾にも当然それはあった。
 だが、計画では5つあったそれはたったの2つしか完成してなかった。
 国防費を大統領権限で抑えた結果、共和国軍が議会に要求した予算が足りなかった為だ。
 それに加えて、海堡を作ると平時は商船の通行に邪魔だとクック市側からの反対があった。
 今は国防費の増強が図られているが、何せ海堡は人工島だ。
 それを作るには年単位での作業になる。

 当然、近年の目まぐるしく変わる戦況に置いて、それは実現していなかった。

6 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2010/11/21(日) 23:19:50 ID:???.net

 降り注ぐ対潜ミサイルの数が減っている。
 制空権も奪いつつある事をレギーナは肌で感じる。
 陸地に上がるのは秒読み段階だ。すでに部下二人は海堡へ上陸を果たしている。
 今頃、据えられた砲台を見事に盛大に圧倒的に滅茶苦茶にしている事だろう。
 デススティンガーならば、たやすい仕事だ。

「負けてられないわね。」

 レギーナはいかにも後付け感を漂わす右隣のスイッチの赤の方を押した。
 追加ブースターのリミッターカット。
 全速力の更に上。安全装置を外して追加ブースターは物理的限界までぶん回す。
 当然、耐久性を無視した値まで出力をあげれば、長い事は持ちはしまい。

(頼むわよ。最後のお仕事だから、持って頂戴。)

 加えて、胴体の一番後にある一対の遊泳脚のブースターもリミッター作動ギリギリまで噴かす。
 グンと更なる加速Gがレギーナを襲うが、それすら心地よい。
 レギーナは操縦桿を少しだけ押し倒す。それと同時にデススティンガーが少しだけ潜水する。
 そうやってから、レギーナは前面にARで投影されたマップと計器とにらみつけた。
 これはタイミングが命だ。当然、シミュレーターで何回も練習した。

 来い、来い・・・来い!

「GO!」
 
 即座にレギーナが操縦桿を手前に引いた。
 それにデススティンガーは即時に応え、機首とグンと起こす。
 そして、水面に向かって猛スピードで突っ込む。
 
 緊急浮上!


7 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2010/11/21(日) 23:25:27 ID:???.net

 デススティンガーが飛んでいた。
 比喩でもなんでもない。海水を派手に巻き上げ、デススティンガーは空中にあった。
 追加ブースター全開の最高速度で水上へと突入した結果だ。
 余りある推力は水上に出ても健在だった。
 即座に追加ブースターの出力カット。並びに切り離しと同時に制動用パラシュート展開。
 短い間だったがよく頑張った追加ブースターは着水と同時に海中に消えていった。
 デススティンガー本体は重力に引かれて、そのまま軍港の岸壁に乗り上げる。

 今まで一番凄まじい揺れがコクピットに襲いかかった。
 デススティンガーは軍港内に設置された滑走路を激しくえぐりながら盛大に制動する。
 その制御をレギーナはデススティンガーに任せた。
 健気に左右に振られながらもデススティンガーは自らの意思でその姿勢を制御していく。

(Eシールド展開。姿勢制御、男の子なら根性見せなさい!)

 機体との精神リンクを意識しながら、レギーナはシート左脇のレバーを上げる。
『モードチェンジ・海戦→陸戦モード』の文字がモニター端で光る。

 変化は主に外観にあった。それも前面ではなく後方にだ。
 尻尾の左右に展開していた3対計6枚の装甲板が折り畳まれる。
 スリムになった尻尾が跳ね上がって反り返り、尻尾の先が機首の方向と揃う。
 そして1対の遊泳脚が胴体に寄り添う・・・。

 アスファルト混じりの土埃を巻き上げていたそれはようやく止まった。
 そして、その姿をようやく共和国軍の身に晒す。
 展開したEシールドの向こう側にその姿はあった。
 海サソリ形態から一般的な陸サソリ形態への変形を完了させたゾイド。

 それは、尾に毒針を持ちて死を運ぶサソリ。

 ・・・デススティンガーが中央大陸に上陸した。

8 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2010/11/21(日) 23:34:28 ID:???.net
 
 呆気に取られていた共和国軍は砲撃を開始するが、Eシールドと重装甲がそれをはじく。
 その間にFCSが上空のグレイクアマからの情報を頂戴して、敵を割り出す。
 数はざっと2小隊。機種はゴドス、カノントータス、スネークス、カノンフォート。
 新型のスナイプマスターまで居る。大型はいないようだ。
 そして、混乱しているのがよく分かった。
 まさかこんなにあっさりと戦力を送り込まれるとは思っていなかったのだろう。
 傍受した無線から混乱の声が、悲鳴が上がる。
 デススティンガーの名は中央大陸にもちゃんと伝わっていたようだ。
 そして、それでこそ、今の今まで海中を進軍してきた甲斐があると言う物。
 
「初めましてよね、中央大陸。熱烈歓迎、恐れ入るわ。」

 そう言いながら、レギーナは操縦桿の頂点のカバーを外して押し込む。
 デススティンガーの尻尾の先が三叉の槍のごとく別れる。
 そして上下のブレードも展開し、中から最強兵器がその身を現す。
 かの昔、デスザウラーに装備され猛威を振るったとされる伝説に等しいとまで言われた武器。
 現在でも装備しているゾイドはほんの一握りだ。

 大口径集束荷電粒子砲。

9 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2010/11/21(日) 23:47:46 ID:???.net

 コアの出力が跳ね上がり、荷電粒子のチャージが始まる。
 強大なエネルギーがデススティンガーの中で発生している事が精神リンクを通じて伝わってくる。
 錯覚とは思えないぐらいに体が熱くなるとレギーナは感じていた。

「さて、共和国の皆様、受け取って貰うわ。」

 デススティンガーが各所に装備された砲撃装備を展開させる。
 腕部に隠されたレールキャノン、荷電粒子砲の両脇のビームガン、レーザーガン。
 機体中央の巨大なショックカノン。機首の4門の機銃。
 そのすべての武装を制御するFCSが敵を定め、その時を待つ。
 
 モニターの端に映った赤の「チャージ」の文字が緑の「コンプリート」に変化した瞬間。
 レギーナは迷わず操縦桿の掃射スイッチを押し込む。

 ・・・そして、後はもう破壊しかなかった。 

10 :名無し獣@リアルに歩行:2010/12/02(木) 00:03:15 ID:???.net
定期age

11 :名無し獣@リアルに歩行:2010/12/02(木) 00:31:33 ID:???.net
今時ここで書いている奴も奇特だ

12 :名無し獣@リアルに歩行:2010/12/10(金) 09:32:24 ID:???.net
マグレグ少尉!生きているのか?返事をしろ!

13 :名無し獣@リアルに歩行:2010/12/14(火) 20:52:58 ID:???.net
クリア〜〜〜

14 :外伝の外伝 ◆.X9.4WzziA :2010/12/18(土) 23:57:16 ID:???.net
☆☆  魔装竜外伝の外伝  ☆☆

 僕が目を覚ました時、日は既に高く昇っていた。
 台車の上は肌寒く、その上ガタガタと揺さぶられての搬送。だけど陽射しは暖かかった
し、台車を引っ張るダンゴムシのような奴が無口だったのも幸いした。僕は久々の熟睡を
満喫できた。……本当に、それで終われば良かったのだが。
 揺れが徐々に穏やかになっていく。それとともに鼻がむず痒くなってきた。
 引き摺られる台車の上から首をもたげて周囲を見渡せば、辺り一面瓦礫の山、山、山。
それらが人の住居であったものだと理解するまで、少々時間が掛かった。うららかな陽射
しとは裏腹に何とも殺風景で、息苦しい。
 その上、僕が運ばれていく道路だけは異様なまでに整備されている(だから揺れも穏や
かなのだ)。この道を横切り、瓦礫をかき分けていったら何が見えてくるのだろう。想像
してみたが、余り希望の持てるイメージが湧かない。
 それにしても、ここはどこか、行き先は。
「教えてよ」
 ダンゴムシに声を掛けてみたが、振り返りもしない。
 僕が溜め息をついたその時、台車のブレーキがゆっくりと掛かった。
 コンクリートの屑で一面真っ白な広場の一角。キョロキョロと見渡せば、ダンゴムシが
至る所に留まり、又台車を引き摺ってくるではないか。台車の上には四本足の奴やら首の
長い奴やらが、僕が運ばれてきたのと同じように載せられている。……みんな僕と同じよ
うに、生まれて間もない奴ばかりなのだろう。落ち着かず、周囲をキョロキョロと見渡し
ている。
 と、僕が乗る台車の周囲に、ちっぽけな生き物がわらわらと群がってきた。真っ白な甲
冑・ヘルメットで皮膚を完全に覆ってはいるが、身体の作りでこいつらが何なのかすぐに
わかった。人間だ。どいつもこいつもライフルを両手に抱えてキビキビと、だが忌々しい
くらいに威勢良く振る舞っている。
 僕の胸が、ほんのちょっと、疼いた。
 僕らの身体にはコクピットという不思議な装置が埋め込まれている。遺伝子にはしっか
り刻まれているんだ。「己に相応しい人間をコクピットに迎えよ」と。そうすることで、
僕らは初めて本来の力を発揮できる。

15 :外伝の外伝 ◆.X9.4WzziA :2010/12/18(土) 23:58:27 ID:???.net
 僕は生まれた時を思い出した。培養液で満たされた特大な水槽の中で、僕は浮かび、泳
いでいた。それ自体は居心地が良かったが、強化ガラスの向こうには沢山の人間がじろじ
ろと見つめ、ほくそ笑んだりしていたのは何とも気持ち悪くて嫌な気分だった。
 どいつもこいつも同じように眼鏡をかけ、白衣をまとった姿形。心音を聞き分けたりし
て別の個体だとは理解できたけれど、積極的に見分ける努力の必要性は全く感じなかった。
何しろ態度が不愉快だ。勿論、連中が僕のコクピットに迎えたくなるかどうかなんて、考
える気も起きなかったものだ。
 だから僕は、少し期待した。もしかしたらこの群れの中に、相応しい人間がいるのでは
ないか。胸の疼きがときめきに変わってくれればと思ったが、その時。
「さっさと、降りろ!」
 人間の一人が怒鳴った。
 いきなりの罵声に、僕はむかっ腹が立った。初対面に向かってその態度は何だ。
 僕はわざと、背中の翼を、鶏冠をも一杯に広げてみせた。それだけで人間たちがハッと
息を呑み込むのが聞き取れる。
 台車を踏み台に軽く跳ねると、真っ白な床の上に勢い良くガニ股で着地してやった。も
うもうとコンクリートの屑が舞い上がり、同族たちがハッと振り返る。人間たちは衝撃で
堪え切れず、みんな尻餅をついた。ザマア見ろ、いい気味だ。
 ところがその時、僕の胸のずっと奥(コクピットより、更に深くだ)が急激に痛み始め
た。キリキリと、えぐられるようだ。痛い、痛いよ。僕はたまらず膝をついた。
 人間どもも僕の異変に気が付いたようで、勝手に騒いでいる。
「何だこのじゃじゃ馬は!」
「封印、本当にインストールされてるのか!?」
 そう、この痛みは封印プログラムによるものだ。
 僕らが人間とともに生きていく上で守らなければならないことは、彼らが記憶領域に書
き込んで従わせる。まあそんなものは従っている振りしてこっそり書き換えちゃうのだけ
れど、今の僕にはまだまだ大変な作業だ。きっと書き換え切れなかったプログラムが作動
しちゃったのだろう。
 仕方なく、僕は腹這いになって落ち着かせることにした。

16 :外伝の外伝 ◆.X9.4WzziA :2010/12/18(土) 23:59:29 ID:???.net
 人間どもは急におとなしくなった僕を見て、おやと首を傾げて恐る恐る近付いてきた。
それにしても、どいつもこいつも同じような格好だ。いつの間にやら胸の疼きもあっさり
と治まってしまったのが、何とも虚しい。
「落ち着いたみたいだな。
 アカデミーの連中、いい加減な封印しやがって……」
「こいつだろう? ジェノブレイカーってのは。
 所詮はガイロスの田舎ゾイドだ、ヘリック流の上品な封印じゃあ従わないってことさ」
「それにしてもこいつ、ジェノザウラーのお仲間って聞いていたんだが……随分、印象が
違うな」
「田んぼの、ザリガニみたいだな」
 辺りが静まり返り、不意にゲラゲラと、人間どもは腹を抱えて笑い始めた。どいつもこ
いつも顔はヘルメットに覆われて表情など伺えないが、その下でどういう表情を浮かべて
いるのか容易に想像がついてしまった。ザリガニというのが何を指すのかわからないが、
僕を馬鹿にしているのだけは間違いない。
 僕は口を一回噛み鳴らした。鈍い音が辺りに響き渡り、人間どもがヘルメットの上から
両手で耳を塞ぐ。連中はたちまち喚き散らす。
「おい、やっぱり封印、効いてないだろ!」
 僕は鼻で笑っていた。封印が問題なのか? くだらない、本当につまらない生き物だな
と、呆れ果てたその時。
「もういい、構うな。
 さっさと『爺さん』を呼んでくれ」
 人間の一人が声を上げた。
 大勢が僕らを囲む中、一人が足早に立ち去っていく。遠巻きに、同族が僕らのことをじ
ろじろ見つめている。ちらり、ちらりと彼らに目線を合わせようとしたけれど、みんなそ
っぽを向くばかり。僕は又腹が立ってきた。我関せずを決め込むか、野次馬根性は丸出し
のくせに。胸の奥が痛くなっても良いからひと暴れしてやろうか。
「若いの、そんな馬鹿げたことはやめておけ」
 僕の気持ちを見透かす声はやんわりと、落ち着いていた。
 首をもたげた僕は、声の聞こえた真後ろを振り返る。
 声の主は、僕よりも遥かに背の高い同族だ。全身銀色の皮膚が、埃っぽいこの広場にあ
って尚眩しい。姿勢は人間のような直立に近いが、頭は僕の倍以上もでかい。その上、背
びれと長い尻尾が不気味なくらい緩やかにうねり、辺りに異様な緊張感を漂わせている。

17 :外伝の外伝 ◆.X9.4WzziA :2010/12/19(日) 00:00:37 ID:???.net
「おお『爺さん』、早速だが『新米』たちを連れてってくれや」
 足元で叫ぶ人間に最低限の一瞥をくれた「爺さん」は、僕や他の同族を見渡して告げた
(※僕らの声は人間には軽く唸っているようにしか聞こえていない)。
「遠いところからよく来なさったな。
 一応、ここも戦場じゃ。お主らは新米故、わしの指示を良く聞くようにな。
 それじゃあ、わしについてきておくれ」

 何故道が整備されているのか、大体見当はついた。……きっと、僕ら同様「新米」がこ
こに連れてこられて、何かやらされているからに違いない。只、その「何か」がわからな
い。新米をわざわざ集めてすることって何だろう。
 そう考えながら、僕らは道を進んだ。途中、人間どもがせわしなくうごめいている場面
に何度もぶち当たる。連中は大してこちらを気にする風も見せない。この戦場とやらにお
いて、最初にあった失礼な連中を除けば僕のことなど関心の対象たり得ないようだ。
(だったら……こんなところから逃げ出すこともできるんじゃあないのか?)
 脳裏をよぎったのだが、問題はさっきの爺さんが僕のすぐ前を歩いていることだ。……
困ったことに、集められた同族の中で僕が一番大きかった。背中の翼がそれに後押しをか
けてるみたいで、他のみんなは隠れるように僕の後ろへと回り込んでしまった。こんな奴
らはどうでも良いが、爺さんがすぐ目の前というのは困ったものだ。
 ものは試しに、すっと右の肩を広げてみせる。
 爺さんの長い尻尾が柳のようにやんわりと揺れた。僕は溜め息をつきそうになった。完
全に、動きを察知されている。きっと僕が飛び跳ねでもすれば、爺さんの長い尻尾が鞭の
ように襲いかかってくるに違いない。
(元気じゃのう)
 不意に囁きに、僕の背筋は凍り付いた。
 爺さんは振り返りもせず囁きを続ける。
(今日一日くらい、我慢するんじゃ)
 爺さんは背後を向くと、他のみんなにも聞こえるように告げた。
「ここより先は、全てのセンサーの感度を極限まで下げて構わん。
 気分が悪くなったらそうやって、何とか持ちこたえてくれ」
 僕も、他の同族も爺さんの言ってる意味がわからない。今のところは……。
 理解する機会は、こうして道を歩いていたら不意に訪れた。

18 :外伝の外伝 ◆.X9.4WzziA :2010/12/19(日) 00:01:54 ID:???.net
 いきなり、足元がふらついた。片膝つき、両手をついたところで僕は辺りに人間がいな
いことに気が付き(潰れてしまう!)、ホッと胸をなで下ろしたいところだったがそんな
余裕はない。心臓部を直接殴られたようなこの衝撃は一体何だ。
(……匂いだ!)
 有機物の、腐敗した匂い。とてもじゃあないが、成分を分析する気になどなれない。何
しろ濃密過ぎるそれは腕っ節が自慢の僕に、意外なほどひどいダメージを与えているのだ。
嗅覚センサーの感度を下げるしかない。下げる、下げる、下げる。
 後ろを振り向けば、ついてきていた同族がみんな、僕と同じように苦しんでいる。
 それに比べて、前を行く爺さんの何と元気なこと。直立の姿勢が全く崩れていない。嗅
覚センサーの感度を下げただけではなさそうだ。
「もう少しじゃ」
 それだけ告げてゆっくり、歩を進める。やむを得ない。僕も他の同族もどうにか立ち上
がってついていく。
 その過程で、僕は妙なことに気が付いた。このダメージを受けた辺りで、道の端々に人
間なんて全く見かけなかった。連中はこの辺りに誰も立ち入っていない。もしやと思って
爺さんの頭部コクピットをちらりと覗いてみたが、そこにも人影は見当たらない。
 僕らは、人間の決して立ち入らないところへ向かっている。どこへ向かっているのか、
答えはすぐにわかった。
「ついたぞ」
 時刻は十三時頃。到着時、陽は高く昇っていた筈だ。
 なのに、辺りは薄暗い。舞い上がる埃が、雲のように空を漂い分厚いカーテンを降ろし
ている。そして、その真下に。
 木切れのようなものが幾重にも折り重なり合い、うずたかく、だが極めて不規則に積み
上げられている。僕の肩くらいほどのものが、至る所に。
 目を凝らした僕は、胸が苦しくなるほどに息を呑んだ。
 僕が渇望して止まない者たちの断片が、積み上げられた山から八方に突き出ている。人
間の手、足、胴体、そして顔。概ねカラフルで、所々どす黒い。五体満足なものもあれば
所々引きちぎられたものもある。穴が開いているものや、焦げているもの、成分を分析す
るのがおぞましくなりそうな液体にまみれているもの。

19 :外伝の外伝 ◆.X9.4WzziA :2010/12/19(日) 00:03:01 ID:???.net
 そこに積まれているのは、見れば人間とはっきりわかるが、凡そ人間本来の姿とはかけ
離れてしまったものだ。
 僕は首を揺さぶった。目に焼き付いてしまった映像を必死で振り払おうとした。だけど
それは、無意味なことだと思い知らされた。僕らの習性が……相応しい人間をコクピット
に迎えようとする習性が、それを断固として拒否し続けている。そこに誰も生きている筈
などないのに、コクピットの疼きが止まらない。
 後ろの同族も、大概僕と同様に悶絶していた。
 爺さんは、ぐるりと見渡して呟く。
「敵国民の末路じゃ。兵士だった者もいれば民間人だった者もいる。
 これだけ殺せば、始末に困る。
 そこでわしのように退役間近なゾイドや、お主らのような新米が例外なく、この役目を
担うことになる」
 爺さんは無造作に、山の一つに鋭い爪を触れた。鈍い音と共に一角が崩れたところへ、
いきなり足を振り降ろす。パン、パン、と爆ぜる音は堅いビスケットを砕く音によく似て
いたが、同時にぬめるような音が奇妙に混ざり合う。この上ない、不協和音。
「……こうして潰してやれば、焼却も楽になる。
 今日は大分、面子も揃っておるからな、夕暮れ時までには片付くじゃろう」
「嫌だと、言ったら?」
 そう、呟いた僕の背後がざわめいた。
 右の翼を勢い良く薙ぐ。風切る音とともに、双剣を広げてみせる。目の前の爺さんには
叶わないかもしれない。だがそれはどうでも良いことだ。
 爺さんは大きな首を傾げ、頭部を覆うキャノピーを傾けた。その下には真っ赤な目が二
つあって、じっと僕を見下ろしている。
「若いの、お主は優しいのう。
 じゃがここも、一応は戦場なんじゃ。命令に従わなければひどいことになってしまう」
 ちらり、ちらりと爺さんが目線を移した先には全身銃砲で固めた同族の巡回するさまが
確認できた。この死骸の山々の間もうろつき、こちらの様子を観察している。伝わってく
る、凍えるような殺気。
 その上、不意に胸の奥底が痛くなってきた。さっきのように、えぐられる痛みだ。僕は
堪え切れず、両膝をついて背中を丸める。
(ここで、封印かよ!?)

20 :外伝の外伝 ◆.X9.4WzziA :2010/12/19(日) 00:04:22 ID:???.net
「アカデミーの気違い科学者どもも、そこまで甘い封印はしなかったということじゃな。
 ……若いの、そして他のみんなもよく聞くんじゃ。
 戦場ならば、生きた人間を潰さないといけないことが多々ある。そうしないと己の身も、
お主らのパイロットも守れないのじゃ。
 訓練だと、思ってやるんじゃ。なぁに、そこに積まれておるのは死んだ人間ばかり。只
の肉の塊でも潰していると思って、この場を乗り切るんじゃ」
 淡々と、爺さんは説く。
 僕は悔しくて仕方がなかった。この、僕の力量など到底及ばない(間違いなく歴戦の強
者だろう)銀色のゾイドでさえもが人間の言いなりだ。そして彼奴らは、誰よりも「主人」
が欲しい僕らに対し、死骸の後始末をさせようとしている。彼奴らには只の敵兵の死骸に
過ぎないかもしれないけれど……。
(死骸の山に、見えるわけがないだろう!? 探すに決まってるだろう!?
 主人を、パイロットを、相応しい人間を求めないゾイドなんているわけがない!
 それが……僕らの習性だ)
 そう、叫びたかったが、思えば思うたび、胸の奥に走る痛みは倍増していく。
 僕は歯軋りした。両手を地面に叩き付けながらも、前に一歩、出るしかなかった。

 こうして、僕らの「死骸潰し」の作業が始まった。
 山を崩せば、数体が地べたに落ちる。その時にちぎれるものもあれば、落ちたところで
爆ぜるものもある。男も、女の死体もあれば、やせ衰えた年寄りや、小さな子供の死体も。
……嫌でも、視線を向けてしまう。そのたび懸命に、反らす。感度を下げる。
 そうやって、全てのセンサーの感度をひたすら下げるあまり、僕は奇妙な感覚に襲われ
た。起きながら、夢を見ているようなふわふわした感じだ。
 しかし、時たま開き切った瞳孔に視線が重なってしまうと現実に引き戻された。胸のコ
クピットを襲う疼きが一気に最高潮になってしまう。すぐさま焼き付いてしまった画像
データの消去に掛かって、それで作業は中断。そんなことの繰り返しだ。
 吐きそうになるのを懸命に堪えて、踏み付ける。ビスケットとぬめりの音が辺りに響く。
……肉片が飛び散り、粘り気が後を引き、そのたび僕は足の裏を地面に擦り付けた。

21 :外伝の外伝 ◆.X9.4WzziA :2010/12/19(日) 00:06:11 ID:???.net
 僕の足は人間数体分は楽に収まるので、作業自体は思いのほか順調に進んだ。
 その内に、慣れてきた。慣れてしまった。胸の奥を押し潰す不快感も、ふわふわした感
じも、それがここでは当たり前のこと。
 爺さんの言うように、踏み付けるたびに何度も何度も、自分に言い聞かせた。
(これは肉の塊、これは肉の塊……)
 それで、平静をどうにか保とうとした。恐ろしく辛いけれど、振りをしているだけかも
しれないけれど、どうにか保てそうな気がした、そのとき。
(助けて……)
 僕は耳を疑った。
 すぐさま、死骸の山を凝視する。いくらセンサーの感度を下げようが、生きた人間が埋
もれているなら熱源くらい、容易に察知できる。……だが、いくら観察してもそれらしき
ものは見当たらない。
 次いで、左右を振り返る。
 ここにいるのは同族ばかり。僕と同じように人間に屈服した奴ら。愚痴は呟くかもしれ
ないが助けを求める気力もない、無様な敗北者の集まり。そして、誰もが黙々と潰す作業
を継続している。
 僕は息を呑んだ。みんなには、聞こえていないのか。
(助けて……)
 又だ。
 胸のコクピットが、掻きむしられるような感覚に襲われる。あり得ない現象は僕を強烈
な不安に陥れた。
(助けて、助けて……)
(やめろ、やめてくれ!)
 僕は曇天を見上げて、ひとしきり吠えた。そうしなければ、囁く声を掻き消すことなど
できなかったからだ。

「ブレイカー? ブレイカー!?」
 よく聞き慣れた声が耳に届いたとき、僕はようやく我に返った。……空は青く晴れ渡り、
そよ風も清々しい。
 左目には見知った者が映り込んでいる。……ギルガメス。僕が仕えるご主人様だ。小柄
な体躯は汗だくで(基礎体力をトレーニングする時間帯だ)、僕の瞳を覗き込むとホッと
溜め息をついた。

22 :外伝の外伝 ◆.X9.4WzziA :2010/12/19(日) 01:19:22 ID:???.net
「大丈夫? 凄く悲しそうに鳴いていたけれど……」
 僕は肩をすくめた。心地の悪過ぎる夢が、僕に寝言でも吐かせていたのか。
「怖い夢でも見ていたのかもしれないわね」
 彼の首に、そっとタオルが掛けられた。後ろから、すらりとしなやかな影が伸びる。エ
ステルだ。僕の、前のご主人様で、ギルの先生で、そしてそして……いつも複雑な感情を
織り交ぜながら彼と向き合う不思議な女性。
 ギルは彼女の声に耳を傾けると、合点がいったようで大きく頷いた。受け取ったタオル
で汗を拭きながら。
「もう、心配いらないよ」
 そう、呟いて穏やかな微笑みを投げ掛けてきた。
 僕は感極まってしまった。地につけていた両手ですぐさま二人を鷲掴みにすると、顔を
鼻先にまでぐいと近付け、押し当てる。
 二人は僕の動作に顔を見合わせ、苦笑した。
「あら、私もなの?」
「みんな一緒の方が良いですよ。
 そうか、そんなに怖かったんだ、よしよし……」
 ひとしきり、僕は「泣いた」。涙なんてゾイドは流さないけれど、すきま風が吹くよう
な声で、気持ちが静まるまでずっと、ずっと。

※惑星Ziの歴史において、ゾイドは常に主役となる存在であった。それはこの話しのよ
うな凄惨極まりない場面でも全く変わらない。
 あらゆる国家が戦死者の死体を処理するためにゾイドを使った。これ以上に効率の良い
方法はなかったからだ。
 この方法は見る者に衝撃を与える。そのため映像が、しばしば戦意高揚の道具にされた。
民衆は、敵兵の死体が踏み潰される姿に歓喜し、自国の戦死者が同様の目に晒されれば怒
りに打ち震えたのである。                          (了)

23 :名無し獣@リアルに歩行:2011/01/04(火) 23:49:25 ID:???.net
定期age

24 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/08(土) 00:33:31 ID:???.net
 >>9より続き 

 息を吐いた。
 意識をして息を吐くのは久しぶりだ、と意味もない事をレギーナは思ってみる。
 心臓はその心拍数を跳ね上げ、暴れまわっている。
 気分はかなりハイだ。かなりやばい。
 無意味に叫びたくなる衝動を抑えつけなければならない程に。
 そして、多少の落ち着きを取り戻したところで今一度、メインモニターを見やる。
 液晶に映るは、一面破壊の限りだった。
 滑走路はズタズタに引き裂かれ、地上施設は倒壊している。
 管制塔などは根元から折れて、滑走路に横たわっている。
 彼女が攻撃した、いや殲滅した2小隊分の共和国軍のゾイドで動くものはない。
 荷電粒子の熱量に半身を吹き飛ばされたゴドスがまるで前衛美術の様になって転がっている。
 他の共和国所属のゾイドも似たような物だ。
 ただし飛行場にも関わらず、飛行ゾイドはすべて空に上がっているのか、見当たらなかった。
 どれだけの被害を与えたのか、いちいち考えるのも面倒だった。
 それほど徹底的だった。それこそ自分がやったのが信じられないぐらいに。
 でも相手には悪いが、これはしょうがない。

 私は、いや『私達』はこの瞬間を長い長い間、待ち望んでいたのだから。



25 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/08(土) 00:36:33 ID:???.net

 耳を澄ますと、大丈夫か? と小ゾイド『ハイイロ』が精神リンクでそう聞いていくる。
 大丈夫、問題ないわ と返すと『ハイイロ』は苦笑いのような物を返してきた。

 一方、デススティンガー『13号』の方は問題だった。
 やはりと言うか、テンション高すぎて意思疎通が取れない。
 もしデススティンガーにコア直結の音声出力が付いていたら、どんな奇声が上がっていた事か。
 そう考えるだけで頭が痛い。
 長らく封印され、溜っていたうっ憤をようやく晴らしたのだ。
 あまり関わると、こちらまで感化されそうなので、レギーナは精神リンクのレベルを下げる。
 そういう事をレギーナはできる。
 そんなのできるのは、アンナとあんたぐらいよ
 とテオドーラに言われた事があるが、レギーナにはピンと来ない。
 騒がしい場所でも話し声を選んで聞き取るカクテルパーティ効果のようなもんだ。
 そういう風に思っている。これが出来ない事の方が逆に信じられない。
 それに対し「それは才能よ、大事にしなさいな。」とテオドーラは苦笑と共に言ったものだ。

 ふと計器を見やると機体温度がかなり上昇している。
 今の所は行動に支障はないが、これ以上はちょっと不味いかもしれない。
 まぁ、あれだけ盛大にぶっ放せばしょうがない事か。 
 そうレギーナが思っていると索敵機器が地面の振動を感知する。
 レギーナは一応は警戒するが、その正体は十中八九で分かっていた。
 近くの地面が盛り上がる。そして、そこからハサミが突き出てくる。

 それはデススティンガーのバイトシザーズだった。


26 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/08(土) 00:38:53 ID:???.net

『また、派手にやったわね。』

 やがて姿を現したのは、テオドーラの乗るデススティンガー『12号』だ。
 デススティンガーには地中に潜る機能がある。
 バイトシザーズを超振動させて土壌を粒状化して掘り進む機能。
 それは掘り進むと言うより、地中を泳ぐイメージの方が近い。
 そして、元々液状化しやすい埋め立てで作った滑走路の土台などは朝飯前だ。
 
「あんたもでしょ、B2(ベルタツヴァイ)」
『えぇ、機体の温度が上昇しすぎて、ちょっと冷却が追い付いけなくなる所だったわ。』
「荷電粒子砲のせいよね、これ。外せばかなりの冷却容量が稼げそうもんだけど。」

 レギーナは冗談で言ったつもりだった。こんな希少で有用な兵器を外すなどありえない。
 しかし、意外にもテオドーラはそれに同意した。

『そうね。荷電粒子砲を外す案は有力な候補の一つだわ。』
「ほんとに?」
『ほんとよ。うちの開発局は地上専用機として、その方向も視野に入れているわ。』
「なんで知ってるのよ、あんた。」

 今回の運用に関して兵器開発局はあまり関わっていない。
 その問いにテオドーラはしれっと答えた。

『そりゃ、これが終われば、私もそのプロジェクトに参加するからよ。』

 その意味がレギーナは即座に思い至らかなかった。
 しかし、一拍を置いて、それに気づく。

「・・・そう。」

 それは彼女がベルタ小隊から居なくなる事を意味した。

27 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/08(土) 00:40:50 ID:???.net

 よく考えれば・・・いや、よく考えなくとも当たり前の事だった。
 今回が終われば、彼女の中では一区切りになる。
 彼女は優秀な技術者だ。そもそもこんな所でパイロットをしている事こそが場違いだった。
 『仕立て屋』の異名を持つテオドーラ・トーリマンには相応しい仕事を言うものがある。
 彼女にはその権利があるとレギーナも思っている。
 ただ理屈ではない。それは理屈だけで割り切っていいものではない。

『黙っていたわけじゃないのよ。言う機会がなかなかね。』
「そういうの黙ってたって言うのよ。」

 レギーナが口をとがらせると、テオドーラはすまなそうに苦笑した。

『・・・短い間だったけど、楽しかったわ。』
「そうね。でも。」

 レギーナは口の端を釣り上げて笑った。
 別れは決定的だ。それは分かっている。
 だが、別れを惜しむのも悲しむのも笑い飛ばすのも、まだ先の話。

「もう少しだけ付き合ってもらうわよ。」

 そうだ。まずは目の前の事を終わらせないと明日は来ない。
 この戦いはまだ終わってない。
 流石に共和国軍ともあろうものが、これで終わりである筈がない。
 そう予感したレギーナへ、予想通りに司令部から伝令が入った。

 それは第二幕の合図だった。


28 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/08(土) 00:46:49 ID:???.net

 戦場には『機動防御』という考え方が存在する。
 地球ではすでに一般的であるが、惑星Ziではまだ100年足らずの新しい戦術だ。
 不時着した地球船グローバリー三世号が惑星Ziの軍隊にもたらしたのは兵器だけではない。
 当然ながらそれらを用いた戦略論や戦術論と言った知識も含まれていたというわけだ。

 機動防御とは、語るだけならごく単純なものだ。
 敵が現れた場所に機動力を持って迎撃に向かう、もしくは奇襲を掛ける。
 それに必要なのは、敵を補足する斥候と、正確な情報伝達と、戦力を送り込む為の機動力。
 そしてそれらを上手く運用できる有能な指揮官。
 広い面を最小限の駒で防衛するのに使われる戦術である。
 それは「攻めるは容易、守るは困難」と言われた「戦術の基本」に対する一つの回答とも言える。
 
 このクック湾攻防戦に置いて、駒が足りないのは何も鉄竜騎兵団だけではなかった。
 ヘリック共和国もまた主力師団を暗黒大陸に、予備師団も未だに西方大陸からの引き上げ作業中だった。
 つまり、共和国が本来支配する中央大陸には、まともな戦力は無かった。
 もちろん、共和国軍内ではそれを危険視する声が無かったわけでない。
 だが「攻撃こそが最大の防御」と言う正論がそれを押しつぶした。
 確かにガイロス帝国だけを相手するのであればそれで正しかったし、現にガイロス帝国は壊滅寸前だ。
 だが、よもや第三の勢力が虎視眈々と中央大陸を狙っていたなどと誰が予想できただろう。
 それだけ、この計画を立てたプロイツェンという男の情報統制は完璧だった。


29 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/08(土) 01:00:18 ID:???.net

 そんな理由があり、共和国は中央大陸にまともな戦力を置かなかった。
 予備役に回された払下げ寸前のポンコツゾイドや、ロールアウト直後のひよっこゾイド。
 そして、それを操る者たちもまた、ロートルとルーキーがほとんどだった。
 中には戦傷兵として中央大陸に帰っていた病み上がりもいるには居た。
 それでも心もとない戦力に違いなかった。

 だが、まともな部隊がまったくないわけでもなかった。
 ルーキーを指導する教導隊が運よく中央大陸には居た。
 教導隊。軍の中でも訓練時の仮想敵役を担う特殊なチームだ。
 彼らはゾイドを用いた戦闘技術に精通した軍の中でもエキスパートだ。
 高度な技術を持つ彼らが敵役を担うことにより、訓練の質を上げる事ができる。
 当然のごとくクック湾攻防戦に置いて、彼等は中核部隊を担う事になった。


 そして、クック湾攻防戦に置いて、レギーナ達のベルタ小隊が進撃を開始した直後。
 共和国側でもその行動は辛うじて掴んでいた。

 ウオディックではない何かが海上からクック市の三地点に向けて潜航しながら突撃を仕掛けてきている。
 その一報はまだ機能していた監視網を通じてすぐに共和国軍の軍司令部に入って来ていた。
 すぐに指揮を任されていた共和国軍の参謀は思い至る。
 それの上陸地点のどれか、もしくは全部が後続部隊の上陸地点となるに違いない。
 ただちに上陸迎撃部隊を送り込む伝令を飛ばした。
 待機していたその部隊は拝命するやいなや即座に行動に移した。

 そして上陸してきたのが最悪の狂戦士と判明しても、彼らは怯む事無く戦場を駆け抜ける・・・。
 ただ彼らに取ってはごく当たり前の事なのかもしれない。 
 ベテランもルーキーもロートルも関係はない。技量はバラバラでも思いは一つだった。

 
 すべては祖国を守るために。


30 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/14(金) 00:46:31 ID:???.net

『おねーさまがた。B3(ベルタドライ)はやりましたよ!』

 戦場に似つかない声が電波を介して響く。
 言わずもがなベルタ小隊の最年少の隊員であるカヤのものだ。
 コールサインを使うだけ以前よりマシかと思う。
 そして何より初めて戦場に出ても物怖じしない胆力には恐れ入る。
 とは言え、それは乗るゾイドがそれを許さないだけなのかもしれないが。

「B3。気を付けなさい。敵の迎撃部隊が接近中よ。」

 モニターの端に少し離れた岸壁をよじり登るデススティンガーが見えた。
 カヤの乗る『14号』だ。カヤ自身は『エルケ』と愛称をつけている。

『大丈夫ですって! 『エルケ』ならどんな敵だってへっちゃらですよ〜。』

 ご丁寧に愛嬌良くシザーバイトを振り回しながら、カヤが答える。

 そして、攻撃された。

「な。」

 驚いたレギーナが攻撃元を確認する。まだ敵の接近までにいくらか時間がある筈だった。
 そして、それは遠距離攻撃だった。
 狙われたカヤの乗る『エルケ』は瞬間的にEシールドを展開するが、それは無意味だった。
 信じられない事に、ビーム攻撃がEシールドをすり抜けていた。
 カヤの乗るデススティンガーの尾部に被弾。脚部にもいくらか貰ったようだ。
 致命傷を貰う前に『エルケ』は海中に飛び込んだ。
 レギーナとテオドーラもすぐにそれぞれのデススティンガーを遮蔽物へ滑らせる。


31 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/14(金) 01:00:28 ID:???.net

『あれはハリネズミよ! グレイヴクアマは何をやっていたの。』
 
 テオドーラの叫びに応えたわけではないが、上空のグレイグクアマが画像を寄越す。
 結構離れた市街地のビルの谷間にそのゾイドはいた。
『エルケ』の上陸場所が丁度良くビルの合間を縫って狙える場所だったのだ。
 こういう運の悪い事は確かにたまにあるが、それにしてもうかつ過ぎた。
 そのゾイドは様々の種類の砲塔を背中に搭載した大型の砲撃ゾイド。
 冗談の様な数の砲塔が正面に据えられ、その正面突破力は共和国のゾイドでは破格だ。
鉄竜騎兵団では「ハリネズミ」と呼び、共和国での正式名はガンブラスターと言う。
 なるほど、とレギーナは納得しつつも苦い顔をする。
 ガンブラスターはビームの周波数を高速で変える事でEシールドの防御幕を突破できる。

32 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/14(金) 01:02:20 ID:???.net

『一体、どうやって今まで隠れて・・・。』

 憤りながら分析を開始するテオドーラに対し、レギーナはそれを一発で見抜いた。
 ガンブラスターの脇に見えるのは、4機のカメレオン型ゾイドであるメガレオン。
 つまり、光学迷彩を応用して、ガンブラスター1機の姿を隠していたのだ。
 無茶をした為、それは完全ではなかったと思う。
 だが、共和国は虎の子のストームソーダーを投入した。
 制空権を完全に取られない様にして、こちらの索敵精度を低下させていたのだ。
 索敵できなかったグレイヴクアマのパイロット達を責めるわけにはいかない。
 それは分かっていたが、それでも呪わずに居られなかった。
 テオドーラも同じ結論に行き当たったのか、「むぅ」と声を漏らす。

『敵ながら考えた物ね・・・。ギーナ、敵が判明したわ。』
 
 レギーナの手元にも情報は入っていた。
 グレイヴクアマが捕捉した敵機は大型が4機。
 
「コールサインになってないわよ、ベルタツヴァイ。
 敵は・・・ハリネズミが2機ね。それと・・・。」

 テオドーラの歯ぎしりが聞こえた。
 よくない兆候だと思いつつもレギーナは言葉の続きを彼女に譲った。

『えぇ、そうよ。そして、ゼロが2機よ。』


33 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/14(金) 01:14:49 ID:???.net

 ライガーゼロ。
 その名は鉄竜騎兵団に取っては歯がゆい名だ。
 元々は帝国軍の高機動型ゾイドであるセイバータイガーの後継機と考えられていたゾイド。
 その上で、マルチロールの主力ゾイドとして開発が進んでいた。
 担当していたのはガイロス帝国の兵器開発局のあるひとつの部署。
 その部署はそのほとんどがゼネバス系の技術者で固められていた。
 彼らはガイロス帝国の予算を使いながら鉄竜騎兵団用のゾイドの開発を進めていた。
 中央大陸への帰還と言う来たるべき日の為に。
 その開発コンセプトは三つに分かれていた。

 面を制圧する為に歩兵を兼任できるような超小型ゾイド。
 敵をかく乱する為の特殊電子戦ゾイド
 敵の主力を駆逐する為の主力戦闘ゾイド

 ライガーゼロのコンセプトは三つ目だった。
 高い機動力を持つ主力戦闘ゾイドは、迎撃と奇襲の要だった。
 現代のゾイドの歩行速度は総じて速いし、補給も比較的楽だ。
 速度と航続距離は、戦場での展開速度と展開深度に繋がる。
 そして、レーダーや通信機の登場が決定的になった。
 目に見えない範囲でも見る事ができて、しかも話す事ができる。
 結果、それらが戦場を物理的に広げた。


34 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/14(金) 01:16:27 ID:???.net

 そして戦場が広がれば広がるほど、戦場の密度が下がる。
 つまり、ゾイドや歩兵と言った1戦闘単位の担当する戦場の面積が広くなった。
 昔の様に密集陣形を取って、防衛線を張るには膨大な人員が必要になるからだ。
 密度が荒くなった戦場は、突破を容易にした。
 機動防御などという言葉が生まれたのはその為だ。
 そう、密度の低下は機動力か、もしくは遠距離攻撃で補うしかない。

 敵より早く動いて、防御が薄い場所を突破、包囲、殲滅する。
 敵より早く動いて、敵の狙った場所の防御を固める、包囲網を形成させない。

 だから現代に置いて、高機動型のゾイドは居るのと居ないのとは戦術の幅が違う。
 特に先の西方大陸戦役は、既存の主力であった重武装型ゾイドが活躍する攻城戦はあまりなかった。
 もっぱら陣地の取り合いに終始したと言っても過言ではない。
 西方大陸から相手を追い出すのが帝国、共和国双方ともに主目的だったからだ。
 その為、両軍は高機動型のゾイドの研究に力を入れ始めた。
 結果、高機動型のゾイドは既存の重武装型のゾイドより重視された。
 ゴジュラスやアイアンコングのようなゾイドを差し置いて、戦場の花形にのし上がった。


35 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/14(金) 01:18:11 ID:???.net

 そんな状況の中、ライガーゼロはその高機動型のゾイドとして開発された。
 兵器開発局への期待は高かった。
 新規開発である故に既存の高機動型よりも一段上のゾイドである事が求められた。
 結果、機動力はもちろんの事、他の先進性も期待される事になった。
 しかしながら、様々に要求された事に対し、問題は色々とあった。
 大型ゾイドとなるとそれを扱えるパイロットの数は少ない。
 加えてベースに野生体のゾイドを使用するために生産数は少ないだろうと事も予想された。
 そして、中央大陸侵攻は電撃戦が予想され、それに対応できる即応性が必要だった。
 総力を持って最高速度の進撃を行う。
 その為には、電撃戦の要となる高機動性ゾイドに万能性(マルチロール)が要求された。
 手持ちのカードが少ないので、何でも同一の高機動型ゾイドでやって欲しいって事だった。
 しかしながら強襲砲撃、防衛線突破、後方攪乱、強行偵察。
 同じ機動力を使う行動にしてもすべて同一の武装で行うのはナンセンス。
 それが兵器開発局の結論であった。
 そして、それを可能にするのがCASと呼ばれる即時武装換装システムだった。
 
 それはじっくり開発期間をかけて完成した暁。
 その時にはライガーゼロは鉄竜騎兵団に取って、最高のゾイドになる筈だった。

 そう、あの日、共和国軍にたった一機しかなかった試作機を強奪されるまでは。


36 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/14(金) 01:20:38 ID:???.net

 現在、ライガーゼロは鉄竜騎兵団でも運用されている。
 ただ共和国軍の強奪が行われた結果、開発スケジュールには大幅な遅延が発生した。
 しかし、その頃には大まかなXデーは決定していた。つまり時間が無かった。
 その結果、検討していたCASを廃案にしてまでも完成にこぎつけた。
 それが帝国製のライガーゼロだった。
 ただし、廃案と言ってもソフトウェアのCAS自体は完成しており搭載していた。
 それらを生かす数々の武装やホバーカーゴの様な換装システム。
 運用に必要なハードウェアを構築できなかったという意味で廃案になった。

 そして奇しくも正式名称は『ライガーゼロ』と言い共和国軍と同じだった。
 何故に同じになったのかをレギーナは知らない。
 それにそんな事はどうでも良かった。
 共和国製ライガーゼロ
 それはレギーナとテオドーラにとってはもう一つの意味を持っていた。

 つまり、あれはアンナ・ターレスを葬ったゾイドと同型機であると言う事だった。


37 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/17(月) 22:49:49 ID:???.net

「さて、と。B3。応答願うわ。」
『こちらB3。敵をギタギタにする準備はいつでもできてますよん。おねーさま』

 攻撃を受けたとは言え、いつもながら明るいカヤの声だ。
 それに安心しながらも、レギーナはモニターの端に表示されたそれを見てため息をついた。

「嘘おっしゃい。ダメージレポートはB2を通して貰ってるわ。」
『え・・・。』

 海中に潜んでいるので、見えていないと思っていたのだろう。
 テオドーラの乗る『12号』はデータ収集を目的に各機の情報をリアルタイムで吸い取っている。
 リアルタイムが無理な時は繋がるときにログを即時に回収していた。
 だから今カヤの乗る『エルケ』の機体被害状況はレギーナに手に取るように分かった。
 現状では、はしゃいで敵に挑めるようなダメージではちょっと言い難い。

「・・・カヤは自分が制圧した海堡まで後退しなさい。
 そして、できれば後続の上陸部隊と合流しなさい。分かった?」

 あえてレギーナはコールサインを使わなかった。


38 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/17(月) 22:51:48 ID:???.net

『でも、でも。まだやれるって『エルケ』も・・・』

 渋るカヤにレギーナは思う。
 確かに、デススティンガー14号機こと『エルケ』はまだ戦えるだろう。
 OSによる自己修復も始まっている。だが、しかし・・・。
 まぁ何というか、だからこそレギーナはにこやかに笑った。
 そしてレギーナはできるだけ爽やかにカヤに告げる。

「ねぇ、分かった? と、私は、聞いているのだけど、カヤ・パイントレイル准尉。」

 つまり、とても爽やかすぎて凍りそうな声だった。
 加えて荷電粒子砲の照準を『エルケ』の方へ向ける。

『や、了解(やー)。』

 流石のカヤも青ざめて、レギーナの指示に従った。従わざる得なかった。
 自分の上司を怒らせるとどうなるかは、レギーナは彼女にたたき込んでいたつもりである。
 一瞬、未練がましくみせたが、カヤは『エルケ』を反転させると海堡の方へ向かわせた。


39 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/17(月) 22:53:41 ID:???.net

「さて、これでデススティンガー搭乗者の初の生還者は確保できたわね。」

 カヤを見送ると一息ついて、ぶっきらぼうにレギーナは言う。
 その照れ隠しにテオドーラは苦笑で応える。

『ほんと、相変わらず強引ね。』
「戦場で自分一人逃がされる苦痛を味わせたいだけよ。私がかつて味わった物をね。」
『はいはい、そういう事にしとくわ。』

 肩をすくめるテオドーラはレギーナの判断に不服を言わなかった。
 これから先はデススティンガー2機のみで後続が来るまで持ちこたえる必要がある。
 だから戦力は多い方がいいに決まっている。

「テオ、貴方は悪いけど付き合ってもらうわよ。行先は保証しないけどね。」
『了解よ。元より片道切符以外を買った覚えはないわ。中尉殿。』

 片道切符。別にベルタ小隊の現状だけを指すわけではない。
 鉄竜騎兵団の行き先は中央大陸のみ。今更、暗黒大陸に戻る手段はない。
 だが、レギーナは思う。確かに状況は良くない。しかし。

「そうね。でもやれるわ。テオ。私と貴方なら。」

 少しの間があり、テオドーラの忍び笑いが通信機を介して聞こえていた。
 怪訝に思うレギーナに対し、テオドーラは笑みを噛み殺しながら通信を寄越す。

『たまに惚れちゃいそうになるわよ。』

 レギーナは口元に笑みを浮かべながらも、できるだけ憮然と応えた。

「・・・嬉しくかないわよ、同性に言われてもね!」


40 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/27(木) 18:32:10 ID:???.net

「分かっていると思うけど、最優先事項はハリネズミ2機の撃破よ。」
『やっかいなのはEシールドをすり抜ける砲撃に、砲撃を受け付けない超電磁シールドね。』

 特にEシールドをすり抜ける砲撃は、後続の上陸艇に取って最大の障害になる。
 上陸前にすべて撃沈されてしまう可能性だってある。海に遮蔽物はないのだ。
 だから、これの撃破を確認しないとこの地点での上陸はないと考えていい。
 それはレギーナ達の失敗を意味した。

「脚が比較的遅いのと砲塔が前面のみに集中しているわりに旋回性能がないのが救いね」

 それは逆に真正面からの相対は即時こちらが退場という事だ。

『側面からの格闘戦に持ち込めば楽勝だわ。となると、護衛のゼロがやっかいね。』
「ゼロの武装は『橙(オーランジェ)』に『蒼(ブラオ)』だったかしら。」

 「橙」は7本のレーザーブレードとEシールドと備えた格闘戦仕様。
 本来持つ機動力に防御と格闘力を付加する事で、最高の突破力を持つ。
 「蒼」はフレシキブルに可動する大型イオンブースターを備えた高機動追撃仕様。
 「人間攪拌機(マンシェイカー)」と呼ばれるまでに機動力を極限までに上げている。
 共和国での呼び名はそれぞれ「裁断師(シュナイダー)」と「猟師(イェーガー)」だった。


41 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/27(木) 18:36:20 ID:???.net

『なんて醜い武装だ事。』

 レギーナはそうは思わない。むしろ、敵機ながらなかなか流麗な武装だと思う。
 だが、テオドーラはライガーゼロの開発に関わっていた為にその愛憎も人一倍だ。
 それにCASはテオドーラが当時の仲間と共に夢見たシステムだった。
 結局それは帝国製のライガーゼロには本当の意味では搭載されていない。
 共和国製のライガーゼロこそがテオドーラが見たかったゾイドである筈
 それを知るレギーナは世の中ままならないものね、と苦笑しながらもそれは指摘しなかった。
 それに、そんなことは聡明なテオドーラの事だ。百も承知だろう。

「まぁ、あれは敵だし、いいんじゃない? 遠慮なく叩き潰せるわけだし」
『それもそうね。土中潜航で先行するわ。向こうに出たら合図を出すわ。』
「待って、私が先行するわ。」

 一応、隊長は自分だという自負がレギーナにはあった。
 部下に進んで危険な事をさせるわけにはいかない。
 だが、テオドーラはそれを断った。

『ギーナ。貴方は潜るのあんまり好きじゃないでしょ。これは私の役目。』


42 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/27(木) 18:38:22 ID:???.net

「・・・分かったわ。無茶はしないでね。」
『了解。ま、すでにしてる気もするけどね。』

 そう言い残すとテオドーラの『14号』は地面に潜り始めた。
 地面に潜ると敵からの発見が困難になる。
 しかしレーダーが使えない上に周りの状況が分かりにくくなると弱点もある。
 だから土中から頭を出す時は細心の注意を払う必要がある。
 もちろん、速度も地上とは雲泥の差ほどのものしか出ない。
 逃げの一手ならいざ知らず、土中潜航を攻撃に組み込むのは意外に高等技術だった。
 だから、レギーナ達、スティンガー乗りは土に潜らない事が多かった。
 しかし、テオドーラは好んで土中潜航を使う。
『だって、搭載機能を最大限に使わないのはもったいないじゃない。』
 というのが本人の言い分である。
 そして、実に技術者らしい本末転倒気味な意見だなというのがレギーナの感想だった。

 レギーナは再度マップをモニターにAR(拡張現実)で表示する。 
 ここから市街地まで極めてゆるやかな坂だ。
 そして、市街地はそこから一段上になっている。4〜5mぐらいの高さだ。
 そこは昔の海岸線だろう。
 グランドカタストロフィの影響で陸地が隆起したというのはよく聞く話だ。
 敵はそこに並び立つ建物群の隙間からこちらへ狙いを付けている。
 さの優位と言っても大したことはないが、それでも上陸部隊を狙うには十分だった。


43 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/01/27(木) 18:41:15 ID:???.net

 そう、敵はすでに進軍を止めている。
 2機のガンブラスターも市街地の建物の谷間で悠然と構えている。
 彼らは超電磁シールドを装備している。
 それはこちらの切り札である一撃必殺の大型集束荷電粒子砲すら受け付けない。
 時間を稼ぐだけなら彼らは相対するだけで良かった。
 ただし、テオドーラの『14号』が潜った事で慌ただしくなっている。
 観測機器がこの町のあちこちに仕掛けられているのはレギーナ達も先刻承知だった。
 問答無用で無差別になぎ倒したかったが、街への被害は最小限に抑えるようにとの通達が出ている。

「それでも、攪乱ぐらいはしておかないとね。」

 レギーナはそう呟くと、デススティンガーを市街地の方へ向ける。
 そして一気にブースターに火を入れた。
 デススティンガーの巨体が即座に動き出す。
 レギーナは一気に敵陣に向けてデススティンガーの身を躍らせた。

「さて、本隊到着までの前座を務めますは、スティンガーギャルズの二人組でございってね!」


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