2ちゃんねる ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50    

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

自分でバトルストーリーを書いてみようVol.31

1 :気軽な参加をお待ちしております。:2010/11/20(土) 22:42:15 ID:???.net
「銀河系の遥か彼方、地球から6万光年の距離に惑星Ziと呼ばれる星がある。 
 長い戦いの歴史を持つこの星であったが、その戦乱も終わり、
 平和な時代が訪れた。しかし、その星に住む人と、巨大なメカ生体ゾイドの
 おりなすドラマはまだまだ続く。

 平和な時代を記した物語。過去の戦争の時代を記した物語。そして未来の物語。
 そこには数々のバトルストーリーが確かに存在した。
 歴史の狭間に消えた物語達が本当にあった事なのか、確かめる術はないに等しい。
 されど語り部達はただ語るのみ。
 故に、真実か否かはこれを読む貴方が決める事である。」

気軽な参加をお待ちしております。
尚、スレッドの運営・感想・議論などはこちらで行ないます(※次スレに移行している場合があります)。

"自分でバトルストーリーを書いてみよう"運営スレその3
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1250287817/l50

スレッドのルールや過去ログなどはこちらです。投稿の際は必ず目を通しておいて下さい。

「自分でバトルストーリーを書いてみよう」まとめ
ttp://www37.atwiki.jp/my-battle-story/
ZOIDS battle story(携帯用まとめ)
ttp://98.xmbs.jp/zixxx/

106 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/06/28(火) 07:35:51.62 ID:???.net
30.軍人失格、人間合格

タイトルのような評価を、上官であるデイビー・ラルザック少将にされた軍人がいた。
それがフリオ大尉…本名、フリオ・ザクセンであった。
ラルザック少将は西方大陸戦争時こそ、南エウロペ方面軍最高司令官と言う閑職だったが、
かつての大陸間戦争時には、「軍人の鑑」と今は亡きガイロス皇帝に評された人物であった。

フリオ大尉の評価の裏付けとなるエピソードは、なかなか面白いものばかりだ。
例えば、カノントータスを鹵獲した日の帰り道、部下の活躍を労うために
立ち寄った村でカノントータスと食料や宿を交換したというものや、
部隊の消耗度から、ゲリラ攻撃を続けていたのも関わらず、近くの友軍の
救難信号を察知すると、勝手に殿軍を務めて味方を逃がしていたり、
身の上話を始めた捕虜の共和国兵に同情し、脱走させてしまった事などがある。

軍の立場から言えば、食料は接収が基本であり、敵兵を逃がすのは重罪である。
だが、エピソードから分かる通り、フリオ大尉は敵や民間人にも情けをかける人情家であり、
部下への面倒見もいい士官であるという事がお分かりいただけただろう。
軍部と上官に絶対服従が基本である帝国軍にとって、危険な人物である。
しかし、それと同時に彼は人間としては素晴らしい人物でもあった。

噂によれば、ニクシー基地で猛威を振るっていたダリウス中尉への抑止力として
最初は東エウロペ方面軍に配属されたが、軍人としては良からぬ方向に
部下を導いてしまうため、ラルザック少将のいる南エウロペ方面軍に左遷されたらしい。
しかし、北ルート迎撃戦では東エウロペ方面軍に復帰、サイクス部隊を指揮していた事から、
彼もエウロペ方面軍の中ではエース級のゾイド乗りでもあった事が伺える。

部下からの信頼も厚く、戦闘狂になりかけていたリッツ中尉らOS機乗りや、
人間不信に陥りかけているウエストも、フリオ大尉を信頼していたという。
しかしながら、彼の功績も認められたのはごく最近であり、生前は軍部が認めなかった。
当人が死してから認められる…このような風潮はいつの時代も変わらないのだろうか。

107 :名無し獣@リアルに歩行:2011/07/01(金) 21:00:00.75 ID:???.net
定期age

108 :名無し獣@リアルに歩行:2011/08/01(月) 20:18:20.56 ID:???.net
定期age

109 :名無し獣@リアルに歩行:2011/08/05(金) 22:14:52.98 ID:???.net
ライガーエアロVSプロトブレイカー
を一度見てみたい。

110 :名無し獣@リアルに歩行:2011/08/09(火) 22:55:10.95 ID:???.net
読みたいものは自分で書くしかない
どんなに拙いものであってもね

111 :名無し獣@リアルに歩行:2011/09/04(日) 11:23:48.94 ID:???.net
定期age
運営スレ 雑談はこちら http://toki.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1250287817/l50

112 : ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 21:03:17.36 ID:???.net
31.迫る目標の日

レッドラストの地平線に沈む夕日の光を浴びて、ウエストは今日も目を覚ました。
まだ昼間の熱気が冷めぬ中、彼が最初にした事は、カレンダーの日付けの確認だった。
ある日に付けられた円形の印を目指し、一日ずつチェックマークを入れる…
そして、今日も「目標の日」にまた一日近づいた事を実感し、笑みをこぼした。
目標の日…そこには「初陣」の2文字が円形の印に添えられていた。

初陣を迎えるもの…それは、デストロイヤー砲による災禍が訪れた前後に生まれた、
多くのデススティンガーの幼体であった。
子供たちの成長速度は著しく、今日の夕飯のヘル・ディガンナーとディバイソンを
いともたやすく鋏で切断し、顎で食いちぎり、自らの糧としていた。
親のように武器を取り込むほどには成長していないが、鋏や顎、尾の力は文字通り強靭で、
初陣の日には兵隊にも劣らない強さを発揮するだろうと、ウエストは期待を膨らませていた。

食料も十分にあったため、この日は夕飯を作るだけという平穏な一日であった。
この平穏な日常生活を営んでいるうちに夜の闇は深まり、砂漠の風も冷たくなっていた。
常人が凍てつくほどの風を心地よさそうに受けながら、ウエストは星空を見上げていた。
紺碧の空を照らす満月を迎えた二つの月と、それを際立たせる夜空に浮かぶ無数の星…
かつて故郷で見た、オーロラに彩られた夜空にも匹敵する絶景だ。

しかし、その静寂に包まれた一時は、長くは続かなかった。
何者かの気配が、青い月と赤い月が近づくのに比例するかのように強くなっていったのだ。
まだ爆音も何も聞こえない距離なのに、気配が感じ取れてしまう…
ウエストは、気配を放っている者が相当の手練である事を確信し、急いで遺跡の中へ戻った。

「悪魔の寝床」の中では、寝ていたはずのデススティンガーも既に目覚めていた。
デススティンガーもまた、強い気配に気づいていたのだろう。
ならば話は早いと言わんばかりに、ウエストはデススティンガーに乗り込んだ。

113 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 21:05:16.39 ID:???.net
32.死闘の幕開け

デススティンガーに乗り込んでから、ウエストは遺跡の外側で、敵の待ち伏せをしていた。
なぜ彼が能動的に襲いかかろうとしなかったのかの理由は二つある。
一つは、自分の手足ともいえる兵隊が、この日はいなかったからだ。
兵隊の寿命は短く、一ヶ月弱で生命活動を停止する。さらに、兵隊を一度産み落とした後に
再度兵隊を生むまでにも一ヶ月を要していたのだ。
ゆえに、兵隊がいない日がひと月に2〜3日あり、運悪く今日はその日だったのだ。

もう一つは、気配を放っている者の強さが、今までに無いほどのものと確信したからだ。
戦闘音が全く聞こえない距離からでも確かに気配…もとい、「意思」が感じられた。
戦闘を行いながらも、それを楽しんでいるかのような4つの意思が。
ウエストとて、この二か月以上の期間で多くのゾイドを相手にものの、
これほどまでに強い意志を持った者など相手にした事がなかったのだ。

ウエストは心の底で願っていた。「どうか、気付かれずに通り過ぎてください」と。
今までに戦った事のない壮絶な強さの者が、しかも4体(?)まとめて近づいているのだ。
いくらデススティンガーとはいえ、奴らに襲われれば無事でいられるか分らない。
それに、子供たちを手にかけられるのは、耐えがたい苦痛だ。
戦わずに済むならば、出来るだけ戦いたくはない…彼はそう考えていたのだろう。

ブースターと火器の火薬の上げる爆音、金属が軋むような音が近付いてくる。
感じ取れる意思も、漠然としたものではなくなっていった。
それでもウエストは必死に気配を殺し、奴らが通り過ぎる事を願っていた。
「目標の日」まで非力な子供たちを守るためにも。

しかし、甘い期待は裏切られた。
遺跡の周囲にあった食料…解体したゾイドを目にして、4体の意思が急に変わったのだ。
このままでは、こちらの存在がばれるのは時間の問題だろう。
最初は積極的に戦闘は避けようとしていたウエストも、戦うしかないと瞬時に割り切った。
そして、その4体に向けて荷電粒子砲の引き金を引いたのだった。

114 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 21:09:18.88 ID:???.net
33.地獄から来た悪魔

その頃…ウエストが「4つの意思」を感じ取った場所に、リッツとアーサーはいた。
つい先ほどまでは、至高のゾイド乗り同士が繰り広げる戦いに、2人とも夢中だった。
だが、今の彼らの心の中には、その戦いの最中に湧いていた高揚感、満足感などはない。
バラバラにされたゾイドの残骸が転がる不気味な光景を目の当たりにした2人とその愛機は、
今まではほとんど感じてこなかった恐怖に、凍りつくしかなかったのだった。

「いったい、これは…」
2人は口をそろえて、呆然としながらつぶやいた。
残骸にしては、奇麗に解体されていた。致命的な損傷を負っている残骸もほとんどない。
さらにその残骸の中には、ライトニングサイクスや、試作段階だったシャドーフォックスなど、
「未来の第一線の主力である機体」すらも、旧式の機体と分け隔てなく葬られていたのだ。

不意に、その二人の間に割り込むように、荷電粒子砲特有の光が通り過ぎていく…
融解した残骸が溶岩にように滴り、気化した物質が火山の噴煙のように舞い上がった。
その、「かつてゾイドだったもの」が作る一筋の道の奥からから、何か這い出て来る。
それは、出来上がった赤いカーペットを悠々と歩く、ウエストとデススティンガーだ。
地獄を彷彿とさせるこの演出は、彼らの強さと恐ろしさを更に強調させた。

「ブレードとジェノ以外は見当たらない…残りはパイロットか。」
ウエストは、視覚と第六感の整合性をとりながら、こんな言葉を呟いた。
たった2体ならば倒すのは容易い。それに、相手は別々の国の最新鋭ゾイドだ。
故にどちらかが鹵獲機という可能性も低く、この2体の間に連携は生まれないだろう。
そう判断した彼は、砂塵を吹き飛ばす程の突風に逆らいながら、2体に近づいていった。

自分たちを見た瞬間、急に相手の意思が乱れ始めた事も、ウエストの憶測の信憑性を高めた。
相手の意思が、逃げたいという意思と戦わなくてはいけないという意思に割れていたのだ。
これによって、何とも言えぬ優越感を感じたウエストは、慢心してしまった。
そのため、わざわざ格闘戦で仕留めようと、必要以上に近寄ってしまったのだ。
ここで、仮に彼が再び二発目の荷電粒子砲を撃っていた場合、この世界は滅びていただろう。

115 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 21:13:21.03 ID:???.net
34.凶戦士、死すべし

「怖気づいて動けないなんて…せっかく強い相手だと思ったのに、期待外れだよ。」
ウエストは、咆哮を発するだけで動かない2体をこのように罵った。
戦う前はこちらが恐れていたはずの相手が、いざ戦ってみたらただの鉄くずだった。
そのように錯覚した彼の心には、失望感がこみ上げてきた。
デススティンガーも同じだ。もはや2体の事を「肉の塊」としか認識していなかった。
故に飛び道具など使う気は毛頭もなく、甲高い鳴き声で敵を威嚇しながら近づいていった。
手ごろな大きさに引きちぎって、子供の分も残しながら、自分も食らおうと思っていたのだ。

「っ!」
油断をしきっていたウエストの頭部に、殴られたような鈍い痛覚が襲いかかった。
つい先ほどまで怯えていたはずのブレードライガーが、攻撃を始めたのだ。
彼も反撃を試みようとEシールドを展開し、相手の姿を確認しようとした。
だが、高出力ビーム砲によってモニターの視界は遮られており、位置を把握できない。
レーダーを使用しようと試みるも、謎の妨害電波と設備の劣化で使い物にならなかった。

「くそっ!落ち着け。パワーもスピードも、こちらのほ…ぐっ!」
体勢を立て直そうとしたが、今度は全身の関節が軋むような痛みがそれを阻んだ。
高出力ビーム砲よりも強力な、ジェノブレイカーの収束荷電粒子砲の至近距離での一撃だ。
Eシールドを展開し、攻撃自体はしのいでいるものの、衝撃だけでも十分な威力だった。
だが、その一撃を終えた後、数秒だけ攻撃が無い時間…つまり視界が開けた時間があった。
ウエストは痛みに耐えながら、視界を確認した。相手までの距離は、そう遠くはない。
確実に相手に近づいている事を認識した瞬間、再び視界は2体の攻撃に遮られた。

ウエストは感じ取った。2体とそのパイロットの心を支配していた恐怖が消えていく事を。
代わりに芽生えていたのは、何かの使命感に駆り立てられたような明確な殺意だった。
それに後押しされていたブレードとパイロットの一撃が、次第に重くなっていく…
ウエストは攻撃を受けながら、自分の迂闊さ、愚かさ、弱さを実感し、後悔した。
それが戦場では「甘え」としか呼ばれない行動でしかないと知りながら。

116 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 21:17:20.67 ID:???.net
35.リッツの覚醒

「喰らえ! このサソリ野郎があぁぁ!」
リッツは凄まじい怒号をあげながら、ジェノブレイカーの収束荷電粒子砲を撃ち続けた。
彼は、収束荷電粒子砲を至近距離で受けて無傷だったデススティンガーを目の当たりにし、
つい先ほどまでは、かつてない恐怖を覚え心が折れそうになっていた。
だが、愛機であるブレイカーは果敢に立ち向かったのだ。咆哮で自らを奮い立たせながら。

「こいつは敵よりも先に、自分のパイロットを壊すだろう。」
リッツは当初、闘争本能しかない野獣のような愛機を、このように罵っていた。
彼はその武人のような風貌に合わず、争い事や殺しを真っ当から嫌っていた人間だった。
故にOSの破壊衝動に引きずられ、戦いにのめりこむ自分に嫌気が差す時もあった。
己に戦闘狂になる事を強いた「兵器」に、好意など持てるはずも無いだろう。

しかし、リッツは「兵器」と蔑んでいた愛機のこの姿を見た事によって、目が覚めた。
ブレイカーもれっきとした「感情のある生き物」であると、やっと気付いたのだ。
すると、闘争本能に隠れていた、ブレイカーの元々の感情が流れ込んできた。
その中には喜びや悲しみ、怖れ…そして、OSへの憎しみがあった。
彼は理解した。己がブレイカーを憎んでいたように、ブレイカーもOSを憎んでいた事を。
だからこそ、リッツも愛機と共に叫ぶことで己を鼓舞し、立ち向かったのだ。
ブレイカーが憎むOSの権化…真・オーガノイドであるデススティンガーを倒すために。

高出力ビーム砲と収束荷電粒子砲は、絶え間なくデススティンガーに浴びせられた。
その時間、およそ3分…当然ながら機体の素のスペックでは、双方ともに
ここまで最大出力で攻撃を続けることなど不可能であった。
だが、最高のゾイド乗りと言っても過言ではない領域に達していた二人に呼応した
ブレードとブレイカーは、機体スペックを超越した行動をやってのけたのだ。

デススティンガーに装備されたEシールド発生装置は、ついに耐えきれずショートした。
Eシールドを突破した2体の攻撃が、デススティンガーに文字通り「直撃」する…
凶戦士が高出力ビームと荷電粒子に飲み込まれていく様を見て、リッツは勝利を確信した。

117 :忌むべき者たちの悲哀 36.道連れ ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:15:34.32 ID:???.net
「っうううああああぁぁぁぁ!」
Eシールドを突破された瞬間、ウエストは腹の底から恐ろしい呻き声をあげた。
2体の全力の攻撃は、精神を完全にリンクしていた彼の体に容赦なく襲いかかったのだ。
無論、デススティンガー本体のほうの機械的なダメージも、相当なものであった。
前面にある視覚モニターは割れ、音響装置は耳障りなノイズ音しか発さなくなっていた。

視覚も聴覚も奪われてしまっては、悪あがきをしようにも何もできない。
いや、それ以前に超重装甲を突破されて、間違いなく自分は跡形もなく蒸発するだろう…
完全に手詰まりに陥っていたウエストの脳裏に、あの日の光景が蘇った。
あの日…北ルートの迎撃戦でも、今と同じように自分は絶望のどん底に叩き落とされた。
共和国の大部隊と帝国の精鋭中隊(正確にはダリウスの小隊)に挟撃され、死に直面したのだ。
さらに、トラウマになっている出来事のフラッシュバックが、頭に濁流のように流れていた。
だが、そこまでの状況に陥ったにも関わらず、なぜ自分は今日まで生きているのだろうか。
よく考えれば、今ここで自分が生きている事自体が不思議でしょうがなく思えた。

確かにあの戦いの後、「自分を見離した世界への復讐」を誓い、生きる原動力としてきた。
しかし、絶望のどん底から最初に這い上がる為に抱いた思いは、そんなに複雑ではない。
「どうせ死ぬなら、みんな道連れにしてやる。」…端的に表すと、このような感情だった。
なぜ今日まで自分は生き延びてしまったのか。その答えは、以外にも単純なものであった。
「破滅的な感情に任せて周りのモノを壊し続けた結果、偶然にも生き延び続けただけ。」
そう悟った時、彼の頭の中は、良くも悪くもすっきりとしていた。

「何で今頃になって生きたいと思ったんだ。死んだほうが楽なのに。」
ウエストは心でこのように思った時、この思いが自然と口からこぼれていた。
それをきっかけに、自分がまだ生きている事に気付いたウエストは、すぐさま目を開いた。
コクピットは使い物にならなくなっており、鉄の棺桶と言ったほうがしっくりくる。
だが、ただ死を待つだけでは芸がない。死ぬ瞬間まで暴れ続けて、道連れを作ってやる。
そう思い、彼は不敵な笑みを浮かべながら、棺桶の蓋を左手でこじ開け、むしり取った。

118 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:16:39.57 ID:???.net
37.暴かれた素顔

爆炎と黒煙に包まれているデススティンガー…それを見て、二人は勝利を確信していた。
それもそうだろう。通常砲撃(砲弾状の砲撃)で中型ゾイドを破壊する高出力ビームと、
一撃でゴジュラスを丸ごと融かしてしまうほどの威力を持った収束荷電粒子砲…
それを三分以上も絶え間なく撃ち続けていたのだから、倒せないゾイドはいない。
相手が「真・オーガノイド」でなければ、この認識は正しかった。

しかし、凶戦士は満身創痍の状態ではあったが、黒煙の中から再び姿を現したのだ。
全身を覆う超重装甲は無残に割れ、背部のショックカノンも熱に屈したのか、歪んでいる。
特に、頭部に至っては生々しい素顔が露になり、コクピットもむき出しになっていた。
そのコクピットには今もウエストが乗っており、2人…特にリッツに衝撃を与えたのだ。

衝撃の事実を知ったリッツは絶句した。驚きのあまり声すら出せなかったのだ。
ヴァルターから聞き出した話でも、パイロットの「エルザ准尉」の生死は不明だったが、
その後の暴走から察するに、おそらくデススティンガーに殺されたとリッツは推測した。
むしろ、そうでなければ味方を「巻き込んで」ではなく「狙って」攻撃するはずがなく、
OSの危険性を知っていた彼が、この結論にたどり着いたのは当然と言えるだろう。
だが、デススティンガーのコクピットには、生きた人間が乗っているのだ。
それも、エルザ准尉という見ず知らずの人間ではなく、自分もよく知っているウエストが。

信じがたい…いや、信じたくない真実だった。
リッツの知る限りでは、ウエストは人を傷つける事に対して、尋常ではないほど抵抗があった。
敵にすら情けをかけてしまうため、「敵兵を殺す度胸もないのか」と罵られていた姿も見た。
そんなウエストが、二か月以上前から続く惨劇を起こしたというのは信じたくなかったのだ。

不意に、異様な重力が体にかかった。デススティンガーの腕に掴まれ、持ち上げられたのだ。
十分に距離は離れているはずだった。しかし、凶戦士は腕を伸ばして無理矢理掴んだのだ。
必死にリッツは操作をしようとしたものの、首を掴まれたブレイカーはびくとも動かない。
ふっ…と体が浮くのを感じた瞬間、リッツの意識は遠くへ飛ばされたかのように失われた。

119 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:17:32.78 ID:???.net
38.憎悪の対象

デススティンガーは力任せに右腕を振り下ろし、ジェノブレイカーを地面に叩きつけた。
轟音が鳴り響き、地面の残骸と、焦げ跡の残るフリーラウンドシールドが宙を舞った。
ブレイカー自体も、地面に直接叩きつけられた左半身が無残に拉げ、潰れていた。
共和国追撃部隊をたった一機で薙ぎ払い、味方からも、高すぎる戦闘能力から
「魔装竜」と呼ばれていた機体すらも、凶戦士にとっては赤子同然だったのだ。

「ふふふ…あっはっはっはっはっは!」
ウエストは、ただのガラクタになり下がったジェノブレイカーを見て、急に笑い出した。
アリの巣を根絶やしにした時のような、妙な充実感や高揚感が湧いてきたのだ。
この感覚がずっと続けばいい。この感覚に浸っている時こそが、自分には幸せに感じられる。
彼は自分自身にそう言い聞かせながら、遺跡全体に響き渡るほどの声で笑い続けた。。

だが、思わぬ方向から、彼の至福の瞬間を邪魔する者がいた。
ちょうど自身の左側から非常に鋭い殺気を感じ、ウエストはそちらに目をやった。
殺気の主はまだ生き残っていたブレードライガーだ。屈んでいるのか、パイロットが見え…
そこでウエストは、ブレードのパイロットが因縁の相手である事に気付き、はっとした。
それと時を同じくして、体勢を低くしたブレードからショックカノンが放たれた。

「ちぃ!」
正確にむき出しのコクピットを狙った一撃を、左手で掴んでいた棺桶の蓋で防いだ。
蓋の端から崩れた細かい破片がウエストの左頬を裂き、そこから赤い静脈血が滴った。
―化物め!―
この明確な意思を感じた瞬間、蓋の奥から爆発音が聞こえた。ブースターの噴射音だ。
左手の蓋を投げ捨て、怒涛の勢いで迫ってくるブレードライガーとパイロット対峙した。
先ほどよりも間近にパイロットを視認できる…「あいつ」で間違いない!

「お前さえいなければ!」
ウエストは、ずっと探し続けていた憎悪の対象を目の前にして、こう叫んだ。
そして、彼は秘めていた怒りや憎しみを込めた渾身の一撃を、ブレードに叩きこんだ。

120 :忌むべき者たちの悲哀39.刺し貫く一撃 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:19:27.44 ID:???.net
バリンという金属が裂ける音がした瞬間、伸ばした尻尾がブレードライガーの腹を貫いた。
強力無比なその一撃は、時速300キロで突進してきたブレードを正確に捉えたのだ。
さらに驚くべきは、金属を裂ける音は、ブレードを貫く前に鳴っていたという事実だろう。
後に回収されたデススティンガーは、尾部装甲が裂けるようにひび割れていたそうだ。
しかし、その損傷は外敵によるものではなく、凶戦士自身によるものだったのだ。

文字通り串刺しされたブレードだが、瀕死の重傷を負いながらも、戦意は失わなかった。
左脇のブレードを展開し、先端のパルスレーザーガンをウエストに向けたのだ。
だが、ありえない反応速度を寸前に見せつけていた彼が、これに気付かないわけがない。
すぐさま右腕を振り上げ、左側のアタックブースターとブレードを破壊し、
続けざまに、左腕から強烈なアッパーをブレードの顎にぶかましてやった。
この衝撃により尻尾から引きはがされたブレードは、ボールのように跳ね転がり、
先にガラクタになったジェノブレイカーにぶつかった所で、ようやく止まった。

「ああ、化物で悪いねぇ。でも、お前らよりも遙かに上等な化物なんだよ。」
ウエストはこう勝ち誇りながら、荷電粒子砲のチャージを開始した。
チャージをしている隙だらけの状況でも、2体はぴくりとも動かなかった。
むしろ、左半身を破壊されていたり、腹に風穴を空けられてなお動くほうが異常だろう。
チャージはつまらないほど順調に終わり、彼は荷電粒子砲のトリガーを引いた。
眩い光が一直線に伸びていき、2体の体を瞬く間に呑み込んでいった。

二か月前…デススティンガーの覚醒と共に、ウエストは人として生きる事を諦めていた。
まさに外道と呼べる所業を躊躇いもなく行い、それに愉悦すら感じていた時もあった。
故に、元より人である事を自分で否定した彼にとっては、化物というのも褒め言葉だった。
技術総督であるドクトルFは、「人に御せぬ悪魔」とデススティンガーを評していたが、
その評価は誤っていた。ウエストはデススティンガーを御する事が出来たからだ。
しかし彼は人である事を自分で否定し、「悪魔」、そして「化物」と化した。
その結果、ドクトルFの評価は正しくなってしまったというのは、皮肉な話である。

121 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:21:01.74 ID:???.net
40.雪辱の刻

荷電粒子砲を発射してから、5秒、10秒と時間は経過していった。
だが、未だにブレードライガーとジェノブレイカーの影が消し飛ぶ気配がなかった。
ブレードの展開するEシールドが、荷電粒子砲を拡散させしていたのだ。
あと一歩の所でとどめが刺せない…ウエストの心の中には、もどかしさが募っていった。

「あんな死に損ないにすらとどめを刺せないのか。やっぱり荷電粒子砲なんか要らないな。」
苛立ったウエストは、左手を叩きつけながらこう言った。
荷電粒子砲の劣化は激しかった。実戦での最初の砲撃では、共和国の重砲部隊を壊滅させた。
しかし、この日の最初の一発も、今放っている一発も、その時の威力には遠く及ばない。
それでいて、この一発が今出せる最大出力ときたものだから、腹が立って仕方がなかった。

「こんなポンコツよりも、もっと強くて、もっと相手に苦痛を与えられる武器があれば…」
荷電粒子砲の光が減衰していく中で、ウエストはこのような事を思っていた。
自分の一生を台無しにしてくれたブレードを、確実に、かつ惨い方法で殺したい。
彼のその強い思いに呼応するかの様に、デススティンガーの眼は、強く輝き始めた。
ひび割れた背甲がさらに蛇腹のように割れていき、そこに無数の管が張り巡らされた。

「流石だよ、デススティンガー! これならいける!」
ウエストは、デススティンガーの行った「進化」に感謝し、思わず喜びの声をあげた。
新たに造りあげたその武器は、彼の望んだ「確実、かつ残酷に殺せる武器」だったからだ。
その進化をしている隙にブレードが荷電粒子砲を物ともせず、こちらに向かってきた。
弱体化した荷電粒子砲では、死に損ないのブレードを止めることすら出来なかったのだ。
爪を振り上げ、コクピットを潰そうとする一撃が迫る…だが、ウエストは笑っていた。
なぜなら、憎み続けていた男を、やっとこの手で惨殺できると確信したからだ。

122 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:21:39.91 ID:???.net
41.決着の刻

ブレードが今まさにコクピットを潰そうとした瞬間、振り上げた左腕が吹き飛んでいった。
進化したデススティンガーの背中に出来上がった管から、針のように鋭い光が放たれたのだ。
たった一本の細い光が、Eシールドを紙きれのように貫き、ブレードの腕を切断した。
しかも、放たれた光は一本ではない。数十、数百もの光が続けざまにブレードに襲いかかり、
右手、胴体、そしてコクピットと、ブレードの体をばらばらに、ぐちゃぐちゃにしていった。
持ち主を失った操縦桿が吹き飛ぶ様を見ながら、彼は狂ったように笑い続けていた。

「あっはっはっはっはっは! お前なんか、消えて無くなれ!!」
ウエストはそう叫びながら、事切れていたブレードとパイロットに、更に光を叩きこんだ。
無数の光がブレードの残骸を貫いていき、上半身は瞬く間に粉々になっていった。
残った下半身も勢いを失い、穴だらけになりながら、がらがらと音を立てて崩れていった。

「もう、これで誰にも馬鹿にされなくて済むんだ…」
破片状になった「ブレードだったもの」を浴びながら、彼の心にこのような思いが芽生えた。
高速ゾイドに手も足も出ない「欠陥品」の汚名を着せられてからは、毎日が苦痛だった。
戦功の奪い合い、人種差別、戦況の悪化…それらで募った不満のはけ口にされた。
その中でも彼は、いつ来るかも分からない名誉挽回の機会に希望を見出しながら生きてきた。
そして今、彼は因縁の相手に勝利した。耐え忍んできた日々が報われたのだ。

ブレードを残骸の奥から、急に真紅の機体が目の前に飛び出してきた。
最初に仕留めたと思い込んでいたジェノブレイカーが、こちらに突っ込んできたのだ。
その右腕には、レーザーブレードがしっかりと握られている。
動きは傷ついたブレードよりも遙かに速かったが、捉えるのは不可能ではなかった。
ジェノブレイカーの腹のコクピットとコアを破壊さえすれば、突撃は止められる…
このように察したウエストは、すぐさま右腕をジェノブレイカーの腹にぶち込もうとした。

だが、右腕を振り上げた瞬間、ウエストは気付いてしまった。
ジェノブレイカーのパイロットが、ずっと憧れていたリッツ中尉である事に。

123 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 22:23:22.92 ID:???.net
42.心か体か

「お前は欠陥品なんかじゃない。少なくとも俺は、お前も普通の人間だと思っている。」
ウエストは、自分が「欠陥品」と皆に扱われているという事をリッツ中尉に問い詰められ、
それを打ち明けた時に、こう言われた事があった。
彼はリッツに接する時も、欠陥品扱いされている事をずっと隠していた。
この事実を知ってしまったら、もう口すら利いてくれないだろうと思っていたからだ。
だが、これを知ってもなお偏見を抱く事もなく、リッツはこのように言ってくれたのだ。
ウエストは嬉しかった。言葉に出来ない程に嬉しかった。
軍では彼の事を普通の人間として扱っている人間は、リッツを含めごく一部だったからだ。
これを機に、彼のリッツへの憧れはさらに加速し、より強烈なものとなっていった。

ジェノブレイカーに遭遇した時は、最初こそ別人が乗っていると思っていた。
戦いが本当は嫌いなリッツ中尉が、ここまで戦いに夢中になっているはずが無いからだ。
しかし、ジェノブレイカーが突っ込んできた時、ウエストに意思が流れ込んできたのだ。
ジェノブレイカーから流れ込んできた意思…それは、リッツのものだ。
それも、己を盾にして散ったブレードとパイロットに報いようという、強い意思だった。

ウエストは何度も「理解者との別れ」を経験し、その度に心に大きな傷を抱えていった。
これ以上傷つきたくないという本能から、人と必要以上に距離を置く事も少なくなかった。
変な希望を抱くよりも、最初から希望など抱かず、漠然と生きればいいとも思い始めた。
しかしそう思いながらも、心の底では自分を理解してくれる者に渇望していたのだ。
故に、自分を理解してくれたリッツへの思いは、並大抵のものではなかった。
その思いの強さは、どんな辛い仕打ちも、リッツの事を考えれば耐えられた程だった。

ジェノブレイカー…リッツさえ殺してしまえば、ウエストは生き延びる事が出来た。
しかし、リッツは彼の心の支えだった。殺してしまえば最後、自分の心が壊れるのは明白だ。
自分の心を壊さなければ、自分の体は壊れる…この選択肢は、どちらも選び難いものだった。

心か体か…最期にウエストが選んだ方は、本書が記されていることで分かるだろう。

124 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/09/30(金) 23:55:14.96 ID:???.net
43.暁の光を浴びて

東の地平線から差す陽光が、レッドラストの砂礫と無数の残骸を赤く染めあげていった。
ここがレッドラストと呼ばれる所以であるこの現象は、短い夜が終わった事を意味していた。
この夜に最大の激戦地となった「悪魔の寝床」にも、その光は分け隔てなく注がれた。

「済まない…俺には、こうする事しか出来なかった。」
リッツは、目の前に佇むデススティンガーに、まるで謝罪でもしているかのようにこう言った。
デススティンガーのコクピットには、レーザーブレードが深々と突き立てられていた。
それは、リッツが凶戦士…「真・オーガノイド」に勝利した証である。
しかし彼の心には、勝利したにもかかわらず、罪悪感のようなものがこみ上げてきた。

デススティンガー…ウエストにとどめを刺した時に、彼らの思いがリッツに流れ込んできた。
それにより、リッツはデススティンガーとウエストの事を「知ってしまった」。
彼らは、人間の所業によって心を捻じ曲げられ、やり場のない憎しみを抱き続けていた。
その憎しみによって、さらに心が歪んでいく事にすら憎しみを持つようになっていたのだ。
リッツは悟った。彼らも、自分とブレイカーとそう変わらなかったと。
憎悪の根底にあるものが、人間とOSという違いがあっただけだと。

それと同時に、西側の山間から巨大な雷が落ちたかのような閃光と轟音が走った。
非常に遠くから発せられながらも、大地と大気の震えが、ここからでも感じ取れた。
これは、ウルトラザウルスがニクシー基地の攻撃に成功した事を意味していた。
彼が一週間ほど前に出撃したのは、決してブレードやデススティンガーを倒す事ではない。
ウルトラザウルスを破壊し、共和国によるニクシー基地攻撃を止める事に他ならなかった。

この作戦は、帝国の命運を賭けた「絶対に遂行しなければいけない作戦」であった。
しかし、自分は任務を放棄して、ブレード…そしてデススティンガーと戦った。
そして帝国を救う事も、ブレードとそのパイロットとの決着も付ける事も出来なかった。
例え、この結果に至るまでに様々な紆余曲折があったとしても、許される事ではない…
戦いの中、一人だけ生き残ったリッツは、このような後ろ向きな思考を巡らせていた。

125 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/10/01(土) 06:18:11.51 ID:???.net
44.託された使命

遠方からの轟音だけが鳴り響く中、ジェノブレイカーが「悪魔の寝床」に向かって吼えた。
咆哮には怒り、憎しみが強く込められており、その矛先は、小さな命へと向けられていた。
朽ちた遺跡の中で蠢く、デススティンガーの幼体に。
幼体はキィキィと小さく甲高い声で鳴いていた。目の前のブレイカーに怯えていたのか、
はたまたデススティンガーの死を悲しんでいるのかは、今となっては定かではなかったが。

「ブレイカー!」
リッツはすぐにブレイカーの方に振り向き、制止しようと叫んだ。だが、遅かった。
振り向いた時に目に映ったものは、荷電粒子砲特有の光が遺跡を呑み込む様…
リッツはやるせなかった。ブレイカーの行ったこの行動は「正しい判断」であったからだ。

幼体に罪は無かった。しかし、成長したらどうなるか…予想によっては最悪の事態もあった。
「親を殺された幼体が、復讐のために人間を殺戮する」可能性も、否定は出来なかった。
生かせば未来へ禍根を残す事になる…だからこそ、ブレイカーを咎める事も出来なかった。
それにこの行動は、おそらくブレードとパイロットも望んでいた事だったと思ったのだ。
そうでなければ、デススティンガーと戦うという危険な事などせず、退却していただろう。
愛機が致命傷を負っていたとしても、敵に後を託すように、自ら盾になる事もしないはずだ…
そう思いながら、これで良かった。これで正しかったと自分に言い聞かせていた。

自分の憶測が正しいのかを問うように、リッツはブレードライガーの残骸を振り返った。
ガリル遺跡で戦いを繰り広げてからというもの、その姿が頭から一度も離れる事は無かった。
赤い紋章を付けたブレードをずっと追い求めるようになり、戦いにものめり込んでいった。
そうなったのは、自分がOSのせいで戦闘狂になってしまったからだと思い込んでいた。
だが、今ならその真の理由が分かる。ブレードのパイロットに、自分は魅せられたのだ。
敵に心を奪われるというのは、ただ敗北するよりも、遙かに屈辱的な事であった。
相手への勝利によって事実を否定するために、自分の意思で更なる戦いに身を投じていた…
結局のところ、劣情に満ちた戦いを正当化するため、自分はOSを言い訳に使っていたのだ。

126 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/10/01(土) 06:19:02.28 ID:???.net
45.新たなる決意

ジェノブレイカーのコクピットに戻った時には、リッツの心の整理は既についていた。
軍人の地位と名誉、名も知らぬ好敵手、自らを慕っていたウエスト…失ったものは多かった。
だが、それでもなお、彼は途方に暮れる事も、絶望に苛まれる事も無かった。
心に誓った「OS計画を止める」という決意が、彼を心の底から支えていたからだ。

デススティンガーと戦っていた時…奴を倒せば、ブレイカーが報われると思っていた。
おそらくブレードとそのパイロットも、同じような事を感じていたとも思っていた。
しかし、デススティンガー…真・オーガノイドを倒しても、報われる事は無かった。
実際にブレイカーは、自らを狂暴に変質させたOSに、未だに苦しみ続けている。
その事は、ずっとブレイカーに乗り続けていたリッツにも当然伝わってきた。

そして、自分が殺したデススティンガーとウエストもまた、「犠牲者」だった。
デススティンガーは、人間によって意図的に歪められて生み出され、無慈悲に捨てられた。
ウエストは、人間に負の感情を一方的に背負わされ、あらゆる物に絶望し、歪んでいった。
想像を絶する所業に苦しんだ末に彼らが起こしたのが、二か月前から続く惨劇だったのだ。
だが、悲しい事に、この真実を知る人間は僅かしか存在しない。
故に彼らが「忌むべき者」として、死後も報われる事無く、貶められ続ける事は明白だった。

失ったものを取り戻すことは出来ない。だからこそ、決意はより強固なものになっていた。
OS計画を止める事で、ブレイカーがOSから解放されるという確証はない。
しかし、計画を止められれば、未来のOSの犠牲者を救う事は出来る…
そう思ったリッツは、力一杯操縦桿を握りしめ、ブレイカーを始動した。

「行こう、ブレイカー!」
リッツのこの呼びかけに応えるように、ブレイカーはブースターを全開して飛び立った。
本当にOS計画を止めることなど出来るのか…それは、彼自身でも分からなかった。
だが、彼は絶対に止めてみせると、心に誓っていた。
この決意を決め込んだ自分のためにも、この戦いで散っていった者たちのためにも…

127 :忌むべき者たちの悲哀 ◆5g5J3l35.. :2011/10/01(土) 06:25:32.72 ID:???.net
番外.反響

ZAC2111年、この短編小説は発刊と共に世界各地に衝撃を与えた。
今まで知りえる事の出来なかった、凶戦士と当時の軍についてが生々しく記されており、
ガイロス帝国では、一次はこの短編小説の回収まで行われるという騒ぎも起きた。
しかし、その騒ぎの鎮静化に比例するかのごとく、内容についての波紋が広がった。

冒頭では「我が共和国」と記されているにも関わらず、視点が終始帝国側である事。
視点となるの人物のうち、ヴァルター曹長(現職 特務曹長)とアンダーソン少佐(現職)、
ドクトルOことのオーピス・ケロネー(指名手配中)以外が死亡、または生死不明である事。
また、最も視点が重視されたウエスト二等兵に至っては、それらしい人物のデータが
完全に帝国軍のデータベースからも見当たらなかった事が疑問点として挙げられた。

様々な憶測や研究、考察を経て、最も有力とされたのが「架空の小説」という説であった。
死者が筆を走らせたとしか思えぬ内容が、なぜ記されてあるか解明できなかったからだ。
しかし、納得のいかない者もおり、「あの世から送られてきた本」説なども浮上していた。
さらに天の邪鬼な者は「帝国の行った情報操作」説を唱える者もいたという。

多くの論争の中、この本の疑問が解決されたのは、ZAC2113年の事だった。
そのきっかけは、ZAC2100年代に南エウロペで起きた「ある事件」だったという。

128 :名無し獣@リアルに歩行:2011/10/02(日) 11:09:26.06 ID:???.net
定期age

129 :名無し獣@リアルに歩行:2011/11/01(火) 23:05:22.76 ID:???.net
定期age

130 :名無し獣@リアルに歩行:2011/11/25(金) 11:42:11.71 ID:???.net
復旧test

131 :名無し獣@リアルに歩行:2011/12/01(木) 19:13:15.66 ID:???.net
定期age

132 :名無し獣@リアルに歩行:2012/01/01(日) 01:45:59.31 ID:???.net
定期age

133 :名無し獣@リアルに歩行:2012/02/01(水) 09:26:02.09 ID:???.net
定期age

134 :名無し獣@リアルに歩行:2012/02/01(水) 20:59:35.79 ID:???.net
定期ageより新作キボn

135 :名無し獣@リアルに歩行:2012/03/01(木) 00:13:00.78 ID:???.net
定期age

136 :名無し獣@リアルに歩行:2012/04/01(日) 19:01:22.57 ID:???.net
定期age

137 :名無し獣@リアルに歩行:2012/05/01(火) 00:14:42.66 ID:???.net
定期age

138 :名無し獣@リアルに歩行:2012/05/03(木) 06:49:22.84 ID:hLDD53bC.net
ハーマン
「くっ、離脱する! ハマシュート!」

139 :名無し獣@リアルに歩行:2012/06/01(金) 09:15:51.73 ID:???.net
定期age

140 :名無し獣@リアルに歩行:2012/08/26(日) 08:35:20.60 ID:wCAHZBZQ.net
定期AGE

141 :名無し獣@リアルに歩行:2012/11/23(金) 11:10:07.94 ID:J4+ArVq2.net
あげとく

142 :名無し獣@リアルに歩行:2012/12/23(日) 09:18:36.61 ID:rbTWxreT.net
天長節あげ

143 :名無し獣@リアルに歩行:2013/01/11(金) 19:18:19.54 ID:nSzGArex.net
おもしろかった

144 :名無し獣@リアルに歩行:2013/01/12(土) 01:24:52.53 ID:iN1+5aiA.net
しぶる女が男を食べようとしてもめているから近くで爆撃してみた。

145 :名無し獣@リアルに歩行:2013/01/15(火) 03:16:00.30 ID:Jg3SKEq7.net
空戦ゾイドメインのバトストって無いんだろうか?

146 :名無し獣@リアルに歩行:2013/01/27(日) 09:56:12.06 ID:CU5Ye+UR.net
>>145
「ゾイド 天馬の翼」でggr

147 :名無し獣@リアルに歩行:2013/10/27(日) 13:17:29.96 ID:/WsIWOOQ.net
あげとく

148 :名無し獣@リアルに歩行:2013/10/27(日) 19:38:04.55 ID:???.net
ハーマン
「く、くやしい!でも、離脱しちゃう!」

149 :OS新説と超国家キマイラ:2013/11/06(水) 20:20:02.26 ID:???.net
 OSとは夢の技術であった。絶滅種の復活、ゾイドの性能強化が容易でありながら、
投入コストも決して高くはない。共和国と帝国は、こぞってOSの導入を行った。
済し崩しに両軍の主力をOS機に塗り替えていった事からも、その優秀さが伺える。
しかし、操縦性の低下、パイロットへの悪影響などの問題が明るみに出たため、
研究は頓挫し、完全野生体や多用途汎用機、BLOXへと主力は変化していった。
特にデススティンガー暴走は、研究中止を決断させるのには十分すぎるものであった。
仮に、アーサー・ボーグマン大佐(生前は少佐)の勇気ある行動がなければ、
ZAC2101年末までに惑星Ziは死の星と化していたという試算も出たのだから。

 これらの事例と代替技術の存在からか、研究者はOSに対して冷ややかだ。
OSを危険な技術、無用の長物、時代遅れと切り捨て、罵る者も多いという。
だが、彼らは「OSとは何たるか」を理解していない。むしろ放棄していると言える。
彼らは「危険な技術など研究する必要が無い」とほざくものの、それは所詮建前であり、
本当は勇気がないだけなのだ。底が見えぬ深淵を覗き込むような勇気が…

 OSを搭載機がパイロットに悪影響を及ぼす理由については、実際に解明されている。
「OSにより凶暴化したゾイドは、スペックこそは優秀なものの、制御は難しくなり、
従来の機械的な操作だけでは能力を引き出せないうえに、操縦性までも低下する。
そのため、パイロットとゾイドの精神をリンクさせ、操縦性の底上げを図ったものの、
ゾイドの凶暴性にパイロットが逆に同調する現象が発生してしまった。」というものだ。

 確かにこの解説は正しい。パイロットの証言や実例からも納得がいく。
しかし、「OSが何故ゾイドを凶暴化させるのか」という大事な部分が欠落している。
それを解明せずともOSの危険性は語れるが、それでは研究者…もとい腰抜けと同じだ。
「OSが何故、精神リンクを行って操作をするパイロットに悪影響を及ぼすのか」を
完全に理解してこそ、私は、初めて報いれるのではないかと思う。
事実に目を向けようとしない腰抜けどもによって、OSを植え付けられたゾイドに…

150 :OS新説と超国家キマイラ:2013/11/06(水) 20:21:08.13 ID:???.net
 この新説は、OSの原理の「欠けたピース」…先述のメカニズムの謎を埋めるものだ。
人間の脳内分泌物質や、ゾイド因子の関係などの部分を省き、噛み砕いて解説しよう。
「OSはゾイド核を活性化させると同時に、ゾイドそのものを改変する。
主に気性などゾイドの感情を司る部分を好戦的に改変し、凶暴性を向上させる。
また、身体的にも別の生物、特に近似種の特徴を持たせる作用が働く場合がある。
しかし、ゾイド自身は改変に反発し、人間の憎悪にあたる感情を著しく増大させる。
この感情がゾイド核とOSの作用を活性化させ、ゾイドをより凶暴にする。」
…長くはなったものの、大体の内容はこのような形になっている。

 一言で言えば「OSは、ゾイドに憎しみの増幅機関を植え付ける」という内容だ。
だが、この新説に如何ほどの価値があるのかと疑念を抱く者もいるだろう。
そのような者にも分かりやすいように、OSの通説に点在する空洞を見てみよう。

@「OSが何故ゾイドを凶暴化させるのか」
AOSの「欠けたピース」とは、本当に「小ゾイド」なのか
Bそもそも、OSの紀元とは何なのか

 以上の通り、通説に存在する空洞は、大きなものだけでも3つある。
しかし、この新説を用いて解説すれば、3つの空洞を一つにできるのだ。
@については上述した通りであり、即ちOSの作用をこれで解明したことになる。
すると、作用を理解することによって、Aも自ずと答えが見えてくるだろう。
OSには、「ゾイドに憎しみの増幅機関を植え付ける」作用があるのだから。

 つまりOSは、欠けているように見えながら、それで既に完成しているのだ。
力を引き出すために、回転機器の如く憎悪の連鎖を繰り返しているのだから、
加速し続ける回転を制御する…即ち制御性、操作性など元から考慮してなどいない。
そもそも、それらを答えとして求めること自体が筋違いであったのだ。

151 :OS新説と超国家キマイラ:2013/11/06(水) 20:23:12.24 ID:???.net
 続けて、Aについての説明を行おう。これは視点によって答えは異なる。
仮に、制御方法を「欠けたピース」としたのならば、小ゾイドは答えとして正しい。
だがリミッターを設けることでも、制御するという目的を果たす事はできる。
それでも「OSを最大限に発揮させながらも制御する」というワガママを通すなら、
OS機と向き合える器を持つ乗り手を探す事が、答えに最も相応しくなる。
しかし「エースパイロットでも10人に1人」の乗り手を探すのは、非現実的だ。
小ゾイドならば、制御、強化、現実性をバランスよく持ち合わせてはいるが、
代わりに「制御装置としてゾイドを犠牲にする」ことを強いている…
こうして、「完璧を求めるのは筋違いだった」という真理が、おのずと見えるだろう。

 Bについては、最近発掘された古代文明が関係しているとされる。
勢力圏は南エウロペから西エウロペ、北エウロペの一部まで全盛期はあったとされており、
その文明では、古代人が多数のゾイドを従えていたことが確認されている。
また、オルディオスのような合成ゾイドの研究についての碑文も発掘されたことにより、
地球人の逸話で出てきた合成獣から名前を取り、この文明を「キマイラ」と呼ぶことにした。
キマイラは南エウロペ発祥といわれており、エース山脈やガリル高知の遺跡も
キマイラの時代に建造されたとされ、双方ともにオーバーテクノロジーで話題を集めた。
反面、北エウロペでは高度な遺跡はほとんど残っておらず、碑文も欠落したものばかりだ。

 その理由は、全盛期を迎えてからの驚異的な勢いで衰退した可能性が高い。
一説によると、ボーグマン大佐の最後の戦地であるレッドラストに存在していた
「悪魔の寝床」と呼ばれる遺跡にそのヒントがあったとされるが、戦争により焼失。
現在は、ZAC2100年に大虐殺を起こしたという、にわかに信じがたい事を語り
南エウロペ連合に自首した男「レナート・イリス・エストマン」の証言と、
各地に点在する逸話を重ね合わせ、探っていくしかないのが現状だ。

152 :OS新説と超国家キマイラ:2013/11/06(水) 20:25:54.97 ID:???.net
 レナートの話を戯言だと貶める人間も多い。だが、誤解を解くためにひとつ記しておこう。
今回のOSの新説を発表したのは、ガイロス帝国兵器開発局技術少佐の「ヒューガ・キンケル」
ではあるが、根拠は曖昧ではあったものの、最初に提唱したのがレナートであると。

〜ZAC2113年1月14日、南エウロペ連合少佐、ユーリ・ネッツァーの論文より抜粋〜

153 :名無し獣@リアルに歩行:2013/11/07(木) 11:38:53.14 ID:???.net
久々に新作来てるのでage

154 :名無し獣@リアルに歩行:2013/11/07(木) 11:39:54.30 ID:???.net
sageのクッキーまたかよ。再度age

155 :ギンコ ◆BonGinkoCc :2014/01/26(日) 09:54:27.70 ID:???.net
ギンコ
「L.C.L注水、神経回路接続、シンクロスタート…。
ん?まずい…。

思考ノイズだよ。化野、邪魔しないでといっただろ。
あんた、日本語で考えているだろ。ちゃんと、蟲言語で考えてよな。

もういい。思考言語は日本語をベーシックに設定。
エヴァンゲリオン十四号機、完全起動。

シンクロ率が30%台を切っているからきついが、
化野を乗せているから無理も無いな…。」

化野
「でも、十四号機の電池がないんじゃないか?残り50秒だし…。」

ギンコ
「こういう時のために、アンビリカルケーブルがあるんじゃないか。
アンビリカルケーブルを接続して、外部電源に切り替えれば済むことだ。」

総レス数 155
186 KB
掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
read.cgi ver.24052200