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自分でバトルストーリーを書いてみようVol.31

1 :気軽な参加をお待ちしております。:2010/11/20(土) 22:42:15 ID:???.net
「銀河系の遥か彼方、地球から6万光年の距離に惑星Ziと呼ばれる星がある。 
 長い戦いの歴史を持つこの星であったが、その戦乱も終わり、
 平和な時代が訪れた。しかし、その星に住む人と、巨大なメカ生体ゾイドの
 おりなすドラマはまだまだ続く。

 平和な時代を記した物語。過去の戦争の時代を記した物語。そして未来の物語。
 そこには数々のバトルストーリーが確かに存在した。
 歴史の狭間に消えた物語達が本当にあった事なのか、確かめる術はないに等しい。
 されど語り部達はただ語るのみ。
 故に、真実か否かはこれを読む貴方が決める事である。」

気軽な参加をお待ちしております。
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"自分でバトルストーリーを書いてみよう"運営スレその3
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1250287817/l50

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「自分でバトルストーリーを書いてみよう」まとめ
ttp://www37.atwiki.jp/my-battle-story/
ZOIDS battle story(携帯用まとめ)
ttp://98.xmbs.jp/zixxx/

44 :名無し獣@リアルに歩行:2011/02/01(火) 23:11:18 ID:???.net
定期age

45 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/02/13(日) 01:12:25 ID:???.net

 金属の軋む鈍い音が大音量でクック市の工業区画に響き渡る。
 約320tの重量が掛かったバイトシザーズの一撃。
 そしてバイトシザースは挟んだ敵を、そのまま後方の建物の壁に叩き付けた。
 それだけでスナイプマスターの基本フレームを軋ませて、あっけなく破断させた。
 そしてその30t足らずの小型獣脚恐竜型ゾイドは断末魔を上げて、沈黙する。

 スナイプマスターは傑作機と言われたガンスナイパーの流れを組む最新鋭の小型汎用ゾイドだ。
 また、その名にふさわしく144mm口径のスナイパーライフルを装備している。
 カノントータスのカノン砲を除けば、小型ゾイドにとっては破格の装備だ。
 ライフリング(施条)によって砲弾を回転させて軌道を安定させる。
 砲弾が回転する為、風など影響も受けにくい。
 だから狙撃の精密さだけでは、確かに無回転の滑空砲以上の威力を発揮する。
 だが、それは精密さだけだ。
 無回転の方が良い対装甲榴弾や装弾筒付翼安定徹甲弾の発射には適さない。
 つまり、高威力の砲弾を使用できない事を意味した。

 それは対デススティンガー戦に置いて致命的だった。


46 :名無し獣@リアルに歩行:2011/02/13(日) 01:15:35 ID:???.net

 それにスナイプマスターは火器管制者と操縦者の二人が乗る。
 おそらくどちからが新兵だったのだろう。もしくは二人ともか。
 意思疎通がうまく取れていない節があった。
 それに二人ともスナイパーライフルの威力を過信しすぎていた。
 中型機や装甲の薄い高機動型の大型ゾイドなら、それで十分だったかもしれない。
 だからレギーナはそれを見切ると、最速で接近した。
 湾岸は大抵の街に置いて、海運による資材運搬の利便がある為、工業区画になる。
 惑星Ziに置いて、工業区画は大型輸送ゾイドであるグスタフの基準で整備される。
 その為、道路が広い。
 デススティンガーは倉庫や工場を盾にしつつもその広い道路を使ってスナイプマスターに接近。
 道が広いので、多少は左右に軌道を描ける。
 ガンブラスターの援護射撃はあったが、それは周りの建物で上手く回避した。
 予想通り、混乱した彼らはスナイパーライフルを最後まで打ちまくった。
 近距離ならデススティンガーの装甲を撃ち抜けるに違いないと思ったのだろう。
 だが、死獣と呼ばれたデスザウラーに匹敵する超重装甲はそれをものとしなかった。
 近づいてからは、もうバイトシザーズだけで十分だった。
 持ち手の武器が効かない敵、しかも重量で言えば10倍以上の敵が接近してくる。
 スナイプマスターのパイロットがどんな恐怖を感じたか、レギーナは想像できた。
 だが、レギーナは容赦しなかった。手を抜くわけにはいかなった。
 スナイプマスターの断末魔は呆気ないものだった。
 レギーナはバイトシザースに挟まったままのそれを持ちあげると、放り投げる。
 できるだけ惨たらしく振る舞って、敵に注意を引きつける必要がある為だ。
 それに加えて恐怖を植え付けられれば言う事はない。
 勝手に怯えて、その能力を委縮してくれればなお最高だ。

47 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/02/13(日) 01:18:59 ID:???.net

 現在、共和国軍でのデススティンガーの対処法と伝えられているのはたった一つしかない。
 装甲の間の関節を狙え。超重装甲と言えどそこは弱点だ、と。
 それを聞いたテオドーラが鼻で笑ったのをレギーナは覚えている。
『高速で動いているこの子の関節を狙う? 本気で言ってるの?』
 ライガーゼロの様なゾイドが近距離でその本能で狙うならばそれはありかもしれない。
 だが、スナイパーライフルはFCSの支援があるとは言え人の手だ。
 じっとしているならともかく機動中のデススティンガーに当てるのは至難の業だった。
 それは神経を尖らせて撃つより、神に祈った方がマシなぐらいに。
 そして、関節を狙うのはデススティンガーに限った話じゃない。
 すべてのゾイドに当てはまる弱点だ。
 つまり「うまくやれば倒せるかも」としか言っていないのと同じだ。

「小型機がどんなに束になってもデススティンガーは倒せないわ。」

 仮にも新型であるスナイプマスターさえそれは覆せなかった。
 レギーナは残りのスナイプマスターも同様に撃破、もしくは追い払う。
 当然、隠れていたメガレオンもたまらずミサイルを発射してきた。
 しかし、瞬間にエアタグをつけて、容赦なく砲撃を加えていく。
 だが、それもガンブラスターの居る場所を迂回しながらの進軍だった。
 ライガーゼロともまだ交戦していない。
 攻勢のタイミングはテオドーラ次第だ。

「テオ。女が待たせて良いのは男だけなんだから、早くしなさいよ。」

 レギーナはそう呟くと、遮蔽物に身を寄せながらも、次の標的へと狙いを付けた。


48 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/02/22(火) 00:08:02.50 ID:???.net

 レギーナが懸命に孤軍奮闘で戦うその上空。
 その空で舞うグレイグクアマ隊はよく彼女を援護してくれた。
 レギーナがガンブラスターの射線に入らずに済むのも彼らの上空からの報告があるからだ。
 何か変化があれば双方向通信にてリンクされたシステムが報告してくる。
 それは即座にレギーナの見る半周モニターにエアタグとしてポップアップされる。

 だが、敵ストームソーダーはまだ健在だった。
 それはグレイグクアマが到達できない超高空から魚を狙う鳥の様にダイブしてくる。
 そして、一撃離脱で超高空に戻っていくを繰り返していた。
 ロールアウト後も改良が続けられた三つのジェットエンジンポッドによる加速力は半端ない。
 未だに最強の空中格闘機を名乗るだけはある。
 しかも標準機ではない。ステルス仕様らしく、レーダーに映りにくい。

 地上に集中していたグレイグクアマが何機も一瞬で真っ二つにされた。
 正直、全体から見れば些細な損害だったが、実に効果的な嫌がらせだった。
 たった一機でグライグクアマ部隊の集中力を分散させているのだから。
 その上、地上には姿の見えない対空ゾイドであるメガレオンが居るのだ。
 
 空の上がそんな事もあり、レギーナは少しづつではあるが、追い込まれつつあった。
 雑魚ばかりと言え、今のところは数的優位は共和国にある。
 下手の鉄砲でも数が揃えば、神に祈りが通じる可能性だってある。
 そして高機動CAS装備のライガーゼロが動いていた。
 障害物の多い街中でもそれを物ともしない超高速の機動性。
 マンシェイカーと呼ばれたそれを十二分に操るゾイド乗りが乗っている事は明白だった。

「まったく。エースは全部出払ってるんじゃなかったの。鉄竜でも情報部は当てにならないのかしら?!」

 悪態をつきながらもレギーナは必死にライガーゼロとの距離を保つ。
 イェーガーと呼ばれるそのCASは高機動に特化している分、武装がおろそかだ。
 だから一撃必殺と言われている四肢のストライクレーザークロウさえ気を付ければいい。
 それ以外にデススティンガーの超重装甲を撃ち抜ける可能性のある武装はない。

49 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/02/22(火) 00:09:19.29 ID:???.net

 だから懐に飛び込まれ、格闘戦に持ち込ませるのは何かとよろしくない。
 だが、デススティンガーの反応速度とてそう馬鹿にしたものではない。
 機動性とは最高速度だけを指すのではない。
 100%の出力を発揮するデススティンガーの反応速度はライガーゼロとて気の抜ける相手ではない。
 それに一対一では負ける気がしなかった。
 ニクシー基地強襲で投入されたデススティンガーはたったの10機。
 それに対して、共和国が投入した戦力は師団クラスの大部隊だ。
 とは言え、それでもデススティンガーはニクシー基地に大ダメージを与えられる筈だった。
 ライガーゼロを極秘裏に量産している事を帝国の情報部は掴んでいた。
 それでもCASの応用を含めてあそこまで短期間に完成させて来るとは誰も思っていなかった。 
 奴らを、共和国を本気にさせてはいけない。本気になる前に叩いしまう必要がある。
 この上陸作戦とて遅かったぐらいだと、レギーナは痛感していた。
 こんなやっかいな敵と戦っているのだから。

 とその時、あるエアタグがポップアップされる。
 戦いは熾烈を極めていたが、それを見たレギーナは口元をほんのりとゆるめた。
 ようやくお出ましだ。まったく、と思いつつ軽口を叩く。

「遅いわよ。ガラスの靴を脱ぎ棄てて家に帰る所だったわ」
『それなら家まで追いかけて、荷電粒子砲を打ち込まなきゃね。』

 テオドーラが向こうの陣地にたどり着いた。

 さて、ここからが本番だ。


50 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/02/22(火) 00:13:51.04 ID:???.net

 テオドーラ・トーリマンが『仕立て屋』と呼ばれるようになったのは、そんなに昔の話ではない。
 テオドーラはその昔、ライガーゼロのCASシステム構築における担当者だった。
 だが、それは帝国に置いては廃案となり、夢破れてテオドーラはゼロの開発チームを去る。
 そして流れ流れて、何の因果かデススティンガーの再開発チームに転属となる。
 いや、何の因果でもなんでもない。
 ゼネバス国民の血を引き、秘密裏にネオゼネバス建国の準備を手伝っていたからだ。
 彼女に言わせればそれすらも成り行きのようだが。

 正直、その頃もデススティンガーはあまり期待されて居なかった。
 当たり前だ。
 OSはその頃、ガイロス帝国に取って危険視されていた。
 直接ゾイドに搭載するのはもう止めようと言う意見が大半だった。
 その頃にはOSによる培養技術が確立していた。
 そしてそれを使えばOSを搭載しなくとも強靭なゾイドを量産できる事が判明していた。
 OS搭載機は時代遅れ。
 だが、テオドーラは落胆はしてはいなかった。
 彼女には転属の際に一つの可能性が提示されていた。

 最後の欠片
 
 かの次期皇帝が確約されいる者が墜ち行くニクシー基地から自ら守り通したと言う小ゾイド。
 それが禁断の・・・いや、希望の扉をこじ開ける鍵だという事は噂には聞いていた。
 それにライガーゼロの実験機はニクシー基地で奪われた。
 因果は絡み合い、敵討ちにはもってこいだ。
 意気込むテオドーラはそこで彼女に出会った。
 彼女はデススティンガーのテストパイロットだった。
 当時、唯一、デススティンガーに耐性を持っていたパイロット。
 彼女こそがあのアンナ・ターレス少尉だった。


51 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/02/22(火) 00:17:32.14 ID:???.net

 彼女とは出会うなり意気投合したが、テオドーラの前の仕事をよく理解してくれなかった。
 四苦八苦しながら説明して、最後にCASを洋服に例えて、ようやく理解したらしく。

「じゃぁ、テオは『仕立て屋さん』なんだね。」

 と分かったのか、分かってないんだか、そんな返答を最後に寄越した。
 それから仕事では事あるごとにアンナはテオドーラを『仕立て屋さん』と呼び続けた。
 テオドーラも拒否しなかった。確かに言いえて妙だと思った節もあった。
 そのあだ名に掛けて、CASをいつかこの手で必ず、とさえ思ったほどだ。

 そしてテオドーラは才能があった。
 デススティンガーの再開発チームに彼女が必要不可欠になるほどに。
 それから程なくして彼女は誰しもに畏敬の念を持って『仕立て屋』と呼ばれる様になった。
 だが、テオドーラを最も『仕立て屋』と呼んだ彼女はもう居ない。
 テオドーラは彼女を殺したのは自分だったと認識している。
 暴走を必要以上に恐れ、出力を絞った状態で出撃させたのはいくら悔いても足りないぐらい、だと。


52 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/02/22(火) 00:18:55.76 ID:???.net

 そして彼女はデススティンガーのパイロットに志願する。

 だが、それはけじめにもならない。
 それは分かっている。
 彼女がこれと同じゾイドに乗り、何を思い戦ったのか。パイロットになった所で分かりはしない。
 それも分かっている。
 デススティンガーの有用性を証明した所で、彼女は帰ってこない。
 そんな事は分かり切っている。
 だが、彼女はどうしてもこれに乗る必要があった。
 デススティンガーと最後の欠片と呼ばれた小ゾイドは可能性の塊だった。
 OSは今度こそ間違いなく完成する。
 そしてデススティンガーは必ずこの手で完成させる。
 だが、時間が足りない。圧倒的に時間が足りない。
 テオドーラは知りたかった。ゾイドと人を繋ぐものは何か。
 どうしてアンナが制御不能と呼ばれたこのゾイドの固く閉ざされた心をこじ開けられたのか。
 それはこれに乗って、戦う以外に分からない。

 そんな確信がテオドーラにはあった。


53 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/02/22(火) 00:24:52.25 ID:???.net

 まずいな、と素直にテオドーラは思った。
 地中潜航で飛び出したはいいが、あまり良い場所ではない。
 目標の後ろに出たはいい。ガンブラスターとの距離も良い感じだ。
 だが、近接戦闘型のライガーゼロ、シュナイダーがこちらにすでに気づいている。

 そりゃ振動センサーぐらいはあるわよね。
 地中に居た時は気づかれていないと思うが、流石に地表近くに出てくれば気づかれる。
 時間との勝負なのは未だ変わらず、テオドーラはすぐに判断を下して進軍を開始する。
 デススティンガーの4対の脚が道路を蹴りつけ、先端の爪で道路が爆ぜる。
 一番後ろについている遊泳脚のイオンブースターを吹かして一気に速度に乗る。

 デススティンガーの挙動は安定している。
 『クロ』も『12号』もそして自分も落ち着いている。
 それを確認して、手元の荷電粒子ジェネレーターの起動スイッチを押しこむ。
 ややあって、荷電粒子ジェネレーターが、うなりを上げて荷電粒子を生成し始めた。
 デススティンガーの機体温度がみるみるうちに上昇していく。
 
 そしてガンブラスターに居る大通りに躍り出る。
 右のバイトシザースを軸にイオンブースターをサイドに吹かして、90度ターン。
 殺しきれなかった慣性は左のバイトシザースを角の建物にぶつけて黙らせた。
 轟音と洒落にならない振動がコクピットにも襲い掛かるが、テオドーラは必死にそれに耐える。
 くらくらする視線でモニターを見やると大通りに向こうにガンブラスターが見えた。
 すぐに拡大画面がポップされて、注意を喚起する赤い文字が躍る。
 見やるとガンブラスターはこちらに向けて転回中だった。

54 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/02/22(火) 00:26:25.29 ID:???.net

 そして、もう一つ注意喚起がポップアップ。2時の方向からライガーゼロが接近中。
 ガンブラスターが発砲を開始する。もちろん、こちらに射線は向いていなかった。
 だが、辺りの建物を容赦なく倒壊させながら、射線は確実にこちらに迫り来る。
 テオドーラは迷わなかった。すぐさま荷電粒子砲を放つ。
 轟音と閃光。
 尻尾内部の仕込まれた粒子加速器と収束器を経た荷電粒子が狙い違わずガンブラスターへと掃射される。

 ガンブラスターの超電磁シールドはジェノザウラークラスの荷電粒子砲に10秒以上耐えると言われている。
 それはテオドーラは百も承知だった。
 だが、しかしだ。遠距離ならともかく、ここは近距離と呼んで差支えない距離だ。
 思わず思考が口に出てしまう。

「あんな欠陥ゾイドと私が手塩を掛けたデススティンガーの荷電粒子砲を一緒にしないで欲しいわ。」

 遮光機能を持ってしても閃光に埋め尽くされたモニターの端にウィンドウがポップアップする。
 上空のグレイクアマが寄越したガンブラスターの映像だった。タイムラグは1秒。上々だ。
 ガンブラスターは慌てて、超電磁シールドにエネルギーに回したのだろう。
 荷電粒子砲にさらされるガンブラスターは身動きが取れていない。
 
「いい加減に墜ちてくださらないかしら!」
 
 テオドーラの叱咤が通じたのか解らないが、ついに超電磁シールドが荷電粒子砲の熱量に負けた。
 後は一瞬だった。ガンブラスターは閃光の濁流に飲まれる。
 荷電粒子砲の掃射が終わり、後に残ったのは、つい先ほどまでゾイドだったガラクタだけだった。

 テオドーラはすぐさまに左を見る。
 道の先に7本のレーザーブレードを展開したライガーゼロが居た。


55 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/02/22(火) 00:28:39.09 ID:???.net

「遅かったわね。色男。」

 ライガーゼロ一機ぐらい、デススティンガーなら・・・。
 と思ったのもつかの間だった。テオドーラは気づいてしまった。
 モニターの端。注意を通り越して、警告に変わった文字が発光していた。

 機体温度が限界を突破していた。
 最大駆動の走行直後に全力の荷電粒子砲の掃射。
 前者はともかく後者は機体温度が上がらないわけが無い。
 熱量によりインターフェイスである『クロ』のバイタルも低下していた。
 デススティンガーの反応が鈍い。それにこのまま行けば暴走を遮断する安全装置が・・・!
 焦るテオドーラだったが、ライガーゼロ・シュナイダーは一気に距離を詰めた。

 まず尻尾がやられた。
 中ほどから真っ二つに切断された。
 守るべき仲間をやられた怒りがあるだろうにライガーゼロは一撃でこちらを沈めようとはしなかった。
 それだけ慎重だった。

 だが、流石に今の手ごたえでこちらの異変に気付いてしまっただろう・・・。
 こうなった以上、一目散に逃げるのも手だ。だが、それはできるか、どうか・・・。
 ライガーゼロは間合いを取ってEシールドを展開して、こちらの様子をうかがっている。
 そして極限状態で頭がどうかしていたのかもしれない。
 その姿を見て、場違いにもテオドーラは思った。

 凛々しい姿だと。自分が夢見たゾイドがそこに居る、と。
 
 そう素直に思ってしまった。

56 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/02/22(火) 07:41:09.38 ID:???.net

 口元から乾いた笑みがこぼれる。
 だから、テオドーラは腹をくくった。
 なおさら、負けるわけにはいかなくなった。
 
「・・・『仕立て屋(シュナイダー)』なんて誰に断って名乗っているのかしら。」
 
 手元に、キーボード端末を素早く引き寄せて、あるパスワードを入力する。
 OSの安全装置を解除した。そしてインターフェイスの小ゾイドの介入を切断する。
 それがどういう事なのか、システムをよく理解しているテオドーラはよく知っていた。

 欠陥のオーガノイドシステムは操縦者の魂を喰らう。
 だが、その代わりに強大な力を授かるのだと、前線の兵士のもっぱらの噂だ。
 そしてそれはあながちウソではない。
 テオドーラは笑みを浮かべる。笑う以外に何ができると言うのか。
 
 視線の先にはこちらに突っ込んでくるライガーゼロ・シュナイダー。
 そして彼女が覚えているのはその光景が最後だった。 


57 :名無し獣@リアルに歩行:2011/03/01(火) 22:30:16.64 ID:???.net
定期age

58 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/03(木) 23:18:09.81 ID:???.net

 レギーナは我が目を一瞬疑った。
 視界の隅で電子音と共に『B2』の敵味方識別信号(IFF)のアイコンが弾けて消えた。
 間髪入れずにマップ上の『B2』付近に居た『敵ゼロ2』のアイコンも消えた。
 そして、『B2』の反応消失を告げるメッセージがポップアップして小さく踊る。
 タイムラグがあり、グレイヴクアマからの映像ウィンドウがポップアップ。
 映像の中のデススティンガーとライガーゼロはお互い組み合ったまま沈黙していた。

 レギーナの脳内に過去の記憶が、ニクシー港の悲劇が、フラッシュバックしていく。
 一瞬、思い浮かんだアンナ・ターレスの笑顔がぐちゃりと潰れる。
 そして代わりにライガーゼロに潰されたデススティンガーの頭部の映像が頭の中を塗りつぶしていく。
 最悪の予測が脳裏によぎる。
 それを振り払うようにレギーナは叫ぶ。

「テオ! 返事しなさい。テオ!」

 叫んでみたが、反応はない。
 絶対に生き残ると約束した戦友は、親友は返事を寄越さない。
 レギーナはテオドーラがOSを不完全化している事を知らない。
 映像はそれなりに鮮明だが、ライガーゼロはデススティンガーに覆いかぶさっている。
 コクピットのある頭部がどうなっているか、分からなかった。
 その為、上空からはテオドーラの安否は確認できない。


59 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/03(木) 23:19:29.00 ID:???.net

 今すぐ救出に向かうべきだとすぐさま判断するが、それは許されない選択である。
 レギーナの辛うじて残っている冷静な部分が爆発しそうな感情をギリギリで押さえていた。
 どうすればいい、とレギーナは必死に思考をぶん回す。

 命令的な意味でも、状況的な意味でも、今すぐに救出に向かう事はできない。
 空爆要請はできない。街は極力傷つけない事が鉄竜騎兵団上層部の決定。
 そして、敵拠点をピンポイントで潰す空爆部隊はベルタ小隊と入れ替わりで帰還している。
 たった一人のパイロットの為にそれを呼び戻す事は適わなかった。
 そして、上陸候補地点はベルタ小隊だけが切り開くわけではない。
 残り2小隊の切り開いた場所から上陸してもいい。

 結局の解決策は一つだった。
 残りのガンブラスターを撃破するしかない。
 敵も上陸を阻止する要を失えば撤退するに決まっている。
 その為にはライガーゼロの追撃とガンブラスターの迎撃をどうにかしなければならない。
 レギーナはもうアンナやニクシー湾で散った仲間の二の舞はごめんだった。


60 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/03(木) 23:24:56.59 ID:???.net

 それは昔の話だ。
 レギーナがニクシー湾上陸作戦に参加しなかった事に対し、彼女自身には理由がなかった。
 作戦参加の意思表示はしたのだが、選ばれなかった。
 作戦の為に用意されたのは10機のKFD仕様のデススティンガー
 その頃、デススティンガーの為に集められていた操縦士の数は15名。
 2/3の確率に漏れた。それだけの事だったのだ。

 操縦士はすべてゼネバス兵でまとめられていた。
 デススティンガーの操縦士に「使い捨て」とさえ揶揄されたゼネバス兵は打ってつけだった。
 だが、だからこそ仲間の結束は強かった。
「この行為がゼネバスの技術発展の為になるのであれば」
 とモルモットになる事でさえ彼らには誇りであった。

 出撃の前日。レギーナはアンナに出撃の交代を持ちかけていた。
 レギーナは彼女を危険な任務に出す事には反対だったからだ。
 彼女は当時整いつつあった鉄竜騎兵団に取って必ず必要不可欠な人物になる。
 そういう確信がレギーナにはあった。
 デススティンガーの再開発チームの中心はアンナとテオドーラ。
 それは誰の眼から見ても分かり切った事。
 そんな人物をこんな作戦で使うなど何とも勿体ない話だった。
 だが、アンナはそれに対して怒った。

「貴方の命と私の命を気軽に天秤に掛けるのはやめて頂戴。」


61 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/03(木) 23:29:05.87 ID:???.net

 そう言われ、言葉を失うレギーナにアンナは胸を張って笑みを浮かべた。

「それに大丈夫よ。私は必ず帰ってくるわ。」

 いつも通りに自信満々なその態度にレギーナは不安を拭い去るにように笑みを返した。
 そして彼女のお決まりの言葉を口にする。

「ヴォルフを皇帝にするまで死ねないって?」
「そうそう。」

 それがレギーナの知る最後のアンナ・ターレスと言う女の笑顔だった。 

 それは昔の話だ。
 レギーナは仲間に、そして仲間の象徴であったアンナ・ターレスに負い目がある。
 あそこで死ぬべきだったのは、自分だったと言う思いさえある。

 だが、だからこそもう死ねないし、むざむざ仲間を殺されるわけにはいかなかった。


62 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/03(木) 23:32:43.17 ID:???.net

 テオドーラが撃破された頃、レギーナはいくらかガンブラスターに近づいていた。
 包囲され追い詰められはしていたが、それでも何とか敵陣へと侵攻はしていた。
 逆に言えば、敵陣に踏み込んだからこそ包囲されたとも言えるのだが。
 そして、気づけば飛行場からガンブラスターを中心に半円を描くように市街地へ駆け上っていた。

 そこはもうガンブラスターの居る場所と同じ高さだった。
 すでに市街地区に乗り込んでいる為に、ガンブラスターの掃射は限定的だ。
 旋回能力がないのと建物が邪魔して上手く狙いが付けられないからだ。
 ガンブラスターの砲は正面に固定されているので、接近する程、狙いを付けるのは遅くなる。
 だが、ガンブラスターの機動力の無さをライガーゼロが補っている。
 そして小型ゾイドも大して障害にはならないが、数だけはいた。
 今の状況を打破するには一機では無理だ。
 すがるような思いで、レギーナは敵に傍受されている可能性も捨てて無線で叫ぶ。

「誰か、誰でもいい。誰でいいから『ハリネズミ』と『ゼロ』の脚を止めて!」

 呼びかけに対しての返答はすぐにあった。

『G1よりB1。すまない。何とかできそうなものを積んでいる機体はない。』

 歯がゆさを含んだ声。グレイヴクアマ隊の隊長から通信だった。
 彼とて、空中からずっと眺めているだけはつらかったのだろう。


63 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/03(木) 23:38:06.32 ID:???.net

 確かにグレイヴクアマの装備に対地攻撃用の装備はない。
 パルスレーザーガンが転用できるが、飛行ゾイド相手ならともかく地上用のゾイドには・・・。
 後は地上に近づいて、四肢のキラークローにて格闘戦を挑むという手もあるにはある。
 だが、間違いなく近くに光学迷彩で伏せているメガレオンの餌食になる。
 しかし、思いもよらない声が介入してきた。

『E1よりB1。AZミサイルがある。行けるか、フラウ。』

 雑音交じりではあるが、それはあのウオディックのエミル小隊の隊長の声だった。

 それは偶然だった。
 エミル小隊は敵ハンマーヘッド部隊を掃討し終わったわけではない。 
 空中に逃げたハンマーヘッドを対空ミサイルで撃ち落としてやろうと思って海上に出ただけだった。
 だが、偶然でもなんでもいい。光明が見えた。閃きがレギーナの脳内を駆け巡る。

「B1よりE1、それで十分よ! B1よりG1・・・」
『分かっている。G1よりE1、ミサイルを誘導する。全弾3番ポートを開けておけ』
『E1よりG1。了解だ。暗号は今、秘匿通信で送った。ミサイル代はツケておくぜ。』
『うるせぇ・・・だが、代わりに終わったら一杯やろうぜ! 魚野郎。』
『了解だ、鳥野郎。装填完了。全弾発射の大盤振る舞いだ。E2、E3も続け!』
『G1よりG小隊各機。B1の指定した地点にミサイルを誘導しろ。取り合いすんなよ!』

 うちは馬鹿ばっかりだ、とレギーナは思う。
 だが、それでいいのだ。
 中央大陸への帰還とゼネバス復興なんて、馬鹿以外にできるわけがない。
 そして、操縦桿を握りながら、自分も馬鹿なんだな、と思う。
 レギーナは無性にそれが嬉しかった。自分が今、戦っている事が本当に嬉しかった。
 視界の隅にミサイルが発射された事がポップアップで表示される。
 レギーナは迷わずデススティンガーをガンブラスターに向けて前進させた。


64 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/04(金) 20:39:06.42 ID:???.net

 それはミサイルと言う名の壁だった。
 ウオディックの積んでいるミサイルは狙い違わず、着弾した。
 そのミサイルはほとんどがデススティンガーに向けられたものだった。

 ミサイルの雨の中、市街地を駆け抜ける。
 後ろから吹く爆風すら前進へのベクトルに変える。
 並みの装甲のゾイドならば撃破されているほどの味方からのミサイル攻撃。
 自殺行為に見えたが、デススティンガーは爆風の中、確実に前進していた。
 それはデススティンガーの超重装甲と重量だからできる芸当だった。

 だが、無茶は無茶だ。各部のストレス値が跳ね上がる。恐らく長い間は持たない。
 そして降り注ぐミサイルの中、ライガーゼロはデススティンガーに接近できずに居た。
 爆風と共に移動するデススティンガーに真正面から挑む馬鹿は居なかった。
 逃げ遅れた敵はバイトシザーズとその重量で容赦なく吹き飛ばす。
 
 しかし、ガンブラスターはそんなデススティンガーの行動を把握していた。
 デススティンガーが進軍する大通りへ姿を現そうとしていた。
 それは絶対避けるべき正面相対だった。

 でも判断が遅かった。
 ライガーゼロの足止めがあれば、もう少し余裕をもって相対できただろう。
 そう、両者の距離はすでに近かった。


65 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/04(金) 20:44:30.26 ID:???.net

 レギーナはデススティンガーを最高速度に乗せていながらも荷電粒子砲を撃った。
 出力は70%前後。
 テオドーラの時と違いデススティンガーは前進している。
 超電磁シールドを打ち破る必要は無い。相手に近づくまで持てばいい。
 だが、生成された荷電粒子の粒子量は心もとない。
 そして遊泳脚のイオンブースターを限界値まで振り絞る。
 320tの自重を支えるには少し心細いが、それでも健気にアフターバーナーを吹く。
 
(お願い。持って頂戴!)

 だが、懇願に反してガンブラスターに近づく前に荷電粒子ジェネレーターが音を上げた。
 そして、すぐに砲口から吐き出される荷電粒子の量が減り、ついに消えた。
 幾らなんでも全力駆動中に荷電粒子砲の掃射は長くは持たなかった。
 そして無傷のガンブラスターとの距離はもう目と鼻の先。
 ガンブラスターのハイパーローリングキャノンの砲身はまっすぐデススティンガーに伸びていた。
 だが、レギーナは目を逸らさなかったし、諦めなかった。
 
「このおおおおお!」

 レギーナは左のバイトシザースで地面を叩きつけ、全部の左脚を使いデススティンガーを右に跳ばす。

 完璧には間に合わなかった。
 左のバイトシザーズが被弾。左後二脚と尻尾も被弾。
 デススティンガーの悲鳴、痛みが精神リンクを通じてレギーナに襲い掛かる。
 だが、まだ動ける。

「うるさい! あと少し根性見せなさいよ!」

66 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/04(金) 20:48:10.58 ID:???.net

 檄を飛ばしながらレギーナは操縦桿を更に握りしめる。
 デススティンガーはビルを吹き飛ばしながら、それを足場に斜めからガンブラスターに跳びかかる。
 ガンブラスターも射線を必死にデススティンガーへ向けようとする。
 デススティンガーも右腕部のレーザーブレードを展開。
 それを突き出すようにガンブラスターへと向けての突進。
 どちらが先か。それはレギーナにも分からなかった。

 そして両機は激突した。

 回転するハイパーローリングキャノンにレーザーブレードが斜め横から食い込んだ。
 破壊音をまき散らしながら、レーザーブレードが砕ける。
 だが、異物を巻き込んだハイパーローリングキャノンもまた激しい異音を発した。
 そして、それから破壊音と共に煙を吐きながら沈黙してしまう。

 その上でデススティンガーの突進はそれだけで終わらなかった。
 320tの質量は125tのガンブラスターをひっくり返して、自身も近くのビルに激突した。
 超重装甲とは言え、頑丈なフレームを持つとは言え、それはかなり効く。
 レギーナはコクピット中で、血反吐を吐きそうなランダムなGと衝撃に翻弄された。
 だが、それもすぐに終わる。
 瞬時に発動した再利用型のエアバックを払いのけレギーナは顔を起こす。

67 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/04(金) 20:52:34.78 ID:???.net

 モニターに目を走らせて自機のダメージチェック・・・は、ほとんどできなかった。
 システムの半分以上が死んでいた。
 ARはすべて消えていた。
 駆動系は辛うじて生きているが、索敵系と通信系が完全に死んでいる。
 それらと連動して真価を発揮する火器管制システム(FCS)は完全にダメだろう。
 射撃系の兵装に限らず、兵装は全部死んでいるに等しい。
 それでも視覚センサーは死んでいない。
 それらハードウェアに頼らない精神リンクもまだ繋がっている。
 デススティンガーからは、言語化すれば「ひゃっはー」に近いテンション高めな意思。
 ハイイロからは「そろそろ勘弁してくれ」という意思が周りの情報と共に伝わってくる。
 
 そして、ガンブラスターはまだ生きていた。
 だが、ひっくり返っている上に、拠点防御兵器と言う意味合いでは死んでいた。
 この地点の鉄竜騎兵団本隊の上陸に際するすべての脅威は消えた。
 思わず口元を緩めるレギーナだったが、直後に溜息を吐いた。
 
 ここで一息つければいいのにね。

 とレギーナは思った。
 レギーナだって忘れては居なかった。今の状況を、だ。
 これから驚異の消えたこの地は鉄竜騎兵団の本隊が蹂躙するだろう。
 だが、今現在、この場所は敵地のど真ん中なのだ。
 必死に態勢を立て直そうとするレギーナの視界にはライガーゼロがしっかり映っていた。


68 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/04(金) 20:54:22.61 ID:???.net

 敵討ちか、腹いせか。それは分からなかった。
 ライガーゼロ・イェーガーは最高速度で突っ込んできて、直前で跳んだ。
 レギーナの眼にはモニターを介して光り輝くライガーゼロの爪が見えた。
 ストライクレーザークロウのシステムに火が入ったのだ。
 それは迷わずデススティンガーの頭部を狙っていた。

 一瞬の永遠と呼ぶべき瞬間。時間にすれば0.1秒もない。そんな時間の狭間。
 レギーナは魅入られるように見ていたライガーゼロから視線を逸らすと、目を閉じた。
 もう間に合わないのは分かっていた。
 アンナと同じ死に方をするのだとどこか満足な心すらあった。
 生き残らなければならないのに、それだけが心残りだった。

 ごめん・・・・

 まず最初に誰に謝ればいいのか、レギーナは解らなかった。
 多分、今まで関わったすべての人に謝らなければならないのかもしれない。
 そして、誰しもに構わず謝らずにはいられなかった。

 次の瞬間、自分を殺すだろう衝撃音がはっきりと耳に届いた。 



 ――――――大丈夫よ。
  
 そして最後に懐かしい友の声が聞こえた気がしてから、レギーナの意識は闇に落ちた。

69 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/04(金) 20:56:59.55 ID:???.net

 ・・・。

 意識がぼんやりと戻ってきた。
 そこがデススティンガーのコクピットなのは何とか認識できた。
 しかしレギーナは夢見心地に目を開ける。
 自分が死んでいるのか、生きているのか分からなかった。
 だが、精神リンクを通じて、2つの意識が心配そうに自分の意識を覗き込んでいる。
 それで自分がまだ生きている事が分かった。
 2つ意識はハイイロと13号だった。
 ハイイロはまだしも13号までもが自分の心配をしている事が驚きだった。

「ありがとう。心配ないわ。」
 
 レギーナはそう呟きながら、状況を把握しようとモニターを見る。
 どれだけ意識が飛んでいたのか、分からなかったが、そう長い時間ではないようだ。
 同時に覚醒した意識に、戦闘が行われている音が飛び込んできた。
 近い。すぐそこだ。
 目の前にゼネバスの象徴的な色であるワインレッドの塗装を纏ったゾイドが居た。
 そしてその大型のT−REX型のゾイドがライガーゼロにトドメを刺そうとしていた。 
 馬乗りになってハサミ状の近接兵器、小型のエクスブレーカーをゾイドコアに叩き込む。

 それであれだけ脅威だったライガーゼロは力を失い、地に伏せた。


70 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/04(金) 21:00:29.42 ID:???.net

 バーサークフューラー・シュトゥルムユニット装備型

 あのフューラーの高機動ユニットが開発されているのはレギーナも知っていた。
 テオドーラが開発に加わりたいとポツリとぼやいていたからだ。
 そしてそのユニットは実験段階で瞬間最高速度時速450kmを叩き出したと聞く
 スペックだけなら、ライガーゼロ・イェーガーすら凌駕していた。
 だが、問題はそれを制御できなかったという事だった。
 そして、その制御システムを組み込むのに難航しているという噂が流れていた筈。
 一部のエースパイロットは自らの腕でねじ伏せたと聞くが、あのパイロットがそうなのだろうか?
 
 脅威が無くなったのを確認するかのように周りを見渡したフューラーは最後にこちらを見た。

『デススティンガーのパイロット。大丈夫か。』

 携帯電話の様な形の緊急時に使う携帯デバイスからだった。
 遠距離は無理だが、これほどの近くなら問題なく通話ができる。
 それは男の声。本当に心配しているのか分からない、事務的にも聞こえる声だった。
 だが、レギーナは不思議とそうは思わなかった。
 ありえない事だがフューラーの眼が優しげに見えたからかもしれない。
 それに彼はこの子を「狂戦士」とは呼ばなかった。


71 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/04(金) 21:02:08.12 ID:???.net

 レギーナは固定していた携帯デバイスを外して手に取る。

「助けてくれてありがとう。大丈夫とは言えないけど、何とか生きているわ。」
『そうか、なら良い。』
「しかし、どうやって・・・。」

 識別システムが死んでいるので、レギーナには目の前のフューラーがどこの所属か分からなかった。
 デススティンガーが安全を確保するまで本隊は上陸しない筈だった。
 中央大陸に元々いた同志なのか? それでは最新鋭のゾイドに乗っている事が説明つかない。 
 だから彼がどこから現れたのかさっぱり分からなかった。
 輸送艦ドラグーンネストの電磁カタパルトと大型スラスターの複合技でここまで跳んできた。
 しかもよりにもよって単騎で。
 そんな事は思いもよらなかった。

『それはいい。ここはまだ危険・・・』

 そして台詞が途切れ、息のむ音が聞こえた。
 瞬時に敵が近くに居たのかと思うレギーナに対して思いがけない一言が飛んできた。

『・・・貴君はアンナ・ターレスを知っているのか。』


72 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/05(土) 01:44:33.84 ID:???.net

 何故そう思うのか、レギーナには心当たりがあった。
 デススティンガーに乗っている事は確かにある。
 しかし、それだけではあるまい。
 彼女の乗るデススティンガー13号機の正面の装甲に白字で大きくこう書いてある。

《ヴォルフを皇帝にするまで死ねない》

 アンナ・ターレスの口癖だ。
 出撃前に整備兵のゲルトラウトに頼んで書いてもらった物だった。
「縁起が悪い気もするがな」とゲルトラウトは苦笑しながらもきっちり書き込んでいた。

「所属を共にした仲間だったわ。」
『そうか、彼女は・・・』

 フューラーの主がそう言い淀む。
 レギーナは彼が何を聞きたいのか、何となく分かった。
 だから胸を張って誇らしく答えてあげた。

「えぇ、いい女だったわ。とびっきりのね。」

 そうだ。彼女は、アンナ・ターレスという女はそれに尽きた。
 フューラーの主が息を飲む音が聞こえた。
 そして、見えはしないが、微かに笑ったように思えた。 

『いい女か。・・・そうか、そうだったのかもしれんな。』


73 :クック湾とサソリの尻尾 ◆cZIa4n.KhvkX :2011/03/05(土) 02:02:37.73 ID:???.net

 レギーナには目の前のパイロットがもう誰だが分かっていた。
 彼の雰囲気はアンナが言っていた特徴とあまりに一致しすぎていた。
 彼はアンナが話していた『幼馴染』だ。
 だが、レギーナがそれを確認しようとする前に通信が入る。

『ありがとう。もう良い。貴君は下がれ。後は何とかしよう。』

 抑揚は相変わらず少な目だったが、何かが吹っ切れたような声だった。
 そして、それだけ言い残すと、巨大なスラスターを轟かすとレギーナの前から去っていく。
 いろいろと疲れていたレギーナは結局それを黙って見送った。
 礼を言うのは戦闘が終わっても遅くはないだろう。
 間違いなく彼は強い。こんな戦いで死ぬようなものではない。
 そして思う。そんな彼が、アンナを助けられなかった男が自分を救ってくれた。

 世の中はままならないものね、とレギーナは人知れず泣いた。
 そしてデススティンガーのコクピットから嗚咽の声が消えた時、レギーナは顔を上げた。
 無理にでも笑顔を作る。

「生きて帰らないと、ね。そうでしょう、アンナ。」
 
 時はZAC2101年11月
 ついにゼネバスの兵は中央大陸に帰還した。
 その中でデススティンガーの戦場復帰が大きく扱われる事は無かった。
 そして中央大陸に置ける激動の時代がすぐそこに迫っていた。


74 :名無し獣@リアルに歩行:2011/04/03(日) 16:19:02.06 ID:???.net
定期age

75 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/10(日) 20:58:34.58 ID:???.net

1.まえがき

ZAC2100年…この年は戦争、技術の双方が大きく揺れ動いた時代であった。
例えば戦争では、昨年まで優位に立っていたはずのガイロス帝国を、我が共和国の反撃により
ニクス大陸に押し戻すことに成功し、戦況を一変させた事が挙げられる。
技術面でも、絶滅寸前の種の復活、ゾイドの性能強化の双方で使えるという夢のような技術
「オーガノイドシステム(以後OS)」により、大きく両陣営の主力ゾイドを一新させたのだ。

しかしその変化によって生まれた戦争、技術の基盤は、意外にも長く続かなかったのだ。
戦争では、第3勢力であるネオゼネバス帝国の設立によりガイロス、ヘリック両国は
急きょ同盟を締結。西方大陸での戦争の勝敗の意義はほぼ失われたのである。
技術面でも、OSの危険性が露見し、ゾイドへの使用を控えるようになった。
私が本書を著しているZAC2111年でも、特定のゾイド(ギル・ベイダー等)以外の
絶滅危惧種の復活、保護にのみ使用が許可され、軍事用ゾイドへの使用は禁止されている。

戦争面は弁解の余地は無いとして、OSの制限には賛否両論で、たびたび論争があった。
先述の通り夢の技術だったからである…危険性を除けば。
結果は制限もしくは廃止という結論だったが、この論争を語る上で必須のゾイドがいる。
「デススティンガー」である。

今では知名度も高いゾイドだが、どうも悪いイメージで評判になっていると私は思う。
「凶戦士」、「史上最悪の殺戮兵器」、「悪魔」と言ったようによく悪役の筆頭で語られる。
あげくの果てにはガイサックを始めとした蠍型ゾイド全般にも風評被害が広がっている。

しかし、私は決してこの本でOSを擁護、支持するものではないと宣言しよう。
何故なら私はこの本を世に出す事で、今のデススティンガーのイメージに
少しでも疑問を持ってほしい、「絶対敵」など存在はしないと伝えたいからだ。
以上の事を最初に記した上で、これから本編を執筆しようと思う。
この物語は、試作デススティンガーに登場する事となる、一人の青年兵の話である。

76 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/10(日) 21:02:03.96 ID:???.net
2.プロローグ

西方大陸ニクシー基地。
本国と前線を結ぶ重要拠点の一室で、憂鬱そうに夜空を見る青年がいた。
彼の名はウエストと言った。階級は二等兵ながら歩兵ではなく、ゾイド乗りであった。
(ウエストというのは私が彼につけた架空の名前で、モデル本人の名前ではない。)
何故かと言うと、当時のガイロス帝国はゾイドの生産能力よりも人材が圧倒的に乏しく、
彼のような下級兵、女性、末期には学徒兵もゾイド乗りとして戦力にしていたからだ。

「今回の作戦にも呼ばれなかったな…」
ウエストはやけに元気なく呟いたあと、静かに床に着いた。
憂鬱の原因は、輸送部隊の護衛作戦に呼ばれなかった事だった。
しかもこの作戦だけが例外ではなく、彼はほとんどの作戦で出撃が「許されなかった」。
ゾイド乗りとしての腕自体が悪いわけではなく、情報の処理も並である。
しかし、高機動ゾイドへの対処がめっぽう苦手なため、戦場に出られないのだ。
奇しくも今や両軍の主力、そして花形は高機動ゾイドだった関係だったのも不運だろう。

「コマンドウルフどころか、マーダを捕捉する事が出来ないお前は戦場に出せない。」
彼が何故出撃が許されないのかを上官に何度尋ねても、この一言で一蹴された。
入隊時はゾイドの適合性の高さからやや目をかけられていたが、
相変わらず高機動ゾイドに対応できないせいで、次第に肩身が狭くなっていった。
最後には「欠陥品」という陰口まで広がり、ウエストの心は日増しに荒んでいった。
そのような過酷な状況に置かれながらも、少ない希望を抱きながら踏ん張っていた。
いつか作戦で活躍し、名誉挽回をする…このような儚い希望を持ちながら。

その希望は本当に儚いものだった。
翌日、軍から貸与されていたゲーターを返却するよう命令が下された。
さらにウエスト自身は陸軍から衛生部隊へと配属が変更になる事が決まった。
彼は湧き上がる黒い感情に耐えながら、上層部の決定に従うしかなかった。
下手に逆らえば軍法会議になるか、西方大陸を彷徨うかしか選択肢はなかったからだ。


77 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/10(日) 21:06:13.07 ID:???.net
3.羨望

「お前の見送りはゼロか…寂しいものだな。」
転属前日、衛生部隊用の宿舎に自らの荷物を移している時、一人の男がこう言った。
しかしその言葉の主は、左遷された者の見送りには不相応な大物だったのだ。

「リ、リッツ中尉! 申し訳ございません! 中尉のようなお方がここにいるとは…」
ウエストはリッツ中尉の存在に気付かなかった事を詫び、ひたすら頭を下げた。
そう、彼こそが「アイスマン」と呼ばれるリッツ・ルンシュテッド中尉であった。
元々テストパイロットで名をはせたが、現在は開発中の期待がほとんどなく、
前線の人員不足という事で一時的に実戦部隊に参加しているという。

「堅苦しくしなくていい、任務中ではないのだからな。」
口元を緩めてリッツはひよっこの二等兵を宥めた。
リッツも内心、テストパイロットと比べ規律が厳しい実戦部隊に慣れれなかった。
そのため自分よりも年も同年代以下で、位が下の兵と話す事がある種の清涼剤だった。

「分かりました、リッツさん。」
周りに人影がいない事を確認した後、ウエストも朗らかに答えた。
こうして、軍人と言う身分を忘れて、二人は話し込み始めた。

リッツと雑談を交わす彼の姿は、非常に生き生きとした少年のようだった。
それは、無理もないだろう。
ウエストにとってリッツは、あらゆる面で尊敬できる存在だったからだ。
パイロットとしての腕前、あらゆる面で冷静沈着に対処できる精神の落ち着き、
さらに相手を極力殺さず行動不能にするという信条と技術までも。
そのためウエストにとっても、リッツと話している時が、唯一の安らぎだったのだ。

だが、そんな時間は永遠ではない。別れの時が近づきつつあった。

78 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/10(日) 21:14:23.21 ID:???.net
4.最後の会話

「今日はここまでだ、もうそろそろで警備がこの道を巡回するようになる。」
リッツはもうすぐ日が暮れる事に気付き、ウエストに遠まわしに伝えた。
ウエストは「欠陥品」と罵られている程、基地でも疎まれていた。
それが、かたや基地のエースであるリッツと親しく話している事が暴かれれば、
ウエストの身に何が降りかかるから分からなかったからだ。

「そうですね…続きは次の機会にしましょうか。」
本人は陽気に言ったつもりだろうが、その声は少し寂しげだった。
ウエストもリッツの気遣いは理解していた。
しかし衛生部隊となり、次に話す機会はいつ訪れるか分からなかった。
故に、ウエストにとってこの機会はとても尊く、別れを惜しんでいた。
それに見かねたリッツは、一瞬「やれやれ…」という表情をした後、ウエストに、

「そうだ、次に会う時はお前の目標が聞きたい。じっくり考えといてくれ。」
次に会うための約束の提案をしたのだ。
ウエストはリッツの放った予想外の言葉に、きょとんとしてしまった。
リッツの口が少し開いた時は、叱咤されるのかと思い強張ったので、尚更驚いたのだ。
もう時間に余裕がない事を確認したリッツは、申し訳ないと思いながら足早と立ち去った。

…荷物を運び終えた後、ウエストはリッツ中尉の質問の答えを模索していた。
彼自身はリッツ中尉を超えることが目標だった。
だがこれは軍に入り、リッツ中尉と出会う事で生まれた目標でしかない。
しかも、もし越えてしまったとしたらどうするか…彼は「あの日」まで考え続けた。

…その後、ウエスト二等兵とリッツ中尉がこのように話す機会は訪れなかったという。

79 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/22(金) 21:43:21.18 ID:???.net
5.彼が「死んだ」日

リッツ中尉に「目標」という難問を突きつけられてから、既に一か月以上経過した頃、
戦況は悪化しつつあり、兵士達の中では「西方大陸駐留軍の破棄」が噂されていた。
多くの兵士は疑心暗鬼になっていたが、ウエストは別の憂いも持っていた。

「いっその事、共和国に投降しようかな…」
自室でそう呟いた彼の眼には、希望というものが無いように思えた。
実は衛生部隊に配属転換した後も、任務は医療品の補充くらいしか与えられていなかった。
日増しに募る軍部への不信感からか、故郷を捨てて共和国側につくことも考えていた。
この負の連鎖によって気力の抜けた彼の耳元で、嫌な金属音が聞こえた。

「ウエスト二等兵、貴様を連行する。」
耳元に銃を突きつけたこの男の言葉から、ウエストには状況が手に取るように分かった。
それは、彼の描いていた最悪の結末だった。
あらぬ罪状を突きつけられ、情状酌量のないまま投獄、処刑…
もはや抗う気力のないウエストは、憲兵と思われる男に連行されていった。

しかし、それにしては異様だった。
手錠をかけられ連行される所は普通だが、脱出用通路である裏口を通っていたからだ。
普通ならば、見せしめの意味も込めて目立つ通路を堂々と通るはずなのだが…
その後の道は覚えていない。彼は打ちひしがれながら、連行されるがまま歩いていた。
しばらくしてその足が止まると、見たこともない光景が広がっていた。

非常に大きな空間…まるで大型ゾイド用の格納庫のような中にいたのだ。
広さの割には、この空間には三体のゾイドしか格納されていなかった。
大きさは違うものの、かつて図鑑で見た「ライジャー」という機体に似たもの、
今年ロールアウトされたばかりのジェノザウラーにも似たもの…
その中で、ひときわ威圧感を放つ大型ゾイドが、ウエストの視線を奪った。
そのゾイドこそが、西方大陸戦争史上最悪のゾイド「デススティンガー」だった。

軍の記録ではウエスト二等兵はこの日、「連行中に抵抗したため射殺」と記録されている。

80 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/22(金) 21:44:51.68 ID:???.net
6.ドクトルOと凶戦士

しばらくすると、ウエストの連行の際に使われたエレベーターが、再び動き出した。
おそらく他の者がここに向かっているのだろう…彼はそう思いを巡らせていた。
ここに来るのは尋問官か、はたまたこの場で銃殺するための執行人か…と。
空間の広さと、心臓の鼓動が聞こえるほどの静けが彼の不安をさらに増長させた。
程無くしてエレベーターが再び降りてくると、この場の静寂は一瞬で破られた。

「おお!そこの子がウエスト君かね?でかしたぞアンダーソン君!」
ドアが開くと同時に、陽気な印象を与える甲高い声がその隙間から聞こえてきた。
ふとエレベーターを見ると、カメラアイをした白衣の男が、仁王立ちをしていた。

「その通りです、ドクトルO。しかしその呼び方はやめて下さい。
プロイツェンナイツ(PK)時代を思い出します。」
憲兵はそのカメラアイの男に、まるで映画に出てくる助手のような口調で返した。

ウエストは、二人の他愛もない言い争いを見て、最悪の事態は無いだろうと安堵した。
しかし、ドクトルOとは天才的な頭脳を持つ「狂人」と噂されている科学者だ。
そのような高名な人物が自分を呼んだ(?)事に、ウエストは困惑の色を隠せなかった。
今の状況を把握しようと考え込んでいた彼の両肩を、ドクトルOは正面から掴み、

「そう!キミこそがデススティンガーの要なのだ!…ここで嫌とは言わせんぞ?」
独特の不気味な笑顔をウエストに面と向かって見せつけながら、念を押すように言った。

詳しい事は把握できないが、連行されてきた時点で拒否することは出来ないだろう。
それに、その「デススティンガー」がこの3体のゾイドの事かは分からないが、
多くの者に邪険に扱われている今の状況よりましになるのなら、喜んで受け入れよう…

「…了解しました。」
そう応えるウエストの表情に、先ほどまでの迷いはなかった。

81 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/22(金) 21:46:31.38 ID:???.net
7.ドクトルOの野望

ドクトルOの依頼というのは、デススティンガーのパイロットになる事だった。
話によると、戦闘能力は非常に高いものの、常人では乗りこなせないらしい。
今までに搭乗したパイロットは全員が不可解な死を遂げているとの事だが…
持論によると、「要」であるウエストには乗りこなせると自負しているそうだ。
大型のゾイドに乗るのは初めてなのに「要」…ウエストはドクトルOの発言には
いささか信用はできなかったが、マニュアル通りに動かしてみると、意外にも様になった。

「これで、私をバカにする若造どもを黙らせることができるわい…」
ドクトルOはこの光景を見て、一人ほくそ笑んでいた。
ZAC2030年代…ドクトルOは、ゼネバス帝国にて改造ゾイドを繰り出し名を上げた。
最初こそ「魔改造」と揶揄されたものの、前線で彼の改造ゾイドは目覚ましい活躍をし、
帝国内で確固たる地位と名誉を手にし、共和国にもその名が知れ渡るようになった。
その後の科学者も、彼を目指して既存のゾイドの強化に力を振るうようになったのだ。

順風満帆だった彼の人生の転機が訪れたのは、ZAC2050年代だった。
暗黒軍(後のガイロス帝国)に亡命した後も改造ゾイドを作り続けていたが、
「ギル・ベイダー」のロールアウトと共に彼の研究は頓挫してしまったのだ。
あまりに優秀な新型の前に、ドクトルOの改造ゾイドは勝つ事が出来ず、
亡命者である立場もあり、彼はゾイド開発から手を引かざるを得なくなったのだ…

己が築き上げてきたものを一瞬で破壊した帝国を、ドクトルOは憎んでいた。
復讐のために、他の科学者が厄介がって手をつけなかったデススティンガーを完成させ、
持論による適合者…奇しくも同じく帝国を憎むウエストを見つけたのだ。
さらに、このいわくつきのゾイドを前線に出さざるを得ない状況を作るため、
新型飛行ゾイドの情報を共和国に渡し、制空権を奪わせるなどお膳立ては完璧だ。

「見るがいい!吉と出ようと凶と出ようと、私の勝ちだ!」
数日後、ドクトルOとウエストは、間接的ながら帝国に引導を渡す事となる…
それが吉となって出た結果なのか、凶となって出た結果なのかは知る由もない。

82 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/22(金) 21:50:59.74 ID:???.net
8.偽りの兵士

ニクシー基地へと続く荒野に、ウエストの乗るデススティンガーの姿があった。
その他、ジェノザウラーからの派生機体、ライトニングサイクスの最新機が30機。
パイロットもウエストを除くと、名の知れた腕利きの者ばかりだった。
その中でウエストは、PKの新入りという肩書を偽装してもらって戦線にいる。
今回の任務はロブ基地攻略に失敗し、撤退を続けている味方の救援だ。

「敵の戦力は前回の五倍らしいぞ。気をつけろよ、新入り。」
崖の上から哨戒するサイクス部隊の隊長、フリオ大尉から忠告の通信が入った。
ロブ基地からニクシー基地へのルートは、北と南と俗称される二つのルートがある。
南のルートは比較的道も広く、このルートからアイアンコングなどの大型が撤退した。
追撃してきた共和国軍は、リッツ中尉が改造型ジェノザウラーで一網打尽にしたそうだ。
ウエストもその知らせを聞いて、自分もリッツ中尉のような活躍ができれば…
そう思いを巡らせていた。
北のルートは、切り立った崖が立ち並ぶ荒野で、大型ゾイドには窮屈な地形だ。
そのうえ足場も砂地が多く、お互いの機動力が削がれることは間違いはない。
しかし共和国軍は汚名返上とばかりに、南のルートの五倍の追撃隊を派遣したらしい。
そのため、この精鋭部隊が殿軍として追撃隊の迎撃を担う事になったのだ。

「ゴジュラス30、ゴルドス80確認!全機、砲付きです!」
ジェノトルーパーに乗るヴァルター曹長は、この驚愕の情報を察知した。
小型ゾイドには一切触れていないが、おそらくおびただしい数なのだろう。

「よし、エルザ准尉、荷電粒子砲を奴らにご馳走してやれ。」
エルザ准尉…それが今のウエストに与えられた仮の姿だった。
ウエストの目付役として派遣されたアンダーソン少佐は、ウエストに攻撃命令を下した。
崖の破壊阻止と、圧倒的戦力に見せかけるための示威行為…
目付役も兼任するアンダーソンの意図は、ウエストにも手に取るように分かっていた。

「了解しました。荷電粒子砲、発射!」
ウエストは迷いもなく、チャージしていた砲塔の引き金を引いた。

83 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/22(金) 21:52:32.56 ID:???.net
9.殲滅戦の先に

ウエストが引き金を引くと同時に、デススティンガーの尾から眩い光が走った。
まるでオーロラのような美しさを持つ光は撤退する友軍の頭上を通り過ぎ、
共和国の遠距離砲撃部隊を包み込んでいく…
美しい一条の光が通り過ぎた後には、見るも無残な光景が広がっていた。
ゴジュラスは6機まで減り、ゴルドスもまた25機ほどにまで減っていた。
生き残った機体も砲塔の損傷から、ろくに遠距離射撃は出来ない状態だった。

一瞬で主戦力を失った共和国は、明らかに統率が乱れ始めていた。
大型機を失ってもなお、センサーで視認できる分だけで1000機以上はいる。
だがその動きは、いかにも統率がとれていない、ぎこちないものとなっていた。

「今だ!共和国の奴らに砲弾の雨を浴びせてやれ!」
フリオ大尉率いるサイクス部隊も、便乗するように崖の上から砲撃を浴びせた。
パルスレーザー砲の一斉掃射に、密集していた小型ゾイドは駆逐されていく。

「撃て!共和国の野郎を一匹たりとも逃がすな!」
さらにデスステンガーに隠れていた、ダリウス中尉率いるプロトブレイカー隊が
順次後方から荷電粒子砲を放つと、中型ゾイドを次々と破壊していった。

…この総攻撃で大勢は決し、この先はもはや一方的な殲滅戦にすぎなかった。
地の利と奇襲によって敵機の数は、すさまじい勢いで減っている。
ウエストは感謝しながら撤退していく味方を見て、何故か切ない気分になった。

「共和国も気の毒だな…故郷の土を踏めずにここで死ぬことになるとは。」
戦場で感覚の麻痺していないウエストは、いつの間にか共和国に同情していた。
正確に言えば、共和国の下級兵に同情していたのだ。
彼らの中にもまた、中央大陸でふんぞり返っている政治家と、
過去の栄光にすがる高官の命令で仕方なく来ている者もいるだろう。
特に下級兵ならば前線に立たされ、上官の指示のままに戦うしかない…
血を流すべき人間が血を流さない現状にも、ウエストは強い怒りを覚えていた。

84 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/22(金) 23:16:00.62 ID:???.net
10.オーガノイドシステムの脅威

思いにふけっていると、突然後方から衝撃が走った。
なんと、プロトブレイカー隊がデススティンガーに向けて荷電粒子砲を発射したのだ。
ウエストは咄嗟にEシールドを張り、通信を試みたが、なぜか通信は途絶えていた。

「なぜ攻撃を緩めた!?反逆者め…この場で銃殺してやる!」
ウエストの攻撃が滞っていたのをいいことに、ダリウス中尉は攻撃を指示。
彼をはじめ、狂乱状態のプロトブレイカー隊は次々と荷電粒子砲を打ち込んできた。

「待って下さいダリウス中尉!まずは敵の殲滅を!」
ヴァルター曹長はダリウスを制止しようとしたが、彼は聞く耳を持たなかった。

「敵ならいるだろうが!まずはこいつを仕留めてからだ!」
構わず荷電粒子砲の照射を続けるプロトブレイカー隊により、急に張った
Eシールドもパワーダウンし、デススティンガーもオーバーヒート寸前になった。

「まずい!ダリウス中尉を止めろ!このままでは…」
そう指示をするアンダーソンは、得体の知れぬ恐ろしさを感じ取り、悪寒が走った。
それはプロトブレイカーの凶行によるものか、デススティンガーによるものか…

ダリウスがデススティンガーへの攻撃に夢中になっている間に、
サイクスの弾幕をかいくぐって来た勇敢な共和国兵士が一矢報いようと
無防備になったデススティンガーの頭部に砲撃をお見舞いした。

「ぐっ!」
後方からの衝撃に耐えていたウエストに降りかかる、前方からの攻撃…
座席に頭を勢いよくぶつけたせいで朧げになった彼の視界に入ったゾイドは、
ビームキャノン砲を背負ったシールドライガー…それは彼にとって因縁の相手だった。

85 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/22(金) 23:20:54.92 ID:???.net
11.「暴走」の真実

一年前、ウエストがまだ新兵の頃…彼の配属された小隊は哨戒任務の途中に
ゴルドス一機と遭遇し交戦。通信機能を破壊し、半壊にまで追い込んでだ。
ゲーター数機にしては破格の戦果であり、ウエストも恩賞を期待していた。

しかしウエストの小隊は、駆けつけてきた一機のゾイドに壊滅させられた。
そのゾイドこそが、ビームキャノン砲を背負ったシールドライガーだった。
正確に言えば、アーサー・ボーグマン少佐の乗るシールドライガーDCS-Jだが、
ウエストはおろか、ニクシー基地の誰もがその事を知ることはなかった。

ウエストは、この戦いを機に高機動ゾイドとの戦闘が苦手になったと考えており、
いつか奴を倒し、汚名返上を果たして見せると意気込んでいた。
しかしその後は干され続け、機会が巡ってくることはなかった…

先程の砲撃で頭の超重装甲の一部が剥がれ、絶体絶命の状態に陥っていた彼の脳裏に
走馬灯のように、今までの思い出が次々と頭の中をよぎっていった。
しかし普通の走馬灯ならば、大切に思う者やいい思い出などが浮かぶはずだ。
だが、頭の中に流れた思い出は、今までに浴びせられてきた罵声の数々だった。
留まる事無く流れるこの忌々しい光景を直視したウエストは、絶望した。

「運や人だけでなく、この世界も自分を見離したというのか…」
思えば、この戦いは「欠陥品」の汚名返上の機会だったのだ。
汚名返上のため、デススティンガーを乗りこなしたのも関わらず、味方にも裏切られ、
因縁の相手に止めを刺されようとしている…こう思うのも無理はない。

言葉通りの絶望のどん底に突き落とされたウエストの心には、何かが芽生えていた。
この芽生えたものを例えるならば、「負と負の乗算によって出来た正」だろう。

「世界が自分を見離したのならば、自分は世界の全てを見離してやる!」
この信条を心に刻み込んだウエストに呼応するように、デススティンガーの
「真・オーガノイド」は完全な覚醒を遂げたのだった。

86 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/23(土) 02:17:01.51 ID:???.net
12.惨劇の始まり

オーバーヒート寸前だったデススティンガーは、再び動き出した。
この様子を見て止めを刺そうとシールドライガーは砲撃を繰り出したが、手遅れだった。
ビームキャノンは、張り直されたEシールドに歯が立たず、胴体を右腕に挟まれた。
ライガーのパイロットは荷電粒子砲が主武器と侮っていたのだろう…
横っ腹を掴まれたライガーは、バイトシザースによって真っ二つにされてしまった。

「ちぃ、死に損ないめ!怯まずに撃て!」
もはや共和国など眼中にないダリウス中尉は、プロトブレイカー隊に攻撃を命じた。
しかしその瞬間、撓りを利かせたデススティンガーの尾が、彼の機体を潰した。
本来格闘戦に使う物ではないが、その重量による一撃は半端なものではなかった。
大きく拉げるダリウスのプロトブレイカーを見て、恐れ慄く彼の部隊の隊員…
だが、ダリウス機を半壊させたのは、ウエストの本当の目的のついででしかなかった。

尾を地面に叩きつけた後、デススティンガーは間髪入れず荷電粒子砲を発射した。
まるでジェノザウラーのようにゾイド全体を砲塔に見立てて発射したそれは、
地面をえぐりながら、瞬く間に撤退している友軍を呑みこんでいった。

「生き残った奴は不運だねぇ。ここで死んだ方が楽だったのに。」
この独り言こそが、狂ったようにしか見えないこの行動の真意を物語っていた。
荷電粒子砲とは、荷電粒子を光速で撃ち出す兵器である。
その威力と速度から、この兵器で死ぬのが一番楽だとウエストは考えたのだ。
そして次の行動が、さらに彼の真意の信憑性を引き上げた。

遊泳脚のロケットブースターを右側だけ展開し、合わせて脚を動かし急旋回した。
尾は地面に下ろしたままであり、ダリウスのプロトブレイカーを引きずり回した。
回転しながら背中のショックキャノンを乱射する事によって、
ダリウス以外のプロトブレイカーも中破、あるいは大破していった。
しかし、決してプロトブレイカーにこの時点では止めは刺していなかった。

そう、ここまでは惨劇の始まりに過ぎなかったのだ。

87 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/23(土) 02:22:10.45 ID:???.net
13.「紛い物」と「超本物」

大打撃を受けたプロトブレイカーは、既に大半が再起不能となっていた。
その様子を見てウエストは旋回を止め、律儀に一人ずつ「血祭り」にあげる事にした。
一機はショックカノンで蜂の巣に、また一機はレーザーカッターで三枚おろしに…
終いには、四肢と首と尾を引きちぎった後、コックピットを押しつぶす始末。
もちろん止めようと向かってきた味方のライトニングサイクスは数機いたが、
圧倒的パワーの前に、漏れなくプロトブレイカーの仲間入りしてしまった。

「くっ…全員撤退しろ!デススティンガーは化物だ!」
アンダーソン少佐は全軍に撤退命令を出した。。
彼はドクトルOの側近であり、オーガノイドシステム(OS)の危険性を察知していた。
OSはパイロットを戦闘狂に仕立て上げるという話を聞くが、対策はしてある。
一般配備されているものは、精神への悪影響を抑えるためにリミッターを設けており、
研究者の間では「紛い物」と言われている。
「本物」は、リッツ中尉ら数名の乗る試作型ジェノザウラーの物だ。
しかしデススティンガーにおいては、ゾイドコア自体がOSの塊のようなものだ。
これを上記の名称に当てはめるとすれば、「超本物」だろうか…

アンダーソンは、狂気の沙汰を平然とやってのけるウエストを見て、撤退命令を出した。
この部隊のゾイドに搭載されているOSは「紛い物」しかなく、
束でかかっても「超本物」のOSの戦闘力には敵わないと、彼は悟ったのだ。
しかしOSによって変貌したウエストとデススティンガーの前には、サイクスはおろか
飛行能力を持つジェノトルーパーすらも生還は不可能に近かった。

「正体がばれないように、アンダーソンだけは口封じしておかないとね。」
ウエストは不敵な笑みを浮かべながら、垂らしていた尾を持ち上げた。
そして、荷電粒子を最大限までチャージし、放とうとしていた。

88 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/23(土) 02:25:15.56 ID:???.net
14.我に帰る時

「さて、そろそろ撃つかな…」
そう言ってウエストが荷電粒子砲の引き金を引いた時だった。

「させるか!」
不意にそのような声が聞こえたが、意に介さずデススティンガーは荷電粒子砲を放った。
だが、ジェノトルーパーを基準に向けて発射したはずの荷電粒子砲が、
なぜかコクピットから視認できるほどの高さに発射している事に気が付いた。
なんと、一匹のライトニングサイクスが尾にしがみつき、砲撃を止めようとしてきたのだ。
発射方向の変化、出力の減衰はあったものの、中型ゾイドを葬るには十分な威力だった。
再び地上に走っていく光は、文字通り地平線まで走っていった。

プロトブレイカー隊、ライトニングサイクス隊は全滅。だが、2機のジェノトルーパー…
アンダーソン少佐、ヴァルター曹長の機体は損傷を負いながらも逃げ伸びていた。
殺すはずの二人が飛び去っていく姿を、ウエストはただ見ていた。
いや、急に平常心を取り戻したウエストは、追撃する事が出来なかったのだろう。

「おそらく、声からして阻止に入ったのはフリオ大尉…」
そう考えると、猟奇的な破壊を楽しんでいたウエストは、急にやるせない気持ちになった。
フリオ大尉は叩き上げの軍人で、ニクシー基地でも面倒見のいいオヤジと評判だった。
憎んでもいない、むしろ好意を抱いていた相手を手にかける苦しさを噛みしめていた。

感傷に浸っていると、撤退する共和国に必死に亡命しようとする男がいた。
ダリウス中尉…この戦いでの第一級戦犯であり、戦闘狂になり下がっていた男だ。
「紛い物」のOSで狂ったのかは定かではないが、ウエストにとって見れば
精鋭として選ばれている事よりも、奴が正規軍の士官である事に疑問を持つ輩だった。

「なぜフリオ大尉のような方が死んで、お前のような輩が生きているんだ!」
ウエストは、再び湧き上がる怒りと狂気に身を任せ、共和国軍に砲身を向けた。

89 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/04/23(土) 02:29:19.70 ID:???.net

15.遁走

しばらくして…静まり返った荒野の中、ウエストは考えを巡らせていた。
ダリウス中尉が共和国に亡命を求めていたからと言って、共和国が悪いわけではない。
むしろ最初は共和国の下級兵に対して、自分も同情までしていた。
どうしてあの時ダリウスではなく共和国に荷電粒子砲を打ち込んだのだろうか…
だが追撃隊を壊滅させた今、そのような事は彼の心の中ではどうでも良くなっていた。

「た…助けてくれ!頼む!助けてくれぇ!」
ダリウス中尉は、先程まで共和国だった残骸に対して必死に助けを求めていた。
滑稽な光景だが、両手両足を器用にバルカンで撃ち抜かれているのだから仕方ない。
この時ほど頭部が損傷してバルカンが片方しか無くなった事に感謝したのは無いだろう。

「こいつ以上の下衆が、中央大陸でも、暗黒大陸でも居座っているのか…
見ていろ、奴らに地獄を見せてやる!」
そう誓ったウエストとデススティンガーは地中に潜り、地獄絵図と化した戦場を後にした。
この誓いが、狂気と平常心の境を往くウエストを突き動かしている原動力を物語っていた。
「自分を見離した世界への復讐」…それこそが彼の原動力、そして「目標」であった。

…この北ルートで起きた大惨事の報告を受けた軍上層部は情報統制を行った。
生存したアンダーソン少佐とヴァルター曹長には、やはり緘口令を敷き、
デススティンガーについては、「試作ゾイド、デススティンガーはパイロットを殺害後に
暴走を開始し、周囲に甚大な被害を与え、地中に潜って逃走した」というように
デススティンガー単体の暴走によるものとして処理をした。

軍上層部はたびたび、このような前線の不祥事をもみ消す事があったそうだ。
また改変する内容についても、賄賂によって都合よく変更されるという。
この事が、「最後に勝てばいい」という当時の軍上層部の戦争に関しての見解と、
賄賂で動く将官が少なからずいるという内部の腐敗を如実に表している。

90 :名無し獣@リアルに歩行:2011/05/09(月) 17:23:48.61 ID:???.net
定期age

91 :名無し獣@リアルに歩行:2011/06/01(水) 23:38:56.06 ID:???.net
定期age

92 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/27(月) 22:40:46.69 ID:???.net
16.思惑の交差

「はい。仰る通りダリウスを唆し、あのゾイドを覚醒させることに成功しました。」
ニクシー基地の地下空間…そこでドクトルOは何者かとモニター通信を行っていた。
その相手こそが、まさしくガイロス帝国摂政、ギュンター・プロイツェンであった。

「皮肉なものだな。ガイロス帝国滅亡の引き金を引いたのが名門一家当主とは。」
プロイツェンは報告を受け、満足げにこう言った。

ダリウス中尉…彼の本名はダリウス・フォン・ヴェルチという。
ヴェルチ家とは、プロイツェン、シュバルツなどと同じくガイロス帝国の名門貴族である。
彼は位こそ高くはないが、名門一家の当主であったため、軍部は彼を丁重に扱っていた。
また、攻撃的かつ自己中心的な性格ゆえに、よく配属先では下級兵といざこざを起こしていたが、
軍部が気を利かせて下級兵を軍法会議にかけて処罰したり、もみ消したりしていた。
さらに戦闘における敵機の撃墜数、敵パイロットの殺傷率において、彼は非凡なものがあり、
軍部とダリウスの癒着関係は、西方大陸戦争が始まってからはさらに密接なものになっていった。

異常なまでに重用されていたダリウスの蛮行により、総力戦ともいえるロブ基地攻略戦で
最も多く投入された小型ゾイド…さらには迎撃隊の最新鋭機とエースパイロットが失われ、
西方大陸戦争の敗北はほぼ決したのだから、まさしく皮肉としか言いようがなかった。

「しかしながら、ウエストを手駒に出来なかったのは痛恨の極みでございます。
OSの完全なるコントロールは不可能になってしまったがゆえ、あの機体の実戦投入は…」
ドクトルOは少し惜し気に、プロイツェンへ失敗した計画についても報告した。
OSにリミッターをかけるなど、ある程度までは制御の方法には目処がついていたが、
彼はあくまでもOSの最大限の状態を制御したかったというのが本音のようだ。

「だからこそ、私はOSを用いないあの2機を開発させていたのではないか。」
プロイツェンは情に流されることなく、報告を聞いた上でこのように淡々と答えた。
なぜなら、この時点での彼は、ドクトルOの理想の実現は不可能だと踏んでいたからだ。

93 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/27(月) 22:42:33.78 ID:???.net
17.予定調和

OSは、ゾイドの戦闘力を飛躍的に増大させる代わりに、パイロットに悪影響を及ぼす…
この効力は、OSの戦闘面…つまり全機能の半分程度でしかない事を忘れてはいけない。
OSのもう半分の効力は、ゾイドコアを活性化させ、成長を促成させる効力だ。
これはほぼ完全な状態のゾイドコアはおろか、ほぼ死にかけの物にも使用でき、
さらに成長を促したコアの細胞をクローニングする事によって、個体数を増やすこともできる。
…半ば生命を冒涜するような行為だが、プロイツェンはこの行為に手を染めたのだ。

およそ45年前に勃発した大異変によって、多くのゾイドが絶滅、または数を激減させた。
それは紛れもない事実であったが、大異変からこの西方大陸戦争までは、
小競り合い程度の非正規戦を除いて、共和国と帝国が直接刃を交えることはなかった…
つまり、開戦当初はお互いの戦力がどれほど減っているかは予想できない状況だった。
プロイツェンはこれを利用し、帝国海軍にはブラキオスとシンカーしかないと見せかけ、
裏で最強の海戦ゾイド、ウオディックをOSで復活させ、極秘で保有していたのだ。

そう…この時点でプロイツェンはもうOSを必要としないほど戦力を整えていた。
唯一足りていなかったのは、ニクシー基地から回収しなければならないあの2機のゾイド…
あの時ウエストが目にしていた、後のライガーゼロとバーサークフューラーだった。

「では、私も多忙なのでな。これで通信を終わらせてもらう。」
プロイツェンはそう言うと、「解せぬ」と言いたそうな表情のドクトルOを尻目に
通信を早々と切り上げてしまった。

ドクトルOは数日後、デススティンガー暴走の件で責任を問われ、ガイロス帝国を追放された。
しかし、この追放劇は計画的なものであったという事実が近年になって発覚した。
追放後もネオゼネバスでキメラブロックスを始めとする多くのゾイドを開発していた事から、
その可能性は以前から示唆されていたが、腹心であるアンダーソン少佐の手記に
この一件についての計画が記されていたことが、決定的な証拠になったという。

94 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/27(月) 22:43:39.68 ID:???.net
18.凶戦士の襲撃

ある日の夜、辺境の共和国軍基地の中で、無数に蠢く小さな蠍が略奪を行っていた。
小さいとは言ってもガイサック程の大きさをもつそれは、格納庫にいるゾイドや兵器、
さらには食糧なども基地の外に運び出していた。
監視カメラなどに残っている襲撃者(ウエスト)の音声をもとに、共和国側は
この野生ゾイドのような生々しさを持つ蠍を「兵隊」というコードネームで呼ぶことにした。
その正体は、デススティンガーが大量に作り出した繁殖能力のない個体であり、
後に「サックスティンガー」という名称でネオゼネバスが実戦投入したもののベースである。

兵隊がせっせと略奪に勤しんでいる中、デススティンガーだけが基地の入口を向いたまま
微動だにしなかった。そう、「主」が帰ってくるのを待つ従者のように…

通常なら、この基地は襲撃に対しての応戦の信号か、ほかの基地や哨戒部隊に応援信号を
出さなければならない状況だが、ずっとこの基地は「異常なし」の信号のままだったという。
そう…略奪が始まっていた時には既に、この基地はウエストの手に落ちていたのだ。
しかし、平和的な無血開城というわけにはいかず、多くの犠牲者が出た。
部屋や廊下に転がる遺体とおびただしい血、壁に残る弾痕がそれを物語っていた。

「ふふっ…リスクはあったけど、背に腹は代えられないからね。」
ウエストは、上機嫌な口調でこう言いながら、バスルームで久々の風呂を堪能していた。
基地でも兵卒には共同利用のシャワー室しか与えられず、戦場には無論風呂などない。
そのため、広々とした将校用のバスルームは、彼の心を満足させるものだった。
他にも基地にいた兵士の携行兵器や私服、貴重品なども奪うことができ、
パイロットスーツと申し訳程度の拳銃、白兵戦用の大型マチェット、心もとない非常食…
これしか持ちわせの無かったウエストの所持品は、一気に豊かなものとなった。

しばらくして、ウエストは風呂から上がり、体に残る水滴を拭き取った。
血なまぐささが体から離れないのを気にしながら、奪ったばかりの服に袖を通した。
サイズは大きいが、パイロットスーツは帰り血だらけで使い物にならない。
後で着替えればいいか、と心の隅で思いながら、彼は基地を後にすることにした。

95 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/27(月) 22:44:14.10 ID:???.net
19.「悪魔の寝床」

デススティンガーと兵隊の軍団は、基地から奪い取ったものを運びながら、巣に帰った。
永い年月により風化した遺跡…ここが、デススティンガーとウエストの寝床である。
現地の人間は「悪魔の寝床」とこの場所を称しており、気味悪がって近付きもしない。
そのため、彼らは二か月以上も行方を眩ませられたのかもしれない。

「さすが、共和国の食い物は美味しいな。うち(帝国)も見習えばいいのに…」
ウエストは共和国軍仕様の非常食を食べながら、祖国の軍の文句を漏らしていた。
補給線が途絶えてから、目に見えて配給品の質は基地隊のものまで落ちていた。
共和国製の非常食よりも不味い飯を食わされていた彼には、この非常食を食べたとき、
風呂を堪能していた時に匹敵する衝撃と満足感があったに違いない。

デススティンガーも、まるで食肉のように解体されたゾイドや兵器に食らいついていた。
―帝国製のもの歯ごたえのある厚い皮が多いが、共和国製のものは割と柔らかめだ―
ウエストは、デススティンガーが食事しながらそう言っているように感じた。
覚醒してからたった数日しか経っていないが、ウエストとデススティンガーは
奇妙なことに、互いの意思が分かるようになっていたのだ。

「悪魔の寝床か…まあ、今の僕にはふさわしい呼び名の場所だね。」
ウエストは自虐的でありながら、誇らしげな顔でデススティンガーに話した。
先ほどの略奪でも、彼は寝ている兵士や無抵抗の非戦闘員、命乞いをする愚者、
さらには捕えられていた帝国軍人の捕虜も容赦なく殺した。
このような所業をした、人の道から外れた外道には「悪魔」の呼び名がふさわさしい…
もはや人として生きることを諦めたウエストの出した結論であった。

96 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/27(月) 22:45:02.75 ID:???.net
20.悲しき過去

「…お互い、苦しかったよね。欠陥品なんて罵られて。僕も何度死にたいと思った事か…」
星空を見上げ、物思いにふけっているウエストは、デススティンガーにこう語りかけた。
デススティンガーもまた、ウエストの言葉に静かに頷いた。

ウエストは、今思えば幼少期から特異すぎて「欠陥品」呼ばわりを受けてきたのだ。
常人とは違う感性と着眼点、高すぎる思考能力と、それに見合わぬ身体能力の無さ…
常人とは一線を画く彼は、他者からは異常だと見られ、常に虐げられていた。

さらに不幸なことに、ウエストは天性の不運をも持ち合わせていた。
常人とは一線を画く故に、常人よりも優れた部分も持っているという事を理解し、
彼と友好的に接する者もいたが、全員が程無くして「死別か離別」したのだ。
偶然にも程がある…彼もそう言いたくなるほど、この法則は正確に適用されてしまった。
直近でいえば配属先変更後、一度も会えなくなったリッツ中尉との「離別」だろう。

希望を持てば持つほど、絶望したときの精神的なダメージは飛躍的に増大する。
ウエストは「自分を受け入れてくれる者」が執拗に失われていくさまを見せつけれれる度に、
世界がまるで、自分を苦しめるためだけに希望を持たせたのではないかという錯覚に陥った。
苦しみを理解者に打ち明けることすら叶わず、自分の不幸を呪うたびに心は荒んでいく…
走馬灯すらいい思い出がほとんど浮かばなかったというのも、強ち偶然ではなさそうだ。

しかし、ウエストが言った「お互いに欠陥品と罵られていた」という話に頷いたのならば、
デススティンガーも彼と同じく「欠陥品」と呼ばれていたという事になるわけだが…
そう。デススティンガーもまた、彼と同じく「欠陥品」であったのだ。

97 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/27(月) 23:31:40.23 ID:???.net
21.凶戦士の誕生秘話

はるか昔…太古の時代、西方大陸は終わりなき戦いの真っ只中にあった。
小国が乱立し、そのほとんどがこの大陸を統べようと戦いを繰り返し、その果てに
どの国が統べようとすぐに分裂、崩壊を起こし、再び誕生した小国が戦いを繰り返す…
このような泥沼の戦乱が続いていた古代の末期にあった、とある国で事件は起きた。

「二匹のゾイドを合成し、新たなゾイド、強力なゾイドを作り出す」
この方針に則って多くの新種のゾイドを生み出していた、とある国家があった。
この国は、延々と続く戦いに終止符を打つために、デススティンガーの製作をしていた。
つまり、デススティンガーは元々戦闘用のゾイドとして造り出されていたのだ。
長年のゾイド合成によって培われた技術が、デススティンガーに惜しみなく注がれた。

合成するゾイド同士の種族の間が離れていれば離れているほど、合成自体の成功率と
生物としての安定性は失われるが、強力なパワーと凶暴な性格を得ることができる。
後の「キメラブロックス」で明らかとなる合成獣の性質を理解していた研究者は、
陸サソリ、海サソリという「似ていながらも近似種ではない二匹」を強引に合成して
先述の性質を持った、戦闘にのみ特化したゾイド、デススティンガーが誕生させた。

多くの失敗、挫折を乗り越えてデススティンガーを作り出した研究者は歓喜したが、
当の本人は、犠牲になった多くの仲間たちと、歪んだ己の姿を見て打ちひしがれていた。
―こんな見ず知らずのモノと一緒に生き続けるより、私も皆と一緒に死にたかった―
デススティンガーが誕生してから初めて抱いた思いは、陸サソリ、海サソリも同じだった。

生きる希望もないデススティンガーは考えることを棄て、生まれた本分だけを全うした。
操られるがまま破壊と殺戮を繰り返し、幾多の生命体と都市、さらには国家を潰した。
悲しみや憎しみは山ほどあったが、モノを壊している時だけはその感情を忘れられた。
戦いをしている時だけが、苦しみから逃れられる安息であると心が認識し始めた矢先、
戦争は終結し平和が訪れたが、凶戦士にとって戦争の終結は、死を意味していたのだ。

98 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/27(月) 23:32:17.57 ID:???.net
22.破壊にしか使えない欠陥品

戦争の終結後、人々はただの物騒な怪物と化した合成獣たちの処分を画策していた。
元々兵器として造られたデススティンガーは、処分対象の中でも筆頭候補だった。
他の目的で造り出された合成獣ならば、他にも転用する方法はあったのだが、
デススティンガーはその余地すらなく、人々も異形の化け物と恐れていたからだった。

「デススティンガーは破壊にしか使えない欠陥品だ。殺処分しても後腐れはない。」
これが、デススティンガーを処分するために戦勝国の民が導き出した、非情な建前である。
例え転用の余地があったとしても、人々はそれを認めず、この論理を押し通した。
もはやこの頃、合成獣処分の目的など民は遠い昔のことのように忘れていた。
そうでなければ、この建前と処分を模範例として、他の合成獣も処分しようなどという
急進的で生産性のない計画など、実行されないからである。

しかし合成獣にされる過程で、肉体だけでなく感情や思考までも改造されていたとしても、
彼らは、民の愚かで狡猾な考えに気付かぬほど愚鈍ではなかった。
勝手に造り出しておいて、必要がなくなれば処分するなどという「道具」のような扱いなど、
「生き物であった」彼らが納得など出来るものではなかった。
―そちらがその気なら、こちらも容赦はしない。道具として扱われた私の怒りを思い知れ!―
デススティンガーは今まで抑圧されていた感情を爆発させ、創造主への反逆を誓った。

こうして、合成獣の処分が始まる直前に、「創造主への反乱」が勃発したのだ。
ある合成獣はデススティンガーと共に、自分達を殺そうとした人間を逆に殺戮し、
また、ある合成獣は、驕り高ぶっていた人間を見捨て、自らの力で生きていくことを選んだ。
今までは自らの「道具」に守られていただけの人間は、なす術もなく駆逐されていった。

99 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/28(火) 06:17:43.07 ID:???.net
23.永き封印

創造主への反乱により、滅亡の危機に瀕した人間たちは、苦肉の策を実行した。
それは、デススティンガーをゾイド核状態まで強制的に退化させ、封印するというものだ。
後世に「世界を滅ぼすほどの不発弾」を残すこの方法は、まさしく苦肉の策であった。

しかし、このような策を用いなければならないほど人間は追い詰められていたのだ。
単純戦闘でデススティンガーに勝る兵器もゾイドも当時存在せず、
デススティンガー以上の戦闘力を誇る合成獣を造り出したとしても、その合成獣が
デススティンガー同様、人間を滅ぼそうとするかもしれないという危険性もあったからだ。

この作戦は実行され、人間たちが保有していた兵器の大半と引き換えに成功した。
もくろみ通りにゾイド核状態まで退化したデススティンガーを、人間たちは封印した。
誰にも発掘されないような辺境の洞窟に、二度と復活しないように厳重な封印を施して。

今まで殆ど自ら考える事のなかったデススティンガーは、封印されている時に
初めて長く考えを巡らせた。
なぜ戦いを終わらせた我々に、ここまで冷酷な仕打ちが人間に出来たのだろうか…と。
おそらく、合成獣を作り出してきたことにより、生命倫理が希薄になったからであろう。
人間とゾイドという、「種の違いによる越えられない隔たり」もそれを助長したのだろう。
永き封印を施されたデススティンガーは、考えの果てにこのような答えを導き出していた。

リッツによって発掘され、そのまま帝国に武装を施された時も、その意思は変わらなかった。
それは兵器としかデススティンガーを見ていない研究者と、力だけを欲したパイロットが
憎んでいた人間たちの姿と重なり、やはり人間の本質は卑しいものだと確信したからだった。

彼らがその姿と重なるたびに、デススティンガーは度々秘めている憎しみを表に出した。
人間と、その横暴さを助長させている全ての物を破壊したいという強い憎しみを。
技術総督であるドクトルFが、オーガノイドシステム計画の凍結を進言したのも、
今までに搭乗したパイロットが不可解な死を遂げたのも、ただの偶然ではなかったのだ。

100 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/28(火) 06:18:25.28 ID:???.net
24.ウエストとの出会い

―ここまでして、人間達は私を御したいのか?―
デススティンガーが犠牲を省みずに制御に挑む人間たちを見て、こう呆れ果てていた時、
研究者によって無理矢理施されたコックピットにウエストが乗り込んできた。
ウエストから力への欲求を感じ取ったデススティンガーは、いつも通り
精神に直接憎しみと破壊衝動を流し込み、見せしめのため彼を狂死させようとした。

しかし、いくら流し込んでもウエストは狂う事は無かった。
それどころか、常人が狂死する2、3倍ほど流しても、彼は全く動じなかったのだ。
デススティンガーは悟った。この人間の抱いている憎しみは並大抵のものではないと。
それからというもの、デススティンガーはウエストの憎悪の原因を知ろうと試みていた。
ウエストは、少なくとも常人が狂死する数倍の量の憎しみを抱いているだろう。
だが、彼ほどの若者がなぜこれほどの憎悪を抱いているのか…それが知りたかった。

その原因が判明したのは、彼が敵味方に挟撃され、死に直面した時だった。
それまではウエスト強固な精神の前に、デススティンガーもなす術がなかったが、
この異常とも思える事態に直面した事により、彼の心に綻びが出来た。
綻びから垣間見たおぞましいほどの憎悪の源…それは「人間」であった。
ただでさえ国内が大変なのに共和国に侵攻しようとしている帝国軍部、
平和の中でエスカレーター式で位が上がり、鼻息だけが荒い無能な上官たち…
さらには、この下衆によって「欠陥品」の烙印を押された自分をも憎んでいた。

デススティンガーはウエストの憎しみを知り、初めて誰かのために戦おうと思った。
今にも潰されてしまいそうなこの蕾を守るため、自分の力を振るおうと。
ウエストもまたデススティンガーの思いを知り、生きる希望を取り戻した。
こんな自分を守ろうとしているデススティンガーのためにも、死ぬわけにはいかないと。
そして、「人間への復讐」という最終目標が一致していた二人は、瞬く間に意気投合した。
この最終目標を成し遂げるために、お互い全力を尽くそうと。

101 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/28(火) 06:19:13.40 ID:???.net
25.絆

「そうだ、さっきの基地でいい情報仕入れたんだ。ここから北の海岸の駐屯地に…」
星空を見上げていたウエストは、ふと思い出した事をデススティンガーに話し出した。
どうやら、次の餌場を見つけたようだ。それも、質も量も十分な場所を。

ウエストもただ守られているだけではなかった。
強大な敵にもしも遭遇した時に備え、弱点であった反応速度を上げるために尽力した。
たった数日ではあったが、デススティンガーに乗り、精神をリンクさせる事によって
感覚神経が研ぎ澄まされ、ウエストの反応速度は着々と向上していた。
常に行動を共にしているデススティンガーは、それが手に取るように分かった。

―もうそろそろ、お前は中に入っていたほうがいい。朝日が昇ってくるぞ。―
デススティンガーは、空の端が僅かに明るくなった事に気づき、ウエストにこう伝えた。
レッドラストの日中は、暗黒大陸出身の人間にとっては殺人的な暑さを誇る。
基本的に内勤だったウエストにとっては、この暑さの例えは洒落にならないからだ。

「はは…ありがとう、デススティンガー。ちょっと長く話し過ぎたね。」
ウエストは、自分自身の自制心の弱さを咎めながら、デススティンガーに感謝した。
しかし、彼がこうなるのも仕方ないだろう。
今までは厳しい軍規、周囲からの強い風当たりに対して、ずっと耐えるしかなかった。
それが今ではデススティンガーという最高の理解者が、常に傍らにいるという環境で、
自分の心の赴くまま、自由に行動することができるようになり、
その反動で彼は、まるで重い枷を外されたような気分になっていたのだから…

かつて制御系が未発達であった時代では、ゾイドとの相性もゾイド乗りの資質であった。
だが、制御系が発達するにつれ、誰もがゾイドを自由に操ることができるようになった。
ゾイドと乗り手の「相性」や「絆」という概念は、技術進歩に反比例して衰退した。
ゆえに、ウエストの「ゾイドの適合性の高さ」が重要であった時代であれば、
「欠陥品」として見捨てられ、不満のはけ口にされる事はなかっただろう。

いつ頃であろうか…人間にとってゾイドが「頼れる友」から「兵器」に変わったのは…

102 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/28(火) 06:19:59.34 ID:???.net
26.緘口令

「答えろ! ヴァルター! あの場所で何があったかを!」
急に部屋の中に怒号が響き渡った。その強烈な怒号の主は、あのリッツ中尉であった。
作戦が終わった後、緘口令が敷かれているヴァルター曹長を問い詰めていたのだ。
北ルートを撤退していた友軍の6割が犠牲になり、残りの4割もほとんどが大破、中破…
さらには迎撃部隊であった精鋭中隊は、デススティンガーの暴走により壊滅したという。
相手の兵力は最大五個師団クラスとは聞いていたが、戦果があまりにも無様すぎだ。

「ち、中尉…私には緘口令が」
恐ろしい剣幕に怯んだヴァルターは、つい緘口令の事をこぼしてしまった。
軍部からは、「公表しても差し支えのないような話を作っておけ」と指示されていたが、
めちゃくちゃともいえるあの状況を、誤魔化すことは彼一人には無理があった。

「緘口令…? どうやらお偉いさんにとって都合の悪いことがあるようだな。」
リッツは、ヴァルターから聞き出せたこの少ない情報だけで、このように察した。
本土にいた時から西方大陸駐留軍の悪い噂は多く、緘口令についても聞いたことがある。
ただし情報源の大半は、あのジョルドット(と、その彼女?)という眉唾物だったが…
もう一度ヴァルターの顔色を見てみると、血の気が引いていることが一目で分かった。
リッツは、ここでいきなり核心を突いてみることにした。

「お前に緘口令が敷かれていることが広まれば、俺もお前もただじゃあ済まない。
しかも、お前は精鋭部隊の唯一の生き残りだ。隊長のフリオ大尉を差し置いてな。」
リッツはヴァルターの失言を足掛かりに、核心を突くどころか、抉った。
ウエスト同様に親交があったヴァルターの心を、リッツは把握していた。
あいつは善悪の判断が出来る男だ。追い詰められれば本音を聞き出せるはずだと。

「…分りました、中尉にだけ話しましょう。あの迎撃に出た時の一部始終を。」
ヴァルターは、今まで隠していた事実を洗いざらい話すことにした。
己の憶測の域を未だ抜け出せなかった、感づいていた衝撃の真実を除いて…

103 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/28(火) 06:20:29.35 ID:???.net
27.戦闘狂

ヴァルターの話した戦いの一部始終…それは、リッツを常に驚愕させる内容であった。
精鋭部隊の隊長が、フリオ大尉ではなく、アンダーソンという聞き慣れない者だった事や、
戦場に駆け付けた精鋭部隊の人数が、30人ではなく31人であった事…。
さらには、ダリウスが味方の制止を振り切り、デススティンガーを攻撃した事。
誤報の範疇を超えてデータベースの情報と食い違う内容に、リッツは不信感を抱いた。
だがその不信感は軍部への不信感であった事から、ヴァルターへの信頼が伺えるだろう。

「…もし、それが事実なら大変な話だな。俺は出来るだけこの件について探ってみる。
だから、この話はまだ誰にも言うなよ。」
リッツはこのようにヴァルターに口止めをした後、部屋から走り去って行った。
不都合な真実を聞いてしまったせいで、リッツは胸騒ぎが治まらなくなっていた。
愛機に乗っている時は、いつも胸騒ぎが治まらないのだが、今回のは違った。
妙な高揚感のない、しだいに心が不安になっていくような胸騒ぎだ。

「くそっ、この基地は何かがおかしい! いや、俺がおかしくなっているのか!?」
監視カメラの範囲外にある廊下の隅の壁に、リッツは思い切り拳を叩きつけた。
戦場での異常事態をひた隠しにする軍部、軍部を全肯定する上司や同僚…
そんな反吐が出る連中と一緒にいる時が、真実を知ってしまったリッツにとっては
ジェノブレイカーに乗っている時よりもはるかに苦痛に感じられるようになっていった。

それに比例してリッツの戦いへの思い入れ…好敵手と戦いたいという欲求は増大し、
ただでさえ戦闘狂になりかけていた彼は、さらに先鋭化していった。
今までは戦いをあくまで否定し、平常時は平静そのものを装おうと決めていた。
しかし、この真実を知った日から、その決意はかき消された。
なぜなら、軍や祖国のためではなく、己の欲望のまま戦う戦闘狂になってしまったからだ。

104 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/28(火) 07:29:23.26 ID:???.net
28.ヴァルターの苦悩

「これで、本当によかったのか? いや、よかったはずだ。そうじゃなきゃ…」
リッツが部屋から飛び出した後、ヴァルターの心の中には葛藤が満ちていた。
自分が話した内容に間違いはないか、話すということ自体が間違っていないか…
一人部屋にこもって自問自答を繰り返していた。

「ダリウス中尉がウエストを殺すつもりで作戦に参加していたなんて。」
これこそが、憶測の域を出なかったものの、彼が感づいていた衝撃の真実であった。
ダリウスは軍部で、特にニクシー基地では確固たる地位を築いていた人間だ。
あの摂政プロイツェンからも信頼が厚く、容易に陰口など言うことは命取りだった。
確たる証拠がない以上、ヴァルターは下手に動くことはできなかったのだ。

事実を感づいた時は、基地周辺に併設された娯楽施設に繰り出し、
ダリウスを筆頭にした、基地でも強硬派の集団による酒席の場でだった。
他の者がロブ基地での敗北後、体面も考えてすぐに基地に帰る中、
ヴァルターはダリウスに強引に引き止められ、自慢話を長々と聞かされていた時、
彼はこの迎撃戦を示唆しているような話を聞いたのだ。

「ヴァルター! 俺はこうなっちまう事を知ってたんだけどよ…すげぇだろ!?」
「い、一体、何を予想していたんですか? ダリウス中尉」
急なダリウスの言葉に、己の酔い具合を確認するほどヴァルターは困惑した。

「予想も何も無いだろ! 鈍いなお前は! ロブ基地だよ、ロブ基地!」
ダリウスは半ば怒りながら、ロブ基地敗北というとんでもない事を言い出した。
続けざまに、きょとんとするヴァルターに「俺の予想」とやらを長々と語り始めた。
あの時自分が冷静ならば、奴の話の一部始終を録画しておくべきだった…
後にヴァルターがこう振り返るほど、ダリウスの語った予想は正確すぎたのだ。

105 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/28(火) 07:30:19.01 ID:???.net
29.免罪符

「次のお前の出撃する時、お前の殺したい奴がいるなら遠慮なく言え。殺してやるから。」
ダリウスはヴァルターに対して、このとんでもない提案を持ち出した。
普通は冗談としか思えない荒唐無稽な話なのだが、ダリウスのそれは冗談ではない。
自慢話の中でも、散々左遷させた者や死に追いやった者の話をしていた事から
ヴァルターも警戒して、はっきりとは言わなかった。
おそらく、この時ダリウスはヴァルターの口からウエストと言わせたかったのだろう。

「まあ、おまえもあの欠陥品をどこで廃棄処分するか悩んでるもんな。俺も分かる。
だから俺が始末してやるよ、お上さんもOKサイン出したからさ!」
しびれを切らしたダリウスが放った言葉に、ヴァルターは絶句した。
まだダリウス単独の暴走ならば良かったが、上層部までも奴の暴挙を認めたのかと。

普通ならばこの時点で軍法会議にかけられるはずだが、ダリウスが言っていないと言えば
ダリウスはお咎めなし、真実を告発したはずの自分が銃殺か、テュルク流刑か…
ガイロス帝国では上層部が認めているならば、こんなことが普通にまかり通ってしまう。
ゆえにあの時も、奴の暴挙をただ手をこまねいて見ている事しか出来なかったのだ。

ウエストはかつて言っていた。ダリウスはまるで免罪符を手に入れた悪党だと。
免罪符…かつてこの星に訪れた地球人が、地球にいた時に作りだした物で
金の代わりに、どんなに罪を犯しても罰は免れられるという代物らしい。
一見すると素晴らしいものに見えるが、その免罪符がもたらしたものは世界の荒廃…
良心の呵責がなくなったおかげで、犯罪行為を平然と人々は行うようになったそうだ。

まさにその通りだった。ダリウスは軍上層部とプロイツェンの庇護を受け、
恐れを知らぬ暴虐の限りを尽くし、その行いこそが正しいのだと豪語していた。
それに皆は屈するしかなかったが、その屈した者のほとんどが、面従腹背だった。
なぜなら基地の人間の多くがダリウスの戦死に喜び、フリオ大尉の戦死を悼んだのだから。

…ではここで、本書に度々名前が挙がっているフリオ大尉について触れておこう。
簡潔な説明だが、彼は、私が尊敬する偉大な人物の一人であることを先に記しておく…

106 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/28(火) 07:35:51.62 ID:???.net
30.軍人失格、人間合格

タイトルのような評価を、上官であるデイビー・ラルザック少将にされた軍人がいた。
それがフリオ大尉…本名、フリオ・ザクセンであった。
ラルザック少将は西方大陸戦争時こそ、南エウロペ方面軍最高司令官と言う閑職だったが、
かつての大陸間戦争時には、「軍人の鑑」と今は亡きガイロス皇帝に評された人物であった。

フリオ大尉の評価の裏付けとなるエピソードは、なかなか面白いものばかりだ。
例えば、カノントータスを鹵獲した日の帰り道、部下の活躍を労うために
立ち寄った村でカノントータスと食料や宿を交換したというものや、
部隊の消耗度から、ゲリラ攻撃を続けていたのも関わらず、近くの友軍の
救難信号を察知すると、勝手に殿軍を務めて味方を逃がしていたり、
身の上話を始めた捕虜の共和国兵に同情し、脱走させてしまった事などがある。

軍の立場から言えば、食料は接収が基本であり、敵兵を逃がすのは重罪である。
だが、エピソードから分かる通り、フリオ大尉は敵や民間人にも情けをかける人情家であり、
部下への面倒見もいい士官であるという事がお分かりいただけただろう。
軍部と上官に絶対服従が基本である帝国軍にとって、危険な人物である。
しかし、それと同時に彼は人間としては素晴らしい人物でもあった。

噂によれば、ニクシー基地で猛威を振るっていたダリウス中尉への抑止力として
最初は東エウロペ方面軍に配属されたが、軍人としては良からぬ方向に
部下を導いてしまうため、ラルザック少将のいる南エウロペ方面軍に左遷されたらしい。
しかし、北ルート迎撃戦では東エウロペ方面軍に復帰、サイクス部隊を指揮していた事から、
彼もエウロペ方面軍の中ではエース級のゾイド乗りでもあった事が伺える。

部下からの信頼も厚く、戦闘狂になりかけていたリッツ中尉らOS機乗りや、
人間不信に陥りかけているウエストも、フリオ大尉を信頼していたという。
しかしながら、彼の功績も認められたのはごく最近であり、生前は軍部が認めなかった。
当人が死してから認められる…このような風潮はいつの時代も変わらないのだろうか。

107 :名無し獣@リアルに歩行:2011/07/01(金) 21:00:00.75 ID:???.net
定期age

108 :名無し獣@リアルに歩行:2011/08/01(月) 20:18:20.56 ID:???.net
定期age

109 :名無し獣@リアルに歩行:2011/08/05(金) 22:14:52.98 ID:???.net
ライガーエアロVSプロトブレイカー
を一度見てみたい。

110 :名無し獣@リアルに歩行:2011/08/09(火) 22:55:10.95 ID:???.net
読みたいものは自分で書くしかない
どんなに拙いものであってもね

111 :名無し獣@リアルに歩行:2011/09/04(日) 11:23:48.94 ID:???.net
定期age
運営スレ 雑談はこちら http://toki.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1250287817/l50

112 : ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 21:03:17.36 ID:???.net
31.迫る目標の日

レッドラストの地平線に沈む夕日の光を浴びて、ウエストは今日も目を覚ました。
まだ昼間の熱気が冷めぬ中、彼が最初にした事は、カレンダーの日付けの確認だった。
ある日に付けられた円形の印を目指し、一日ずつチェックマークを入れる…
そして、今日も「目標の日」にまた一日近づいた事を実感し、笑みをこぼした。
目標の日…そこには「初陣」の2文字が円形の印に添えられていた。

初陣を迎えるもの…それは、デストロイヤー砲による災禍が訪れた前後に生まれた、
多くのデススティンガーの幼体であった。
子供たちの成長速度は著しく、今日の夕飯のヘル・ディガンナーとディバイソンを
いともたやすく鋏で切断し、顎で食いちぎり、自らの糧としていた。
親のように武器を取り込むほどには成長していないが、鋏や顎、尾の力は文字通り強靭で、
初陣の日には兵隊にも劣らない強さを発揮するだろうと、ウエストは期待を膨らませていた。

食料も十分にあったため、この日は夕飯を作るだけという平穏な一日であった。
この平穏な日常生活を営んでいるうちに夜の闇は深まり、砂漠の風も冷たくなっていた。
常人が凍てつくほどの風を心地よさそうに受けながら、ウエストは星空を見上げていた。
紺碧の空を照らす満月を迎えた二つの月と、それを際立たせる夜空に浮かぶ無数の星…
かつて故郷で見た、オーロラに彩られた夜空にも匹敵する絶景だ。

しかし、その静寂に包まれた一時は、長くは続かなかった。
何者かの気配が、青い月と赤い月が近づくのに比例するかのように強くなっていったのだ。
まだ爆音も何も聞こえない距離なのに、気配が感じ取れてしまう…
ウエストは、気配を放っている者が相当の手練である事を確信し、急いで遺跡の中へ戻った。

「悪魔の寝床」の中では、寝ていたはずのデススティンガーも既に目覚めていた。
デススティンガーもまた、強い気配に気づいていたのだろう。
ならば話は早いと言わんばかりに、ウエストはデススティンガーに乗り込んだ。

113 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 21:05:16.39 ID:???.net
32.死闘の幕開け

デススティンガーに乗り込んでから、ウエストは遺跡の外側で、敵の待ち伏せをしていた。
なぜ彼が能動的に襲いかかろうとしなかったのかの理由は二つある。
一つは、自分の手足ともいえる兵隊が、この日はいなかったからだ。
兵隊の寿命は短く、一ヶ月弱で生命活動を停止する。さらに、兵隊を一度産み落とした後に
再度兵隊を生むまでにも一ヶ月を要していたのだ。
ゆえに、兵隊がいない日がひと月に2〜3日あり、運悪く今日はその日だったのだ。

もう一つは、気配を放っている者の強さが、今までに無いほどのものと確信したからだ。
戦闘音が全く聞こえない距離からでも確かに気配…もとい、「意思」が感じられた。
戦闘を行いながらも、それを楽しんでいるかのような4つの意思が。
ウエストとて、この二か月以上の期間で多くのゾイドを相手にものの、
これほどまでに強い意志を持った者など相手にした事がなかったのだ。

ウエストは心の底で願っていた。「どうか、気付かれずに通り過ぎてください」と。
今までに戦った事のない壮絶な強さの者が、しかも4体(?)まとめて近づいているのだ。
いくらデススティンガーとはいえ、奴らに襲われれば無事でいられるか分らない。
それに、子供たちを手にかけられるのは、耐えがたい苦痛だ。
戦わずに済むならば、出来るだけ戦いたくはない…彼はそう考えていたのだろう。

ブースターと火器の火薬の上げる爆音、金属が軋むような音が近付いてくる。
感じ取れる意思も、漠然としたものではなくなっていった。
それでもウエストは必死に気配を殺し、奴らが通り過ぎる事を願っていた。
「目標の日」まで非力な子供たちを守るためにも。

しかし、甘い期待は裏切られた。
遺跡の周囲にあった食料…解体したゾイドを目にして、4体の意思が急に変わったのだ。
このままでは、こちらの存在がばれるのは時間の問題だろう。
最初は積極的に戦闘は避けようとしていたウエストも、戦うしかないと瞬時に割り切った。
そして、その4体に向けて荷電粒子砲の引き金を引いたのだった。

114 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 21:09:18.88 ID:???.net
33.地獄から来た悪魔

その頃…ウエストが「4つの意思」を感じ取った場所に、リッツとアーサーはいた。
つい先ほどまでは、至高のゾイド乗り同士が繰り広げる戦いに、2人とも夢中だった。
だが、今の彼らの心の中には、その戦いの最中に湧いていた高揚感、満足感などはない。
バラバラにされたゾイドの残骸が転がる不気味な光景を目の当たりにした2人とその愛機は、
今まではほとんど感じてこなかった恐怖に、凍りつくしかなかったのだった。

「いったい、これは…」
2人は口をそろえて、呆然としながらつぶやいた。
残骸にしては、奇麗に解体されていた。致命的な損傷を負っている残骸もほとんどない。
さらにその残骸の中には、ライトニングサイクスや、試作段階だったシャドーフォックスなど、
「未来の第一線の主力である機体」すらも、旧式の機体と分け隔てなく葬られていたのだ。

不意に、その二人の間に割り込むように、荷電粒子砲特有の光が通り過ぎていく…
融解した残骸が溶岩にように滴り、気化した物質が火山の噴煙のように舞い上がった。
その、「かつてゾイドだったもの」が作る一筋の道の奥からから、何か這い出て来る。
それは、出来上がった赤いカーペットを悠々と歩く、ウエストとデススティンガーだ。
地獄を彷彿とさせるこの演出は、彼らの強さと恐ろしさを更に強調させた。

「ブレードとジェノ以外は見当たらない…残りはパイロットか。」
ウエストは、視覚と第六感の整合性をとりながら、こんな言葉を呟いた。
たった2体ならば倒すのは容易い。それに、相手は別々の国の最新鋭ゾイドだ。
故にどちらかが鹵獲機という可能性も低く、この2体の間に連携は生まれないだろう。
そう判断した彼は、砂塵を吹き飛ばす程の突風に逆らいながら、2体に近づいていった。

自分たちを見た瞬間、急に相手の意思が乱れ始めた事も、ウエストの憶測の信憑性を高めた。
相手の意思が、逃げたいという意思と戦わなくてはいけないという意思に割れていたのだ。
これによって、何とも言えぬ優越感を感じたウエストは、慢心してしまった。
そのため、わざわざ格闘戦で仕留めようと、必要以上に近寄ってしまったのだ。
ここで、仮に彼が再び二発目の荷電粒子砲を撃っていた場合、この世界は滅びていただろう。

115 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 21:13:21.03 ID:???.net
34.凶戦士、死すべし

「怖気づいて動けないなんて…せっかく強い相手だと思ったのに、期待外れだよ。」
ウエストは、咆哮を発するだけで動かない2体をこのように罵った。
戦う前はこちらが恐れていたはずの相手が、いざ戦ってみたらただの鉄くずだった。
そのように錯覚した彼の心には、失望感がこみ上げてきた。
デススティンガーも同じだ。もはや2体の事を「肉の塊」としか認識していなかった。
故に飛び道具など使う気は毛頭もなく、甲高い鳴き声で敵を威嚇しながら近づいていった。
手ごろな大きさに引きちぎって、子供の分も残しながら、自分も食らおうと思っていたのだ。

「っ!」
油断をしきっていたウエストの頭部に、殴られたような鈍い痛覚が襲いかかった。
つい先ほどまで怯えていたはずのブレードライガーが、攻撃を始めたのだ。
彼も反撃を試みようとEシールドを展開し、相手の姿を確認しようとした。
だが、高出力ビーム砲によってモニターの視界は遮られており、位置を把握できない。
レーダーを使用しようと試みるも、謎の妨害電波と設備の劣化で使い物にならなかった。

「くそっ!落ち着け。パワーもスピードも、こちらのほ…ぐっ!」
体勢を立て直そうとしたが、今度は全身の関節が軋むような痛みがそれを阻んだ。
高出力ビーム砲よりも強力な、ジェノブレイカーの収束荷電粒子砲の至近距離での一撃だ。
Eシールドを展開し、攻撃自体はしのいでいるものの、衝撃だけでも十分な威力だった。
だが、その一撃を終えた後、数秒だけ攻撃が無い時間…つまり視界が開けた時間があった。
ウエストは痛みに耐えながら、視界を確認した。相手までの距離は、そう遠くはない。
確実に相手に近づいている事を認識した瞬間、再び視界は2体の攻撃に遮られた。

ウエストは感じ取った。2体とそのパイロットの心を支配していた恐怖が消えていく事を。
代わりに芽生えていたのは、何かの使命感に駆り立てられたような明確な殺意だった。
それに後押しされていたブレードとパイロットの一撃が、次第に重くなっていく…
ウエストは攻撃を受けながら、自分の迂闊さ、愚かさ、弱さを実感し、後悔した。
それが戦場では「甘え」としか呼ばれない行動でしかないと知りながら。

116 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 21:17:20.67 ID:???.net
35.リッツの覚醒

「喰らえ! このサソリ野郎があぁぁ!」
リッツは凄まじい怒号をあげながら、ジェノブレイカーの収束荷電粒子砲を撃ち続けた。
彼は、収束荷電粒子砲を至近距離で受けて無傷だったデススティンガーを目の当たりにし、
つい先ほどまでは、かつてない恐怖を覚え心が折れそうになっていた。
だが、愛機であるブレイカーは果敢に立ち向かったのだ。咆哮で自らを奮い立たせながら。

「こいつは敵よりも先に、自分のパイロットを壊すだろう。」
リッツは当初、闘争本能しかない野獣のような愛機を、このように罵っていた。
彼はその武人のような風貌に合わず、争い事や殺しを真っ当から嫌っていた人間だった。
故にOSの破壊衝動に引きずられ、戦いにのめりこむ自分に嫌気が差す時もあった。
己に戦闘狂になる事を強いた「兵器」に、好意など持てるはずも無いだろう。

しかし、リッツは「兵器」と蔑んでいた愛機のこの姿を見た事によって、目が覚めた。
ブレイカーもれっきとした「感情のある生き物」であると、やっと気付いたのだ。
すると、闘争本能に隠れていた、ブレイカーの元々の感情が流れ込んできた。
その中には喜びや悲しみ、怖れ…そして、OSへの憎しみがあった。
彼は理解した。己がブレイカーを憎んでいたように、ブレイカーもOSを憎んでいた事を。
だからこそ、リッツも愛機と共に叫ぶことで己を鼓舞し、立ち向かったのだ。
ブレイカーが憎むOSの権化…真・オーガノイドであるデススティンガーを倒すために。

高出力ビーム砲と収束荷電粒子砲は、絶え間なくデススティンガーに浴びせられた。
その時間、およそ3分…当然ながら機体の素のスペックでは、双方ともに
ここまで最大出力で攻撃を続けることなど不可能であった。
だが、最高のゾイド乗りと言っても過言ではない領域に達していた二人に呼応した
ブレードとブレイカーは、機体スペックを超越した行動をやってのけたのだ。

デススティンガーに装備されたEシールド発生装置は、ついに耐えきれずショートした。
Eシールドを突破した2体の攻撃が、デススティンガーに文字通り「直撃」する…
凶戦士が高出力ビームと荷電粒子に飲み込まれていく様を見て、リッツは勝利を確信した。

117 :忌むべき者たちの悲哀 36.道連れ ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:15:34.32 ID:???.net
「っうううああああぁぁぁぁ!」
Eシールドを突破された瞬間、ウエストは腹の底から恐ろしい呻き声をあげた。
2体の全力の攻撃は、精神を完全にリンクしていた彼の体に容赦なく襲いかかったのだ。
無論、デススティンガー本体のほうの機械的なダメージも、相当なものであった。
前面にある視覚モニターは割れ、音響装置は耳障りなノイズ音しか発さなくなっていた。

視覚も聴覚も奪われてしまっては、悪あがきをしようにも何もできない。
いや、それ以前に超重装甲を突破されて、間違いなく自分は跡形もなく蒸発するだろう…
完全に手詰まりに陥っていたウエストの脳裏に、あの日の光景が蘇った。
あの日…北ルートの迎撃戦でも、今と同じように自分は絶望のどん底に叩き落とされた。
共和国の大部隊と帝国の精鋭中隊(正確にはダリウスの小隊)に挟撃され、死に直面したのだ。
さらに、トラウマになっている出来事のフラッシュバックが、頭に濁流のように流れていた。
だが、そこまでの状況に陥ったにも関わらず、なぜ自分は今日まで生きているのだろうか。
よく考えれば、今ここで自分が生きている事自体が不思議でしょうがなく思えた。

確かにあの戦いの後、「自分を見離した世界への復讐」を誓い、生きる原動力としてきた。
しかし、絶望のどん底から最初に這い上がる為に抱いた思いは、そんなに複雑ではない。
「どうせ死ぬなら、みんな道連れにしてやる。」…端的に表すと、このような感情だった。
なぜ今日まで自分は生き延びてしまったのか。その答えは、以外にも単純なものであった。
「破滅的な感情に任せて周りのモノを壊し続けた結果、偶然にも生き延び続けただけ。」
そう悟った時、彼の頭の中は、良くも悪くもすっきりとしていた。

「何で今頃になって生きたいと思ったんだ。死んだほうが楽なのに。」
ウエストは心でこのように思った時、この思いが自然と口からこぼれていた。
それをきっかけに、自分がまだ生きている事に気付いたウエストは、すぐさま目を開いた。
コクピットは使い物にならなくなっており、鉄の棺桶と言ったほうがしっくりくる。
だが、ただ死を待つだけでは芸がない。死ぬ瞬間まで暴れ続けて、道連れを作ってやる。
そう思い、彼は不敵な笑みを浮かべながら、棺桶の蓋を左手でこじ開け、むしり取った。

118 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:16:39.57 ID:???.net
37.暴かれた素顔

爆炎と黒煙に包まれているデススティンガー…それを見て、二人は勝利を確信していた。
それもそうだろう。通常砲撃(砲弾状の砲撃)で中型ゾイドを破壊する高出力ビームと、
一撃でゴジュラスを丸ごと融かしてしまうほどの威力を持った収束荷電粒子砲…
それを三分以上も絶え間なく撃ち続けていたのだから、倒せないゾイドはいない。
相手が「真・オーガノイド」でなければ、この認識は正しかった。

しかし、凶戦士は満身創痍の状態ではあったが、黒煙の中から再び姿を現したのだ。
全身を覆う超重装甲は無残に割れ、背部のショックカノンも熱に屈したのか、歪んでいる。
特に、頭部に至っては生々しい素顔が露になり、コクピットもむき出しになっていた。
そのコクピットには今もウエストが乗っており、2人…特にリッツに衝撃を与えたのだ。

衝撃の事実を知ったリッツは絶句した。驚きのあまり声すら出せなかったのだ。
ヴァルターから聞き出した話でも、パイロットの「エルザ准尉」の生死は不明だったが、
その後の暴走から察するに、おそらくデススティンガーに殺されたとリッツは推測した。
むしろ、そうでなければ味方を「巻き込んで」ではなく「狙って」攻撃するはずがなく、
OSの危険性を知っていた彼が、この結論にたどり着いたのは当然と言えるだろう。
だが、デススティンガーのコクピットには、生きた人間が乗っているのだ。
それも、エルザ准尉という見ず知らずの人間ではなく、自分もよく知っているウエストが。

信じがたい…いや、信じたくない真実だった。
リッツの知る限りでは、ウエストは人を傷つける事に対して、尋常ではないほど抵抗があった。
敵にすら情けをかけてしまうため、「敵兵を殺す度胸もないのか」と罵られていた姿も見た。
そんなウエストが、二か月以上前から続く惨劇を起こしたというのは信じたくなかったのだ。

不意に、異様な重力が体にかかった。デススティンガーの腕に掴まれ、持ち上げられたのだ。
十分に距離は離れているはずだった。しかし、凶戦士は腕を伸ばして無理矢理掴んだのだ。
必死にリッツは操作をしようとしたものの、首を掴まれたブレイカーはびくとも動かない。
ふっ…と体が浮くのを感じた瞬間、リッツの意識は遠くへ飛ばされたかのように失われた。

119 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:17:32.78 ID:???.net
38.憎悪の対象

デススティンガーは力任せに右腕を振り下ろし、ジェノブレイカーを地面に叩きつけた。
轟音が鳴り響き、地面の残骸と、焦げ跡の残るフリーラウンドシールドが宙を舞った。
ブレイカー自体も、地面に直接叩きつけられた左半身が無残に拉げ、潰れていた。
共和国追撃部隊をたった一機で薙ぎ払い、味方からも、高すぎる戦闘能力から
「魔装竜」と呼ばれていた機体すらも、凶戦士にとっては赤子同然だったのだ。

「ふふふ…あっはっはっはっはっは!」
ウエストは、ただのガラクタになり下がったジェノブレイカーを見て、急に笑い出した。
アリの巣を根絶やしにした時のような、妙な充実感や高揚感が湧いてきたのだ。
この感覚がずっと続けばいい。この感覚に浸っている時こそが、自分には幸せに感じられる。
彼は自分自身にそう言い聞かせながら、遺跡全体に響き渡るほどの声で笑い続けた。。

だが、思わぬ方向から、彼の至福の瞬間を邪魔する者がいた。
ちょうど自身の左側から非常に鋭い殺気を感じ、ウエストはそちらに目をやった。
殺気の主はまだ生き残っていたブレードライガーだ。屈んでいるのか、パイロットが見え…
そこでウエストは、ブレードのパイロットが因縁の相手である事に気付き、はっとした。
それと時を同じくして、体勢を低くしたブレードからショックカノンが放たれた。

「ちぃ!」
正確にむき出しのコクピットを狙った一撃を、左手で掴んでいた棺桶の蓋で防いだ。
蓋の端から崩れた細かい破片がウエストの左頬を裂き、そこから赤い静脈血が滴った。
―化物め!―
この明確な意思を感じた瞬間、蓋の奥から爆発音が聞こえた。ブースターの噴射音だ。
左手の蓋を投げ捨て、怒涛の勢いで迫ってくるブレードライガーとパイロット対峙した。
先ほどよりも間近にパイロットを視認できる…「あいつ」で間違いない!

「お前さえいなければ!」
ウエストは、ずっと探し続けていた憎悪の対象を目の前にして、こう叫んだ。
そして、彼は秘めていた怒りや憎しみを込めた渾身の一撃を、ブレードに叩きこんだ。

120 :忌むべき者たちの悲哀39.刺し貫く一撃 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:19:27.44 ID:???.net
バリンという金属が裂ける音がした瞬間、伸ばした尻尾がブレードライガーの腹を貫いた。
強力無比なその一撃は、時速300キロで突進してきたブレードを正確に捉えたのだ。
さらに驚くべきは、金属を裂ける音は、ブレードを貫く前に鳴っていたという事実だろう。
後に回収されたデススティンガーは、尾部装甲が裂けるようにひび割れていたそうだ。
しかし、その損傷は外敵によるものではなく、凶戦士自身によるものだったのだ。

文字通り串刺しされたブレードだが、瀕死の重傷を負いながらも、戦意は失わなかった。
左脇のブレードを展開し、先端のパルスレーザーガンをウエストに向けたのだ。
だが、ありえない反応速度を寸前に見せつけていた彼が、これに気付かないわけがない。
すぐさま右腕を振り上げ、左側のアタックブースターとブレードを破壊し、
続けざまに、左腕から強烈なアッパーをブレードの顎にぶかましてやった。
この衝撃により尻尾から引きはがされたブレードは、ボールのように跳ね転がり、
先にガラクタになったジェノブレイカーにぶつかった所で、ようやく止まった。

「ああ、化物で悪いねぇ。でも、お前らよりも遙かに上等な化物なんだよ。」
ウエストはこう勝ち誇りながら、荷電粒子砲のチャージを開始した。
チャージをしている隙だらけの状況でも、2体はぴくりとも動かなかった。
むしろ、左半身を破壊されていたり、腹に風穴を空けられてなお動くほうが異常だろう。
チャージはつまらないほど順調に終わり、彼は荷電粒子砲のトリガーを引いた。
眩い光が一直線に伸びていき、2体の体を瞬く間に呑み込んでいった。

二か月前…デススティンガーの覚醒と共に、ウエストは人として生きる事を諦めていた。
まさに外道と呼べる所業を躊躇いもなく行い、それに愉悦すら感じていた時もあった。
故に、元より人である事を自分で否定した彼にとっては、化物というのも褒め言葉だった。
技術総督であるドクトルFは、「人に御せぬ悪魔」とデススティンガーを評していたが、
その評価は誤っていた。ウエストはデススティンガーを御する事が出来たからだ。
しかし彼は人である事を自分で否定し、「悪魔」、そして「化物」と化した。
その結果、ドクトルFの評価は正しくなってしまったというのは、皮肉な話である。

121 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:21:01.74 ID:???.net
40.雪辱の刻

荷電粒子砲を発射してから、5秒、10秒と時間は経過していった。
だが、未だにブレードライガーとジェノブレイカーの影が消し飛ぶ気配がなかった。
ブレードの展開するEシールドが、荷電粒子砲を拡散させしていたのだ。
あと一歩の所でとどめが刺せない…ウエストの心の中には、もどかしさが募っていった。

「あんな死に損ないにすらとどめを刺せないのか。やっぱり荷電粒子砲なんか要らないな。」
苛立ったウエストは、左手を叩きつけながらこう言った。
荷電粒子砲の劣化は激しかった。実戦での最初の砲撃では、共和国の重砲部隊を壊滅させた。
しかし、この日の最初の一発も、今放っている一発も、その時の威力には遠く及ばない。
それでいて、この一発が今出せる最大出力ときたものだから、腹が立って仕方がなかった。

「こんなポンコツよりも、もっと強くて、もっと相手に苦痛を与えられる武器があれば…」
荷電粒子砲の光が減衰していく中で、ウエストはこのような事を思っていた。
自分の一生を台無しにしてくれたブレードを、確実に、かつ惨い方法で殺したい。
彼のその強い思いに呼応するかの様に、デススティンガーの眼は、強く輝き始めた。
ひび割れた背甲がさらに蛇腹のように割れていき、そこに無数の管が張り巡らされた。

「流石だよ、デススティンガー! これならいける!」
ウエストは、デススティンガーの行った「進化」に感謝し、思わず喜びの声をあげた。
新たに造りあげたその武器は、彼の望んだ「確実、かつ残酷に殺せる武器」だったからだ。
その進化をしている隙にブレードが荷電粒子砲を物ともせず、こちらに向かってきた。
弱体化した荷電粒子砲では、死に損ないのブレードを止めることすら出来なかったのだ。
爪を振り上げ、コクピットを潰そうとする一撃が迫る…だが、ウエストは笑っていた。
なぜなら、憎み続けていた男を、やっとこの手で惨殺できると確信したからだ。

122 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:21:39.91 ID:???.net
41.決着の刻

ブレードが今まさにコクピットを潰そうとした瞬間、振り上げた左腕が吹き飛んでいった。
進化したデススティンガーの背中に出来上がった管から、針のように鋭い光が放たれたのだ。
たった一本の細い光が、Eシールドを紙きれのように貫き、ブレードの腕を切断した。
しかも、放たれた光は一本ではない。数十、数百もの光が続けざまにブレードに襲いかかり、
右手、胴体、そしてコクピットと、ブレードの体をばらばらに、ぐちゃぐちゃにしていった。
持ち主を失った操縦桿が吹き飛ぶ様を見ながら、彼は狂ったように笑い続けていた。

「あっはっはっはっはっは! お前なんか、消えて無くなれ!!」
ウエストはそう叫びながら、事切れていたブレードとパイロットに、更に光を叩きこんだ。
無数の光がブレードの残骸を貫いていき、上半身は瞬く間に粉々になっていった。
残った下半身も勢いを失い、穴だらけになりながら、がらがらと音を立てて崩れていった。

「もう、これで誰にも馬鹿にされなくて済むんだ…」
破片状になった「ブレードだったもの」を浴びながら、彼の心にこのような思いが芽生えた。
高速ゾイドに手も足も出ない「欠陥品」の汚名を着せられてからは、毎日が苦痛だった。
戦功の奪い合い、人種差別、戦況の悪化…それらで募った不満のはけ口にされた。
その中でも彼は、いつ来るかも分からない名誉挽回の機会に希望を見出しながら生きてきた。
そして今、彼は因縁の相手に勝利した。耐え忍んできた日々が報われたのだ。

ブレードを残骸の奥から、急に真紅の機体が目の前に飛び出してきた。
最初に仕留めたと思い込んでいたジェノブレイカーが、こちらに突っ込んできたのだ。
その右腕には、レーザーブレードがしっかりと握られている。
動きは傷ついたブレードよりも遙かに速かったが、捉えるのは不可能ではなかった。
ジェノブレイカーの腹のコクピットとコアを破壊さえすれば、突撃は止められる…
このように察したウエストは、すぐさま右腕をジェノブレイカーの腹にぶち込もうとした。

だが、右腕を振り上げた瞬間、ウエストは気付いてしまった。
ジェノブレイカーのパイロットが、ずっと憧れていたリッツ中尉である事に。

123 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:23:22.92 ID:???.net
42.心か体か

「お前は欠陥品なんかじゃない。少なくとも俺は、お前も普通の人間だと思っている。」
ウエストは、自分が「欠陥品」と皆に扱われているという事をリッツ中尉に問い詰められ、
それを打ち明けた時に、こう言われた事があった。
彼はリッツに接する時も、欠陥品扱いされている事をずっと隠していた。
この事実を知ってしまったら、もう口すら利いてくれないだろうと思っていたからだ。
だが、これを知ってもなお偏見を抱く事もなく、リッツはこのように言ってくれたのだ。
ウエストは嬉しかった。言葉に出来ない程に嬉しかった。
軍では彼の事を普通の人間として扱っている人間は、リッツを含めごく一部だったからだ。
これを機に、彼のリッツへの憧れはさらに加速し、より強烈なものとなっていった。

ジェノブレイカーに遭遇した時は、最初こそ別人が乗っていると思っていた。
戦いが本当は嫌いなリッツ中尉が、ここまで戦いに夢中になっているはずが無いからだ。
しかし、ジェノブレイカーが突っ込んできた時、ウエストに意思が流れ込んできたのだ。
ジェノブレイカーから流れ込んできた意思…それは、リッツのものだ。
それも、己を盾にして散ったブレードとパイロットに報いようという、強い意思だった。

ウエストは何度も「理解者との別れ」を経験し、その度に心に大きな傷を抱えていった。
これ以上傷つきたくないという本能から、人と必要以上に距離を置く事も少なくなかった。
変な希望を抱くよりも、最初から希望など抱かず、漠然と生きればいいとも思い始めた。
しかしそう思いながらも、心の底では自分を理解してくれる者に渇望していたのだ。
故に、自分を理解してくれたリッツへの思いは、並大抵のものではなかった。
その思いの強さは、どんな辛い仕打ちも、リッツの事を考えれば耐えられた程だった。

ジェノブレイカー…リッツさえ殺してしまえば、ウエストは生き延びる事が出来た。
しかし、リッツは彼の心の支えだった。殺してしまえば最後、自分の心が壊れるのは明白だ。
自分の心を壊さなければ、自分の体は壊れる…この選択肢は、どちらも選び難いものだった。

心か体か…最期にウエストが選んだ方は、本書が記されていることで分かるだろう。

124 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 23:55:14.96 ID:???.net
43.暁の光を浴びて

東の地平線から差す陽光が、レッドラストの砂礫と無数の残骸を赤く染めあげていった。
ここがレッドラストと呼ばれる所以であるこの現象は、短い夜が終わった事を意味していた。
この夜に最大の激戦地となった「悪魔の寝床」にも、その光は分け隔てなく注がれた。

「済まない…俺には、こうする事しか出来なかった。」
リッツは、目の前に佇むデススティンガーに、まるで謝罪でもしているかのようにこう言った。
デススティンガーのコクピットには、レーザーブレードが深々と突き立てられていた。
それは、リッツが凶戦士…「真・オーガノイド」に勝利した証である。
しかし彼の心には、勝利したにもかかわらず、罪悪感のようなものがこみ上げてきた。

デススティンガー…ウエストにとどめを刺した時に、彼らの思いがリッツに流れ込んできた。
それにより、リッツはデススティンガーとウエストの事を「知ってしまった」。
彼らは、人間の所業によって心を捻じ曲げられ、やり場のない憎しみを抱き続けていた。
その憎しみによって、さらに心が歪んでいく事にすら憎しみを持つようになっていたのだ。
リッツは悟った。彼らも、自分とブレイカーとそう変わらなかったと。
憎悪の根底にあるものが、人間とOSという違いがあっただけだと。

それと同時に、西側の山間から巨大な雷が落ちたかのような閃光と轟音が走った。
非常に遠くから発せられながらも、大地と大気の震えが、ここからでも感じ取れた。
これは、ウルトラザウルスがニクシー基地の攻撃に成功した事を意味していた。
彼が一週間ほど前に出撃したのは、決してブレードやデススティンガーを倒す事ではない。
ウルトラザウルスを破壊し、共和国によるニクシー基地攻撃を止める事に他ならなかった。

この作戦は、帝国の命運を賭けた「絶対に遂行しなければいけない作戦」であった。
しかし、自分は任務を放棄して、ブレード…そしてデススティンガーと戦った。
そして帝国を救う事も、ブレードとそのパイロットとの決着も付ける事も出来なかった。
例え、この結果に至るまでに様々な紆余曲折があったとしても、許される事ではない…
戦いの中、一人だけ生き残ったリッツは、このような後ろ向きな思考を巡らせていた。

125 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/10/01(土) 06:18:11.51 ID:???.net
44.託された使命

遠方からの轟音だけが鳴り響く中、ジェノブレイカーが「悪魔の寝床」に向かって吼えた。
咆哮には怒り、憎しみが強く込められており、その矛先は、小さな命へと向けられていた。
朽ちた遺跡の中で蠢く、デススティンガーの幼体に。
幼体はキィキィと小さく甲高い声で鳴いていた。目の前のブレイカーに怯えていたのか、
はたまたデススティンガーの死を悲しんでいるのかは、今となっては定かではなかったが。

「ブレイカー!」
リッツはすぐにブレイカーの方に振り向き、制止しようと叫んだ。だが、遅かった。
振り向いた時に目に映ったものは、荷電粒子砲特有の光が遺跡を呑み込む様…
リッツはやるせなかった。ブレイカーの行ったこの行動は「正しい判断」であったからだ。

幼体に罪は無かった。しかし、成長したらどうなるか…予想によっては最悪の事態もあった。
「親を殺された幼体が、復讐のために人間を殺戮する」可能性も、否定は出来なかった。
生かせば未来へ禍根を残す事になる…だからこそ、ブレイカーを咎める事も出来なかった。
それにこの行動は、おそらくブレードとパイロットも望んでいた事だったと思ったのだ。
そうでなければ、デススティンガーと戦うという危険な事などせず、退却していただろう。
愛機が致命傷を負っていたとしても、敵に後を託すように、自ら盾になる事もしないはずだ…
そう思いながら、これで良かった。これで正しかったと自分に言い聞かせていた。

自分の憶測が正しいのかを問うように、リッツはブレードライガーの残骸を振り返った。
ガリル遺跡で戦いを繰り広げてからというもの、その姿が頭から一度も離れる事は無かった。
赤い紋章を付けたブレードをずっと追い求めるようになり、戦いにものめり込んでいった。
そうなったのは、自分がOSのせいで戦闘狂になってしまったからだと思い込んでいた。
だが、今ならその真の理由が分かる。ブレードのパイロットに、自分は魅せられたのだ。
敵に心を奪われるというのは、ただ敗北するよりも、遙かに屈辱的な事であった。
相手への勝利によって事実を否定するために、自分の意思で更なる戦いに身を投じていた…
結局のところ、劣情に満ちた戦いを正当化するため、自分はOSを言い訳に使っていたのだ。

126 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/10/01(土) 06:19:02.28 ID:???.net
45.新たなる決意

ジェノブレイカーのコクピットに戻った時には、リッツの心の整理は既についていた。
軍人の地位と名誉、名も知らぬ好敵手、自らを慕っていたウエスト…失ったものは多かった。
だが、それでもなお、彼は途方に暮れる事も、絶望に苛まれる事も無かった。
心に誓った「OS計画を止める」という決意が、彼を心の底から支えていたからだ。

デススティンガーと戦っていた時…奴を倒せば、ブレイカーが報われると思っていた。
おそらくブレードとそのパイロットも、同じような事を感じていたとも思っていた。
しかし、デススティンガー…真・オーガノイドを倒しても、報われる事は無かった。
実際にブレイカーは、自らを狂暴に変質させたOSに、未だに苦しみ続けている。
その事は、ずっとブレイカーに乗り続けていたリッツにも当然伝わってきた。

そして、自分が殺したデススティンガーとウエストもまた、「犠牲者」だった。
デススティンガーは、人間によって意図的に歪められて生み出され、無慈悲に捨てられた。
ウエストは、人間に負の感情を一方的に背負わされ、あらゆる物に絶望し、歪んでいった。
想像を絶する所業に苦しんだ末に彼らが起こしたのが、二か月前から続く惨劇だったのだ。
だが、悲しい事に、この真実を知る人間は僅かしか存在しない。
故に彼らが「忌むべき者」として、死後も報われる事無く、貶められ続ける事は明白だった。

失ったものを取り戻すことは出来ない。だからこそ、決意はより強固なものになっていた。
OS計画を止める事で、ブレイカーがOSから解放されるという確証はない。
しかし、計画を止められれば、未来のOSの犠牲者を救う事は出来る…
そう思ったリッツは、力一杯操縦桿を握りしめ、ブレイカーを始動した。

「行こう、ブレイカー!」
リッツのこの呼びかけに応えるように、ブレイカーはブースターを全開して飛び立った。
本当にOS計画を止めることなど出来るのか…それは、彼自身でも分からなかった。
だが、彼は絶対に止めてみせると、心に誓っていた。
この決意を決め込んだ自分のためにも、この戦いで散っていった者たちのためにも…

127 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/10/01(土) 06:25:32.72 ID:???.net
番外.反響

ZAC2111年、この短編小説は発刊と共に世界各地に衝撃を与えた。
今まで知りえる事の出来なかった、凶戦士と当時の軍についてが生々しく記されており、
ガイロス帝国では、一次はこの短編小説の回収まで行われるという騒ぎも起きた。
しかし、その騒ぎの鎮静化に比例するかのごとく、内容についての波紋が広がった。

冒頭では「我が共和国」と記されているにも関わらず、視点が終始帝国側である事。
視点となるの人物のうち、ヴァルター曹長(現職 特務曹長)とアンダーソン少佐(現職)、
ドクトルOことのオーピス・ケロネー(指名手配中)以外が死亡、または生死不明である事。
また、最も視点が重視されたウエスト二等兵に至っては、それらしい人物のデータが
完全に帝国軍のデータベースからも見当たらなかった事が疑問点として挙げられた。

様々な憶測や研究、考察を経て、最も有力とされたのが「架空の小説」という説であった。
死者が筆を走らせたとしか思えぬ内容が、なぜ記されてあるか解明できなかったからだ。
しかし、納得のいかない者もおり、「あの世から送られてきた本」説なども浮上していた。
さらに天の邪鬼な者は「帝国の行った情報操作」説を唱える者もいたという。

多くの論争の中、この本の疑問が解決されたのは、ZAC2113年の事だった。
そのきっかけは、ZAC2100年代に南エウロペで起きた「ある事件」だったという。

128 :名無し獣@リアルに歩行:2011/10/02(日) 11:09:26.06 ID:???.net
定期age

129 :名無し獣@リアルに歩行:2011/11/01(火) 23:05:22.76 ID:???.net
定期age

130 :名無し獣@リアルに歩行:2011/11/25(金) 11:42:11.71 ID:???.net
復旧test

131 :名無し獣@リアルに歩行:2011/12/01(木) 19:13:15.66 ID:???.net
定期age

132 :名無し獣@リアルに歩行:2012/01/01(日) 01:45:59.31 ID:???.net
定期age

133 :名無し獣@リアルに歩行:2012/02/01(水) 09:26:02.09 ID:???.net
定期age

134 :名無し獣@リアルに歩行:2012/02/01(水) 20:59:35.79 ID:???.net
定期ageより新作キボn

135 :名無し獣@リアルに歩行:2012/03/01(木) 00:13:00.78 ID:???.net
定期age

136 :名無し獣@リアルに歩行:2012/04/01(日) 19:01:22.57 ID:???.net
定期age

137 :名無し獣@リアルに歩行:2012/05/01(火) 00:14:42.66 ID:???.net
定期age

138 :名無し獣@リアルに歩行:2012/05/03(木) 06:49:22.84 ID:hLDD53bC.net
ハーマン
「くっ、離脱する! ハマシュート!」

139 :名無し獣@リアルに歩行:2012/06/01(金) 09:15:51.73 ID:???.net
定期age

140 :名無し獣@リアルに歩行:2012/08/26(日) 08:35:20.60 ID:wCAHZBZQ.net
定期AGE

141 :名無し獣@リアルに歩行:2012/11/23(金) 11:10:07.94 ID:J4+ArVq2.net
あげとく

142 :名無し獣@リアルに歩行:2012/12/23(日) 09:18:36.61 ID:rbTWxreT.net
天長節あげ

143 :名無し獣@リアルに歩行:2013/01/11(金) 19:18:19.54 ID:nSzGArex.net
おもしろかった

144 :名無し獣@リアルに歩行:2013/01/12(土) 01:24:52.53 ID:iN1+5aiA.net
しぶる女が男を食べようとしてもめているから近くで爆撃してみた。

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